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～2168年9月9日AM7:24 アリススプリングス～ 

突如、のコマンドを力されて、紫姫音はい擬似人を顕現させられた。

突然の実化に無防備だった人工知能FIAIは、にレンズを焼かれ、目を白黒させながら強烈な紫外線を手で遮る。

「……え？」

「所有者権限マスターコード発アクティブ。“くなDon't move”」

直後、のは映像を一時停止したようにピシリと固まりかなくなった。眼球運さえ許されない絶対靜止の中に閉じ込められた紫姫音に背を向けて、源は大巖へと踵を返す。

～2176年12月23日PM10:49 薔薇乃～

形勢は、今一度逆転していた。紫姫音が姿を現したことで瞬間的に揺したSample 13だったが、持ち直すのもまた一瞬だった。

Sample 13は追撃に走ったギルバートをアッサリと毆り飛ばし、鳩尾に膝を差し込んで固めた源の首を腳で締め上げる。

「まだ分からないの？アナタたちじゃ私には勝てない。私は自分の速度に振り回されるような未者じゃないんだから」

ギチリと気道を締められながら、実妹がそう呟くのを聞いて、源は考える。

なぜ彼はすぐに首の骨を折らないのか？

紫姫音との接で見せた揺はなんだったのか？

そんな疑問は、すぐに氷解した。

他でもない。

「ヤメて！源をイジめないで！」

「……やっぱりね。出て來ると思ったんだ」

Sample 13の狙いは、源の手首から紫姫音の実を薄暗いトンネルに引き摺り出すことにあった。

疑似人の首っこを摑み、源を思い切り蹴飛ばして、Sample 13は己が分を正面から睨みつける。

「もう一回だけ訊く。お前は何だ？」

紫姫音がAI機械だと理解しているからだろう、ギチリギチリ締めつける手に容赦はなく、走った目は今にもを模した人をバラバラに引き裂きそうだ。

紫姫音もまた、自が非生である事を隠そうとしなかった。その表に苦悶はなく、ただただ純粋な疑問だけが視線に宿り、真っ直ぐにSample 13に注がれていた。

そうしてお互いの目を見て、１人と１機は、相手が自らがむ質問の答えを持っていないことを悟る。同時に、その共の高さゆえに、もはや言い逃れできないほど相手を「自分」として１人と１機は認識した。

自分と同じで、自分ではない何か。

禪問答が現化したような異常な狀況の中で、それでもSample 13は答えを探すことを諦めなかった。

「Sample 9！説明しなさい！コレは何！？」

源を蹴り飛ばした先、巨大なブロックのようなコンテナ折り重なった瓦礫の山に向かって怒鳴り散らすSample 13に返って來たのはしかし、源の聲ではなかった。

「痛たた、跳躍直後に部屋ごと崩れるとか、どうすりゃいいのよ……うわ、ホントだ。聲だけじゃなくて見た目までソックリね」

自信と余裕をじさせる落ち著いたトーンで紡がれる大人のの聲。別の瓦礫の山で痛みにくギルバートの顔をますます顰めさせる、T.T.S.の要の凜とした響き。

「こんばん……あ、こっちじゃまだこんにちは、か。紫姫音ちゃんのソックリさん。T.T.S.No.3の正岡絵です。悪いけど、今から貴のきは封じさせてもらうわ。……紫姫音ちゃん、今助けるからね」

薄暗いトンネルをボンヤリと照らす正岡絵は、翠の瞳で真っ直ぐにSample 13を捉えていた。

Sample 13に正面から啖呵を切る絵の聲を聞きながら、コンテナの隙間で源はくように呟く。

「くっそ……絵……やめ」

だが、カスカスに掠れた心許ない聲は言葉の途中で止まり、代わりに噴き出たのは破裂した呼吸からせり上がってきただった。

それでも、何故絵が源やギルバートにすら敵わない相手に立ちはだかっているのかを考えると、焦燥が募って行く。肺にが溜まり、狹くなった肺でも何とか呼吸しようとヒューと甲高い呼吸音と共に咽せ返っていると、亜金が駆けつけた。

「源！！……紫姫音、いる？……いないのね。じゃあ仕方がないか……」

なんでお前がここにいる！？と瞠目し、口を開ける源だが、そこから溢れるのはばかりで、言葉が出ない。

「喋らないの……いい？今からマダムに渡されたコレ、打つからね」

それは、源でさえ初めて見る代だった。初代T.T.S.No.1を失った経験を元にマダムオースティンが提案し、彼と平賀青洲の共同開発で生まれた急救援時用の回復ナノマシン投與アンプルだ。

臨床試験はされているのだろうが、不運にも実戦での初被験者に選ばれた源は、絵が新裝備を亜金に託した事実に驚く。

同時に、亜金の信頼を勝ち取るために心を曲げた絵の決意に服した。

脈注用の太い針を頚切痕から深々と差し込まれ、その痛みに耐えていると、ポツリと亞金が呟く。

「……まさか私をここまで連れて來てくれるなんてね……癪だけど、絵アイツになら任せられるかもって、しだけ……」

に投與されたナノマシンが脳にアクセスし、重篤箇所を割り出して散開する。臓された推進機構で中を泳ぐように蠢くソレは小板を絡め取りながら肺に達し、あっという間に傷を塞いで行った。全てがアミノ酸やタンパク質で構されたナノマシンは、やがてその役目を終えて小板とともに患部を塞いで沈黙する。

そうして目に見える回復を見せた源は、プッと痰を吐き捨て、に塗れた手を亜金の頭に被せる。

「気に病むな、とは言わねぇけど……絵アイツも中々のやるもんだろ？」

不本意さを隠すことなく頷く亜金の前髪を、そっとかき上げてやると、傍らのコンテナ群にとてつもない衝撃で何かが突っ込んだ。

『まずい！』

絵の首が千切れて吹き飛ぶ最悪の景を想像すると共に、慌てて立ち上がろうとした源を目に、衝撃の発生源から驚嘆するの聲が聞こえた。

「どうして……？」

「……ウソだろ？」

先ほどまで自を一方的に見下していたその聲が、今まさに揺しているSample 13のものであることは、疑いようもなくて。

だからこそ−−

「ほら、立ちなさいよソックリさん。せっかくのお洋服が汚れちゃうわよ」

明確に見下す煽り文句を吐く聲は、聞き違うことなく正岡絵の聲だった。