《T.T.S.》FileNo.4 『Sample 13』 Chapter 6-2

~2176年12月23日PM11:05 薔薇乃

激烈な痛みと心を引き裂く恐怖心が、自を構する全てを消し去っていくようだ。

神を捉え、それを下さんとするヒトのは、およそ人間に許されざるその能力に、悲鳴を上げる。

それでもなお、止まるわけにはいかなかった。相手も同じ能力でこちらの命を刈り取らんとする以上、止まるわけにはいかなかった。

1人の男の暴走によって生まれた3匹の怪は、互いを喰らい盡くすまで止まるわけにはいかない。

自らの命を的にして意図的な間隙を生み、相手のリズムを崩さんとするいかなはじめ源と帷子ギルバートと、チェンジ・オブ・ペースでリズムを変更して流れを取り戻さんとするSample 13の攻防は、不変の速度スレスレの駆け引きを繰り返して、無數の中発の相殺の中で限界を迎えようとしていた。

まず起こったのは連攜ミスだ。次なる連攜のためにしゃがみ込んだ源の上を、ギルバートが通り越してしまった。

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次いで、その隙を突こうとしたSample 13が大きく軌道を逸れて著地する。

死にを薬効で無理矢理かしていたT.T.S.はもちろん、無盡蔵の力に思えたSample 13でさえ、肩を揺らしてもなお呼吸が追いつかず、咽せ返るように絶え絶えとした息を継ぐだけだった。

それでも、両者は互いに向け合う殺意に満ちた視線だけは離さない。

音が追い切れぬ速度で移を繰り返していたジョセフ・クラークの実験達の耳に、久方ぶりに訪れた互いの荒い息の音。

混濁する意識の中、近くに見えるのに遠くに聞こえる敵の息のに耳を攲てる時間は、互いを監視し合える奇妙な安心の中で過ぎて行った。

だが、このまま黙って見詰め合っているわけにもいかない。

源はそっと紫姫音に指示を下してギルバート、Sample 13と脳間無線を繋いだ。

《聞こえるか?クソガキ》

視線でも合図を送りながら、源は話しかける。

ギルバートと源を互に行き來していたSample 13の視線が、そこで止まった。

《あのジョセフは何目だ?》

《……》

《ダンマリか。なら、質問を変えてやる。野郎はどこにいやがる?》

その瞬間、ほんのしだけSample 13の口元が緩んだ。源の頭にはない発想だが、それは教師への悪口を言い合って盛り上がる學生達の表に似ていた。

実際、Sample 13が処分・・したジョセフは、數ある彼の代用の1人でしかない。人工人を造り慣れた彼だからこそ出來る、高レベルの自信の複製人だ。

《アレが偽ってご存じなのね》

《やっと喋ったな》

《當然だ。我々は先達だぞ。それぐらい予想出來る》

ギルバートも會話に加わり、脳間無線の同窓會は僅かに賑わい出す。

《で?奴さんはどこにいんだ?》

《時間を無駄にするのが趣味なのかしら?答えるわけがないでしょう》

《その意見には同意するね》

《っるせぇぞギル。……にしてもいぃきすんなお前。誰に調整メンテされてんだ?》

《お父様ご本人によ。當然でしょう?》

崩れていた勢をほんのしだけ正して、Sample 13は顎を上げる。それがを張ろうとしているのだと気づいた源とギルバートは、思わず目を見合わせる。垣間見えた妹の可らしさに綻ぶ口元をそのままに、源はSample 13に教えてやることにした。

《そりゃ可哀想な話しだ。まぁ、俺とギルもショタコンの変態にやられてたから、そこはドッコイだな》

《何の話?》

《こっちの話だ。気にしなくてもいいよ》

《そぉでもねぇさ。ジョセフの近況は今のでわかった。野郎は資金援助だけ薔薇乃棘エスピナス・デ・ロサスにさせてるってことはな。つまり今ヤツは1人でいてるわけだ》

フッとSample 13の口元が嘲に緩む。

《そんなわかりきったことを分析して……もしや本當に時間を無駄にするのがご趣味なの?》

ストレートに挑発的なの言葉にしかし、源は同じ笑みを返す。

《そぉさ。俺たちみてぇな化はそんぐらいじゃなきゃなんねぇんだ。本寸法じゃな》

一騎當千どころか、一騎當萬すら可能な、傾國の生。そんな危険が無用の長になる世界こそ、市民がむ世の中だ。それが理解出來ていない以上、何としてもこのを止めなければならない。

前口上はここまで。

いよいよ源は核心にれる。

《さて、そぉなると実際分かんねぇんだよ。ここは一何のために作った?》

されている機材の中には、TLJ-4300SHのパーツに使われているものもあった。

だが、それならばもうかにやるはずだ。

見せつけるかのような過剰なロボット警備隊に、攻撃手段が派手なSample 13の配置。

まるで源やギルバートをき出すために用意されたような、強火力なラインナップ。

明らかに、T.T.S.の視線を導するために誂えたものだ。

《平たく言やな》

では、薔薇乃棘エスピナス・デ・ロサスの真の目的は一何なのか?

その目的は、現在どれくらい達されているのか?

源はそれを問い糺す。

《俺とギルを引きつけた裏でお前ら何やってんだ?》

ニヤリと、が笑う。

だが、その笑顔は変わらず見下すような歪みに満ちていた。

《突き止めてみてはいかが?私を捕まえて、拷うって、吐き出させてみなさいな、お兄様方。でも》

三日月型の目がニヤリと源とギルバートを捉え、そして。

「休憩はおしまいよ。一気に殺してあげる」

さっきまで肩で息をしていたのが噓のように、Sample 13はトップスピードで間を詰めてきた。

反応も反も追いつかぬ間に、ギルバートは蹴り飛ばされ、源も首っこを摑まれる。

開発者直々の調整メンテをけている恩恵だろうか、それとも、年齢が若いためだろうか、の呼吸はすっかり元に戻っていた。

《演技か……クソが……》

「話したいっていうから付き合ってあげたのに、酷い言いようだわ。お兄様ったら」

どこからこんな力が出るのか、頸を萬力のように締め付ける細い左腕の向こうで、紫姫音の顔をしたはニコリと笑う。

チグハグで整合の取れない景を前に、いよいよ逃れられない死をじて、源の全が泡立った。

《気が利くじゃねぇか。ありがとよ。なら、冥土の土産置いてってやるからちょっと聞け》

「さっさと喋りなさいよダメ兄貴」

し苦しそうにきながら、Sample 13はギチリと気道を絞める力を強め、源を吊り上げる。

もはや足をバタつかせて抵抗する力も殘っていないが、そんなことはどうでもいいほど、その表に源は驚いていた。

「ほら、どうしたの?」

同時に、直近のどこかでこんな顔を見た気がして、酸欠の源の頭は走馬燈の中にヒントを探す。

「早く言いなさいよ!」

『あぁ、そぉか……』

今日は、隨分と周りのに渋面をさせてしまった。Sample 13と同じ顔で紫姫音が、そして、出発前にこの任務を源に押し付けたことに罪悪を覚えた絵が、こんな顔をしていた。

「何か言え!バカ!」

『確かあの時は……』

源の脳が、徐々に活を停止させていく。

失われていく意識の一欠片を使って、源は紫姫音に最後の指令を下す。

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