《T.T.S.》FileNo.4 『Sample 13』 Chapter 5-10

10

~2168年9月9日AM7:24 アリススプリングス~ 

世界最大の一枚巖に向けた背中を、び聲が追いかける。

「……私はキミにメッセージを伝えるためだけに置かれた一時保存のデータだ!用件が済むまでここに存在し続ける!もし話を聞いてくれる気になったら、その時は來てくれ!」

「誰が來るかクソッたれ」

シオンのコピーの聲にボソリと返しながら、源は歩み続ける。やがて、肩に擔いでいたが一瞬ビクン!と張し、目醒めた。

「んん……あれ?……源?シオンは?」

「……」

「……そっか」

「“そっか”ってのはどぉいぅことだ?」

「……えっと……」

口を噤んだAIをドサリと降ろし、源はしゃがみ込む。食えない子の顔を真正面から覗き込んだ。

「そぉいやお前言ってたな、“シキネがいないとカンセイ・・・・しない”ってよ」

「うん……シオンにそう言われたから……」

その言葉に噓はないだろう。彼の戸いの視線が、何よりの誠意だった。

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「……お前さっき何された?」

「……さっき?」

「……いや、何でもねぇ」

今一度源は考え直す。紫姫音との僅かな會話で、しだが冷靜さが戻って來ていた。

そうしてシオンのコピーの言葉を思い返して、不審な言葉を思い出す。

荒野を駆ける風の熱が、段々とその溫度を上げていくように、源の頭の中にも、畫が完しつつあった。

「そぉいやあの野郎、俺を見て“我が息子よ”って言ったな……」

「そうなの?」

「あぁ……」

考え得る可能は、一つだけ。

今回の源とシオンの接には、最初からアモロウナグも一枚噛んでいたのだ。

~2176年12月24日PM4:24 東京~

猿轡を噛まされてなお、視線で殺そうとでもするかのような亜金の目を正面から見據えながら、鈴蝶は両手を口の前で結ぶ。

「それで?実際に貴はシオンと源ちゃんを合わせる計畫に加擔してたの?」

ガシャン!と拘束を鳴らしながら、亜金が唸る。

しかしながら、応答する脳無線の聲は苦しむような悲しむような、悲痛な口調で響いた。

《そうよ、私たちはしくじれなかった》

「私たち・・・、ですか……ちなみに、そこに紫姫音ちゃんも含まれます?」

鈴蝶の傍で顎に手を當てて問い質す絵言葉に、アモロウナグは頷く。殺気満々の走った目線を真正面からけ止めながら、絵はその瞳の奧を探った。

今のT.T.S.は、源たちが接敵している相手の報に乏しい。ほぼ何も分かっていないとさえ言える。

だからこそ、滅多に使わない“応接室・・・”にアモロウナグを通して報を引き出そうとしているのだが、彼は何らかの事でT.T.S.本部ここでは決して口を割ろうとしない。

しかも、そのは今にも鈴蝶を絞めて源の居場所を聞き出し、そこに向かおうとしている。

ならば、絵のすべき事は決まっていた。

「……Master、提案します。私とアモロウナグで源の救援に行かせてください」

「……そうだね。それしかない。源ちゃんを死なせるわけにはいかない」

言うが早く、鈴蝶は応接室を飛び出した。

一方で絵は亜金の前に膝をつき、落ち著いた聲で言い聞かせる。

「ということで、よろしくお願いします亜金さん。即席ですが、私が貴の相棒バディです。源を失いたくないのは私たちも同じ、どうか一旦矛を治めてください」

ほんのしだけ怒りのトーンが収まった亜金の目を確認して、絵はマダムに目配せする。

先ほどの絵との諍いに加え、拘束されながらも暴れ続けたツケ・・が、亜金のに傷になっていた。

即座に治療にかかる主治醫を確認して、絵はそっと亜金に耳打ちする。

「……ちなみに、これは個人的なではなくて、T.T.S.の立場で戦略的観點から見た戦友の立ち位置からの話でして……一応、その、念のため」

早口で一気に捲し立てる絵に、亜金は「はぁ?」と怪訝な目で応え、マダムはクスクスと笑う。

迫した空気が僅かに弛緩したところで、明朗な鈴蝶の脳無線が響いた。

《絵ちゃんアモロウナグを地下したに連れて來て。五遮斷、忘れずにね》

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