《T.T.S.》FileNo.4 『Sample 13』 Chapter 5-3

荒涼という言葉がこれほど似合う地はないだろう。

地下資源こそ富なオーストラリア大陸だが、その地表は広大ながらも、ほとんどが砂漠や巖場ばかりだった。草木はなく、見回したところで低木と雑草が僅かに見えるのみだ。

赤い砂ぼこりと沸く炎と乾燥と高溫とハエの群れ。

そんな絶的な環境に、WITを裏返して実化したAIは溜息を吐く。

せっかく源にせがんで買ってもらった彼のビーバーテイルは、今や大量のハエに覆われて真っ黒になっていた。碌な栄養源のない荒野で暮らす彼らにとって、カナダが生んだ極甘のパイ菓子は、またとないご馳走だろう。

全粒の生地はあっという間に溶けたアイスでグジュグジュになり、メイプルシロップやシナモンと共にハエを大量に呼び込んでいた。

「……これ、すてていい?」

「……好きにしろ」

どれだけ集っているのか、ビッシリと群がるハエの量に、さすがの源も頷くしかなかった。

ビーバーテイルを捨ててもなお、指に著いたシロップやパウダーを舐めに來る昆蟲たちを煙たがる紫姫音を他所に、源は宣言する。

「ま、まぁ取り敢えず、食い終わったんだから行くぞ」

「……はぁい」

骨にガッカリした顔と共に溜息を吐き、AIはそのめてWITとなり、源の手首に戻った。

同時に、源の視界にナビゲーションシステムのARガイドアイコンが被さる。ただしそれも、通手段なんざ意味ねぇ、との源の言葉に従って直線距離のみが《およそ25km》とザックリと表記されるのみだ。

「案外近ぇな。っと、こっちだな」

両手を組んで肘をばした源は進行方向に背を向け、そっと赤茶けた大地に手をつき、徐々に重心を腕に乗せて行く。

《なにしてるの?》

「ん?いぃから目ぇ瞑っとけ……って、目ねぇんだったな……とにかく行くぞ」

《さかだちでいくの?》

「そぉだよっと、んじゃ行くぞ」

《ジカンかかりそう》

「……で?次はどこに行きゃいぃんだ?」

《んえ?どういうこと?》

「もぉ著いたぞ」

《え?……》「ウソ……」

源がWITを外し、放り投げる。

そうして有機人工人バイオロイドに戻って紫姫音の目の前には、世界最大の一枚巖の巨大な影があった。

自然な會話の中で消えた25kmに首を捻るAIを他所に、源はマーカーを頼りにさっさと歩き出す。

答えがもうすぐそこに迫っていた。

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