《T.T.S.》FileNo.4 『Sample 13』 Chapter 2-8
8
~2176年12月23日PM9:30 ダラス~
殺風景な闇の荒野に、不可視の軍隊が整列していた。
P.T.T.S.CTU北米大陸セントラルタイム部隊はすべての裝備を整え、突の合図を待っている。
待機すること30分。
まだ突の號令は下りていなかった。
「おいホセ、いつになったらくんだ?」
の気の多い魁好きのエリカが今にも発しそうに口を尖らせる。
だが、それはホセ本人も同じだった。
「エリカ、命令だ!落ち著け!……くそ、どいつもこいつも勝手な事ばっか言いやがって」
45分前。
「おぃホセ、あと斥候組!新報だ。こっち來い」
作戦開始時間が近づき、迫に張り詰める作戦本部に、突如T.T.S.の男たちが戻った。
すぐにホセと斥候チームを呼び出した彼らは、開口一番衝撃的なことを口走る。
「地元アセンズの子供ガキの戯言だと思ったんだが、I.T.C.がポイント上空の衛星殘骸スペースデブリを飛び回る電磁波を観測した」
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「ウソだろ本當か?俺たちだって層圏のチェックはした。そんな痕跡は見つかってないぞ!」
源の予期せぬ報に耳を疑うホセだったが、ペストマスクのギルバートが靜かに補足する。
「どうもTLJ-4300SH のプログラムを組み込んだAIを、まだ生きてる機パーツの中に飛び回らせてるらしい。送信元は別の時間という事だな」
「ちょっと待て!それじゃ対処のしようが」
「落ち著け。俺らが何とかする」
ホセの言葉を遮り、源は己のをトントンと叩いた。
「だが、さすがに時間かかっからよ。作戦開始を1時間ちょい延ばしてくれ。頼んだぜ」
「ちょっと待」
言うが早く、さっさと姿を消した2人の男は、しかしすぐに一瞬だけ姿を現した。
「あぁそぉだ。救援資の伝票が屆くからサインしといてくれ。あとコレ、借りてくぜ」
放質を視覚的にマーキングするゴーグル型のガイガー=ミュラーカウンターを片手に掲げてプラプラ振る源に、ホセはまだ訊きたいことが沢山あった。
「だからちょっと待……クソが!好き勝手にきやがって!」
そんなホセの苛立ちを気にもせず、T.T.S.たちは再び姿を消した。
それきり、彼らは姿を現さない。
「チクショウあいつら、どこ行きやがった」
「……おいホセ、空見ろよ。何だアレ?何が起こってんだ?」
「あ?……ヤツラか」
暗闇が浸食した空が、異常に赤い炎に炙られていく。
音もなく靜かに広がっていく赤い天蓋は、その裾野を延々と広げて行き、やがて100km半徑の空に拡大した。
地上で待機する兵たちは、互いの顔を視認出來るほど強いカンデラの下、ザワザワと騒ぎ立てる。
「落ち著け!上空の偵察衛星を排除しているだけだ!これが終わればいよいよ突だ!各員突撃勢を整えろ!」
「了解イェッサ―!」の大合唱を聞いたホセは、自のWITが呼び出していることに気づいた。
他でもない。源からの通信だ。
「おい!今どこだ?俺たちはいつまでここで待機してちゃいいんだ?」
「上だ!対ショックしろ!」
上空を仰ぎ見たホセは、遙か上空に揺れる赤と緑の発煙筒の明かりを確認して、部隊に號令をかけた。
「総員!対ショック姿勢!」
しかし、今回の「了解イェッサ―!」の大合唱は聞こえない。
凄まじい轟音と衝撃が、その場にいるすべての者の言を覆い隠し、奪い取った。
「悪ぃ、ゲホッゲホッ……さすがに遅くなった」
もうもうと立ち上る濃い土煙の中から、源の聲が聞こえて來る。彼らが何をして來たかは明らかだった。
「打ち落としたのか?全部」
「まぁな。ギルバートがいなきゅ出來なかった」
「君の助けになれたなら幸せだよ」
10分前。
超低空自高速飛行機スワロウエッジから救援資の攜行宇宙服を掠め取った2人は、高らかに跳んだ。
速でかせる腳を持つギルバートの跳躍は、あっという間に2人のを第三宇宙速度に到達させ、層圏へと押し上げる。
地球の引力の影響すら希薄になった世界に到達したら、そこからは源の出番だ。
ソーラーパネルの殘骸に、斷熱タイル、ガラス片に鋲にネジや金屬部品。
宇宙空間は投擲に事欠かない。
「まずは1機」
手頃な斷熱パネルを摑んだ源は、廃棄された気象衛星に向けて思い切り投げ抜いた。
等速直線運が約束された世界で、は重力の枷を外されて理式の下僕になる。
宇宙線によって脆くなった部分に的確に投擲を當てる源の技は、宇宙空間でも狂いなくその威力を発揮した。ベクトルに従い、直線で突き刺さった斷熱パネルは、気象衛星をバラバラに吹き飛ばす。
投擲の反作用で後転を始める源のを、ギルバートがそっとけ止め、別の一機を指示する。
「2機目だ」
層圏ツアーに使われていた宇宙船の殘骸は、計の部品によって四散した。
ガイガー=ミュラーカウンターで互いの被曝量を確認し合いながら、源とギルバートは僅か15分で507機を吹き飛ばす。
かくして、層圏の大型衛星殘骸スペースデブリを排除したT.T.S.は、地上に舞い戻った。
「ホセ、悪ぃけど何か車輌貸してくれ。突前にちょい疲れた」
煙草に火を點け、味そうに一服吸い込んだ源が遊び疲れた子供のように朗らかに笑う。
憎たらしいその姿に、ホセは苦笑と共に答える。
「構わんが煙車だ」
「あぁ、そぉ」
拗ねたようにそっぽを向く源が、どこか子供っぽく見えて、ホセはほんのしだけ彼に親近を覚えた。
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