４

「……妹？」

源の言葉に、ギルバートのきが止まった。

すかさずその虛を突いたの攻撃を、今度は源が弾き飛ばす。

明確な揺を見せる２人を前に、しかしは躊躇いも間斷もなく攻撃を浴びせて來ていた。

「テンメッ！ちったぁ空気読めや！」

「読むわけないでしょう？何を言っているの？」

「……源、殘念だが彼が正しい。……で？彼が妹ってのはどういうことだ？」

何とか揺を抑え込んだギルバートが戦線に復帰する一方、源の言葉に衝撃をけた別のモノが揺らいでいた。

「源……妹って」

「……」

自らの腕を覆うWITからの問い掛けに、源は歯を食い縛る。橫目にチラリとその渋面を盜み見たギルバートは、僅かな悔しさと遠慮に開きかけた口を閉じた。

「……前に言ったろ。俺を許さなくていぃ。後で好きなだけ訊け」

「……わかった」

短いながらも多分に意味を含んだ會話が、１人の男とAIの間でわされる。

それを聞いていたギルバートの中に悪魔的な発想が湧き上がった。

「源、提案なんだが……」

「ダメだ」

にべもない即答に言葉が詰まるが、現狀の彼我の戦力差と周辺に散らばった瓦礫(パレット)の山を鑑みると、ここで案を取り下げる余裕はない。

蹴りでフォークリフトロボットを砕きながら、ギルバートは一喝した。

「……っ、んなこと言ってる場合か！どぉすんだ！このままじゃアイツに殺られるだけだぞ！」

「……っ」

「源！今すぐ決めろ！逃げんのか　闘んのか　俺ぁまだT.T.S.がどぉくのか知らねぇんだぞ！どぉすんだ！」

源は歯を食い縛る。強く。強く。強く。

そしてく。

「畜生……シオン、テメェぜってぇぶん毆ってやっかんな……」

言うが早く、源は拳を四度叩きつけ、畳返しのようにパレットを立て、四方を囲った。

源も含め、神罰を免れる目Charismavogelperspektiveを持つ者たちには、目に頼り過ぎる悪癖がある。の視界を奪った源は、即座にギルバートにある面を指示した。

「ぶっ飛ばせ！」

「了解！」

源自の手で突破口を自作し、ギルバートの腳で強突破の狼煙ならぬパレットを上げた２人は、即座に散開。僅かに殘るパレットの山に潛った源は、右手に兇運の摑み手ハードラックゲッターを展開させて、ダルマ落としの要領でパレットを飛ばしていく。

一方、ギルバートはフォークリフトロボットを捕まえてはボレーシュートを決めていた。

様々な角度から放たれたパレットによる面制圧と、フォークリフトロボットによる點制圧のコンビネーションによって、流倉庫のようだった地下空間は、足の踏み場もない闇の中に沈んだ。

「で？こっからどぉすんだ　」

「奧だ！どっか分かんねぇけど奧に向かえ！」

「奧はこっちよ」

背後からの聲と蹴りに、兇運の摑み手ハードラックゲッターの防がギリギリ何とか間に合った。蹴りをもろにけた腕が首に食い込み、ミシリという嫌な音こそ聞こえたが、まだ頭はの上にある。

問題は、音速に近い速度で吹き飛び続けるがどこに叩きつけられるかに変わっていた。ここまでの超高速度では、どれだけ質量の小さなものであれ、接すれば無事では済まない。

「源！」

慌てて源を追うギルバートだったが、それこそ正にの中だ。

「本當に出來損いね、貴方たち。話にならない」

吐き捨てるように放たれた言葉と共にに蹴飛ばされて、吹き飛んだ源を追っていたギルバートのは、それ以上のスピードで同方向に吹き飛ぶ。

「クッソ！」

追い抜く形で飛んで來るギルバートの足首をギリギリで摑み、何とか一塊になるべく手繰り寄せる。いかに生兵たる神資質Heilige持ちとて、三半規管までも一朝一夕に超人的にはなりえない。予期せぬ急加速によるＧの負荷で気を失いかけていたギルバートは、その一摑みで意識を取り戻した。

「ギル！投げるぞ！」

「了解！」

すぐ後ろに迫るにギルバートを投げつけ、源は兇運の摑み手ハードラックゲッターの腕をばして壁に手をかけ、減速にかかる。振り返れば、そこでは躰道使い同士の試合のような、ギルバートとの決闘シーンが展開されていた。

ハズだった。

「……ウソだろ」

そこに見えのは、ボロのように撃ち捨てられたギルバートと、再加速したの姿。そのシルエットさえ、もう目の前に迫っていた。

神を摑む手Die Haendeum Gott zu fangenと神を追う足Beineum Gott zu jagenの上位互換たるの存在は、名付けるなら神素Der Leib Gottes。

半端者の源やギルバートとは違う圧倒的な力の差が、どんどん源に迫って來ていた。

「クッソ！」

だが、源とて神を摑む手Die Haendeum Gott zu fangenの持ち主だ。たとえ彼我の戦力差が絶的であろうとも、ヒトとしてその手を振るい、神に対峙することは出來る。

音速に僅かに劣る速度で源と同じ手Die Haendeum Gott zu fanを広げながら迫りくるの首を狙って、源は全力で腕をばした。

マッハの速度で首に食い込んだ腕を回転させ、もう片手も相手の脇の下に差し込んで回す。相撲のの要領で相手をいなしつつ、太極拳の真似事で相手を放る。

だが、の表から余裕が消えることはなかった。

「よく頑張ってるけど、ムダよ」

は空気を蹴った・・・・・・。自のに突き刺さった手よりも更に速く、更に鋭く、大気を蹴って天井との間の空気を圧した。

源の頭上で逆立ちするように頭からつんのめっていたのが、真下に突き刺さるベクトルを得る。

その強い推進力の前に、背後に重心を傾けていた源のは一溜りもなかった。

グッ……と息を詰まらせながら鉄板にめり込む源に馬乗りになって、はトドメの拳を握る。

「さようなら、Sample 9。大したことなかったわ」

『絵、悪ぃ』

の拳が振り下ろされ、それを確認するより僅かに早く、源が死を覚悟した。

その時。

「ヤメテ！」

源の傍らに、もう１人のが顕れた。

その瞬間、場は水を打ったような靜寂に支配された。

源のWITから飛び出した紫姫音は、を真っすぐ見つめながら、今一度繰り返す。

「ヤメテ、源をコロさないで」

神資質Heiligeを持つ３人の超人を、AIが１人で鎮めた。神話の奇跡のような場面がそこにはあった。