１

正岡絵というには、２つの顔がある。

１つは、冷徹かつ狡猾に犯罪者を追い込む猟犬ハウンド。市民たちが信頼を寄せ、世の犯罪者たちが震え上がる。絵自、この顔を最も印象づけたがっている。彼の超自我スーパーエゴの象徴だ。

対して、源や木佐相手には、彼は別の顔を見せる。

強大で絶対的な力彼らに自を庇護対象と認識させ、そのアイデンティティに潛り込み、自を必要な存在と認識させて主導権イニシアチブを握り、いつしか統べてしまう。

そうしてその力を傘に著て、周囲も率い出す。正に虎の威を借る狐。強かで小狡く、自ら手を汚そうとしない策謀家の顔だ。

「だが俺たちはそれに気づきもしない。あのは弱味の魅せ方を心得ている。アイツと肩を並べている時、彼を護っている気分になるのはそれでだ」

木佐の語る絵の姿は、さながら権謀數に長けた師のようだ。その察は、ある意味では正しいのかもしれない。

しかしながら、正直なところ、源は笑いを堪えるのに必死だった。

「へぇテメェには絵がそぉ見えてんのか」

源の目に映る絵は、し違う。

否、ある一點においては大きく違う。

「絵アイツはそんなタマじゃねぇ。確かにテメェの言ぅ通り、周りを道みてぇに使うこともあるが、そんなもんはアイツの數ある手の１つでしかねぇ」

源の知る正岡絵は、どんなに絶的な狀況であろうとも、金の鎖に手をばす意思を持っただ。たとえどれだけ彼我の差が絶的に開いていようと、自らのアンテナを最大限に張り巡らし、あらゆる手を用いて切り崩すジャイアントキラーだ。

「アイツはダビデだ。俺やテメェみてぇなゴリアデには出來ねぇアプローチでことをす。人間の人間たる所以を現するだ」

だから、源は絵が信じられる。

かつて人が文明を築き、野生の脅威に立ち向かったように、源は絵の手の１つとなって薔薇の棘を摘むと決めた。