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聞き覚えのある破裂音は、場の空気と絵のを大きく歪ませた。

T.T.S.の纏う戦闘服柄強度可変型泉下客服FAANBWはしっかりと防刃防弾の機能を備えており、銃創を設ける事態は避けられている。

だが、至近距離から無反の大型自拳銃で放たれたACP弾の著弾は、絵のに強烈な衝撃を與えていた。

絵とて、弾丸をけるのは初めてではない。

だが、ACPの與える衝撃は、.380や9mmをけるのとは訳が違った。

腰に當たった衝撃が、背筋を伝い、頚椎を跳ね上げ、頭骨を揺さぶる。當然それは下肢と腔も襲い、骨が側から発するような覚に襲われた腰下は爪先まで痺れ、臓のいくつかは無慘にもひしゃげた。地響きのようなその衝撃が去ったかと思えば、浮かび上がるのは骨折と骨の圧壊による地獄のような炎癥。

すでに激しい頭痛に襲われていた絵の痛覚は、艱難辛苦の極限を越えていた。

それでもなお、気力とで何とか意識を繋ぎ止めていた彼を、縛を解かれた人間兵が弱々しい拳で沈める。

二酸化炭素中毒にぐはよろける腳で何とか踏ん張り、何度か頭を振った。側から見れば意味不明な行だが、代わりに目撃者はSample 13の抗毒能力の高さを理解する。

頭を振ったの瞳に、力が戻っていた。

二酸化炭素に浸されて吐瀉と頭痛に苛まれているべきSample 13が、ゆっくりと拳を固める。

その拳と視線の向く先が瀕死の絵だといち早く気づけたのは、唯一、ギルバートだけだった。

自を打ち破った尊敬すべき人間。越えられなかった弟分の相棒を守るために、舌下に二酸化炭素充満空間に突する用の空気を溜めて、ギルバートは千切れそうな四肢を掻く。

しかしながら、僅かに対処が遅かった。

速の暗闇を引き裂く拳が、地を這うように飛び込むギルバートの指先をすり抜けていく。

正確無比の一撃が絵の頭蓋に迫り、意識朦朧の絵も救おうとしたギルバートも諦めかけた、その時だった。

《ダメッ！》

悲痛なび聲と共に、絵のナノマシン群を一瞬で制圧した紫姫音がSample 13を吹き飛ばす。

２度目の二酸化炭素の放出はダウンバーストの勢いにも似て、のを木の葉のように舞い上げて源の足元まで吹き飛ばした。

「よぉクソガキ」

アンプルの即効で何とか戦えるまでに回復した源の拳が、普段の力の４割にも満たない力での顎を捉える。例えいつもの半分以下の力であろうとも、拳を振るう技において、源はSample 13より一日の長がある。脳震盪を発する一撃が綺麗に決まり、カクリとのきが止まったのを合図に、今度は亜金がき出した。

狙うは、絵に兇弾を突き刺した男。

徒手空拳で銃に武裝した相手に立ち向かう蠻勇も、名うての賞金稼ぎバウンティーハンターである亜金にとって初めてのことではない。マフィアのボスさえ挙げてくる彼にとって、室戦で銃を蹴り飛ばされることなど日常茶飯事だ。

炸裂音やシルエットから男の獲をコルトM1911のオリジナルモデルと見込んだ亜金は、その裝弾數を絵に向けて放たれた１発目を差し引いた７発と睨んで、銃口の延長線上からを逸らす。

２発目、３発目と中距離では左右移、続く４、５発目は近距離で上下への振りを最大限意識してやり過ごす。

そうして、あっという間に間合いを詰めた亜金は、するりと男の懐にを潛り込ませた。

「アンタもここで終わりよ」

６発目を発砲した男の右手首と細い首を摑んで、亜金はそう宣言する。

そのまま釣込腰で男を背中から叩きつけて手首を捻ったところで、鼬の最後っ屁の７発目の弾丸が溢れた。

男の頭に足を置き、銃把に絡まる指を解く。

もはや抵抗出來ない男の顔を覗き込むと、生白く痩せ細ったそこに表はなく、が空いたような青い瞳だけが一點にSample 13を見つめていた。

「……何か言いな、死んでるの？」

不気味なほどの沈黙に、亜金は拘束の力を強めるが、相も変わらず男は無表のまま抵抗をしない。

それでも、多は亜金の言葉をけたのか、しだけ口をモゴモゴとかし出した。

耳を攲ててみるも、予想通り意味不明な文言が聞こえてくる。

「……を放棄。お前の好きなように殺せIt's all yours」

不意に、源は下から強風に吹き上げられたような気がして、全が総立った。

生まれて初めて憶える覚に、珍しく彼の顔が恐怖に歪む。

同時に、「源！」という絹を裂くような亜金の悲鳴を聞いた気がした。

気がした、というのは、聞き逃したわけでも、幻聴を聞いたわけでもない。実際、聞こえたか曖昧なのだ。

源の聴覚は、豪風が吹き付けるようなウインドノイズに見舞われ、視界は洗濯機に突っ込まれたように回転していた。

遅れてきた左足首のが、そこを摑まれてぶん投げられたのだと告げている。

を捉える視力がギリギリ捉えたのは、両眼を赤く染め、歯を剝き出したSample 13の獰猛な顔だった。