２

ブリ―・ウィリアムズは、天が輝いた直後から、両親や友人たち、街の人々と共に空を見上げていた。P.T.T.S.の警告で避難所に向かう道すがらのことだ。星空を呑み込む閃は、帳の下りた深い時間にも関わらず互いの顔が視認出來るほどに強烈で、みんなが目を丸くする。

『……これもアンタたちの仕業なの？』

しくも恐ろしい鮮烈な景を前に、何故かブリ―の脳裏には２人の男の姿が過っていた。ポニーテールの褐と、ペストマスクの男たち。ミステリアスで印象的な彼らとの遭遇は、彼の心に深く刻まれた。

『もしそうなら助けてよ！』

街のみんなが噂していた、郊外の妙な工事現場。

昨日まで子供だったブリ―にはどうでもいい話題だったが、レディーとなった今は重要な問題だ。

『アンタたちとアレが関係してるんでしょ？』

平時のこの時間だったら闇に包まれている荒野は、煌々と輝く天に照らし出されていた。

その中を、流星が走って行くことに、果たして彼は気づけただろうか？

いかなはじめ源とエリカ・リグスビーが駆る速攻用裝甲車は、ドラッグレース用エンジンの唸りに鼓をぶち破られそうになりながら、音速に達する速度で走行していた。

彼らの役目は、導と掃討。音に近い高出力のエンジン音や車輌上部に追加された発煙筒機能は、衆目を集めるためだけにある。

「どぉだエリカ、ゴキゲンか？」

「うぉ、ぁ……當たり前だ！」

余裕はなくとも、自をニヤニヤと観察する源を睨み返す元気はある。エリカのそんな様子を見て、源は改めてアクセルを踏み抜いた。

時折小さく悲鳴を上げながらも、何とか適応しようとするエリカの心意気は無駄に出來ない。

「っし、ならガンガン潰してこぉぜ」

「お、おぅ……ぅあああ」

走行方法を車から反重力浮遊に変更した速攻用裝甲車は、俯せに寢そべる２人を更なる速度に導いた。

「ぉぁ……ぉ、お前ワザとやってるだろ！」

「今更気づいたんか？どぉする？死んでもいぃなら降ろしてやんぞ？」

「クソ！舐めんな！」

源の煽りに乗せられたエリカは、車上部の浮遊砲臺ファンネルを展開させる。

日本のサブカルチャーが生んだ突飛な兵は、無數の電磁石から生じる導電流で車上にピタリとり付いたように浮いていた。

部に掛かるＧは跳ね上がったものの、視界のブレが消えた車からは狙いも定め易い。エリカは襲い來るアンドロイドとドローンを正確に潰していった。

源もまた、負けてはいない。

運転席側の銃眼から、宇宙から持ち帰った衛星殘骸スペースデブリの一部を指で弾き、的確に機を潰していた。

だが――

「おい、冗談だろ？」

エリカがくのを聞いて、源は思わずほくそ笑んだ。

彼には、アンドロイドやドローンが自壊していくように見えることだろう。

ギルバートは跳び回っていた。

水を得た魚よりも活き活きと、空を舞う鳥よりも鮮やかに、機械の群れを蹴り飛ばし、投げつけ、宙に飛ばす。

の速さで舞する男は、源とエリカの仕事をどんどん奪っていった。

「隨分はしゃぐじゃねぇか」

脳無線で語り掛けると、ギルバートは浮遊砲臺ファンネルの１つに著地して聲を弾ませる。

「君に頼られたんだ！全力で応えるさ！」

「……そぉかよ」

車窓からギルバートを見上げる源は、指をばしてデブリを出した。首を傾げて回避した相棒バディの後ろで、學迷彩カメレオンを纏って迫っていたドローンがぜる。

「楽しむのはいぃが、浮かれ過ぎんなよ」

「なら手伝ってくれよ。そんなオモチャでチンタラやってないでさ。もう休憩は十分だろ？」

「……わぁったよ。おぃエリカ、コレ降りる時どぉすりゃいぃんだ？」

「はあ⁉そろそろ音速超えるんだぞ⁉なに言ってんだお前⁉」

「ギャーギャー喚くな。出來んのか？出來ねぇのか？」

音速超えの言葉にじない源の表を見て、エリカは怪訝な顔のまま言葉を探す。

「出來、なくはねえけど……」

「よし。どぉすんだ？」

「車を割く・・」

「……へ？」

エリカが空中で指を躍らせる。

車を制するアプリケーションを繰った彼は、やがて車両形態の中から“Separate”を選択した。

《Double SHELLMOに移行。分離中、車両は強制自走行となる。搭乗者各位は脳波車機能の一時スタンドアローンを了承せよ》

アナウンスが問答無用に宣言すると同時に、車の中央に緑のの線が現れる。

「いぃね、面白くなってきた♪」

やがて車は一刀の下に切り伏せられたように真っ二つに別れ、２臺のバイクになった。

「そっちは自運転のままだ！どこへなりと勝手に行け！アタシは止めたからな！」

脳無線でぶエリカに手で別れを告げ、源はロフトを摑んで車上に躍り出る。

休息は、もう充分取った。

ここからは、また超人の時間だ。