《T.T.S.》FileNo.4 『Sample 13』 Chapter 5-12
12
~2176年12月24日PM4:34 東京~
クリスマスイブの夜が近づいているというのに、T.T.S.本部にいる人間は誰一人帰ろうとはしなかった。
それも、何となく帰宅しづらい雰囲気だから、などという理由ではなく、誰もが眼になって自らの仕事に打ち込んでいる。
エージェント以外の人間を伴った同時間異地點への反復型時間跳躍。
T.T.S.史上初の試みを、一気に2つも行わなければならない急事態を前に、聖夜への高まりはとうに消え失せていた。
そんなピリピリした空間の片隅で、マダム・オースティンは絵に急救援時用回復ナノマシン投與アンプルを差し出した。
「はっきり言って源ちゃんは危ないわ。生命兆候バイタルを見る限り、もう余談を許さない狀況よ。合流したらすぐにこのアンプルを打って。すぐにナノマシンが作するから」
「この大きさのは初めて見ますね」
「そうね。けど、いつもの鎮靜剤アンプルのし大きい型だから基本的な取り扱いは同じよ」
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「了解です……亜金さん。私の代わりに持っててもらえますか?源の生命を預けられる人は貴以外いません。よろしくお願いします」
拘束された亜金は、険しい表のまま食い気味に頷く。
この提案に込めた絵の思は単純で、戦線から亞金を遠ざけ、なおかつ、一部の目的を共有化することで団結までの導線を上げる目的もあった。
だが、極裏に研究開発を推し進めていたマダムからすれば、廃忘怪顛この上ない。
「ちょっ、ちょっと待ってちょうだい絵ちゃん。ソレは……」
《待ってマダム。貴には申し訳ないけど、絵ちゃんの提案、呑んであげて。今の私たちにはアモロウナグが、亜金・アモル・リオの持つ報が必要よ》
第三者に極開発品を持たせるという絵の提案に、T.T.S.Masterが乗った以上、マダムは意見を呑むしかない。
だが、それでも、まだ當てりを言うくらいの権利はマダムにも殘っていた。
「ソレは源ちゃんを繋ぎ止める最後の軛で、開発直後の一點よ。絶対にミスしないで」
その大きなをめるように目を伏せて吐き出されたのは、力なき鼬の最後っ屁とも言うべき注意事項。
しかしながら、それに応えたのは、絵ではなく亜金だった。
「源ためにそんな貴重なを私に預けて下さってありがとうございます。源が今まで無事でやって來れたのも貴のような方がいてくださったおです。本當にありがとうございます」
そう言って丁寧に頭を下げる姿勢が示すのは、アモロウナグと呼ばれる賞金稼ぎの兇暴さと豪快さではなく、亜金・アモル・リオという1人の人間の、する者を救ってくれる恩人に対する敬意と謝だった。
その兇暴さゆえについ忘れがちだが、亜金とて治安維持と賞金のために兇悪犯罪者を捕まえる賞金稼ぎバウンティーハンターであり、無法者を取り締まる“逞しき善人”であるという點では、T.T.S.と何も違わない。
何より、T.T.S.本部に來てからの亜金の荒れようは、全て彼なりに源を思ったからの激であり、滅多矢鱈に怒りをぶつけるほど不作法なでもない。
冷靜な時の亜金は、ごくごく淑やかななのだ。
「……源ちゃんのこと、助けてあげてね」
そっと目を伏せたマダムに今一度深々と頭を下げて、亜金は絵と共に時間跳躍に向かっていく。
焦燥と張に張り詰めた背中を見送っていると、アモロウナグの導火線に火を點けた放火魔が話しかけてきた。
「さすがマダム。期待通りね。アモロウナグの怒りを見事に収めちゃった」
コロコロと楽しげに笑いながら、甘凜蝶はのでマダムをペチペチと叩く。
まるでサプライズパーティーの仕掛け人が協力者を労うような鈴蝶の軽薄さに、絵の言葉で傷つき、亜金の言葉で小康狀態まで持ち直したマダムの心が再び痛み出した。
あまりに勝手で、あまりに理不盡な自への仕打ちに、トランスジェンダーでありながら力仕事も要求される醫療人として生來の別である男のを貫き通してきた優しきも、遂に堪忍袋の尾を切ったのだ。
自慢の膂力で鈴蝶の首っこを摑み、壁に押し付けるように持ち上げたマダムは、T.T.S.のメンバーが聞いたこともないようなドスのきいた聲でいた。
「アナタも絵ちゃん・・・・・も本っ當にいい格ね。心底腹が立つそう言うところ、大っ嫌いよ!」
ドンッと壁に鈴蝶を叩きつけて、マダムは足早に去っていく。
強い衝撃で肺の空気を奪われた鈴蝶が息を整えていると、階下でチェックを終えたT.T.S.No.3の報のエラー報が送られて來た。
エラー報告
T.T.S.No.3 正岡絵 係數:0
およそ人にはありえない數値を叩き出した正岡絵の異常を見て、改めて鈴蝶は確信する。
「……流石だよマダム、貴は全く持って正しい。でも、だから貴が必要なんだ。こんないかれた事を考える絵ちゃんや私みたいな人間がいる組織じゃ、貴のような鎹がいてくれなきゃいけないんだよ」
回生すら果たす奇跡のアンプルを作った優秀なエンジニアとドクター。
そして、自らのからを消し、アンプルすら持てないになった絵。
いつだって優秀な部下に頼り切りの自分に不甲斐なさをじながら、鈴蝶は別の通信を信する。
「……そう。わかった。すぐ行くわ」
だから、自らの責務はきっちりと果たす。
責任を負う、という仕事のために、鈴蝶は踵を返す。源やギルバートという強力な力を手にしてしまった代償を、早速払うことになりそうだ。
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