３

最終機工兵ノーライフキングが上昇を止め、ピタリと一點で靜止した。凄まじい滯空能力によってピン留めされたように空間に留まるドローンを背中に、ホセ・セサール・チャペスは駆ける。

途中、火花を散らしながらもこちらを補足しようとする敵機の殘骸を蹴飛ばし、それでも銃口を向けてくる機には拳銃を撃ちながら加速した。

長の類は投棄した。

今は何よりも一刻を爭う。

靜止した最終機工兵ノーライフキングは今、その機で強力な磁界を生する段階にった。

部コイルの回転によって生まれた磁場は最終機工兵ノーライフキング本を中心に円狀に広がっていく。その範囲が地上に堆積する敵ドローンの殘骸に達するまでの間に、何とか対電磁狙撃銃アンチマテリアルレールスナイパーライフルで狙撃して撃墜しなければならない。

「クソが！……どこまで……ふっ飛ばしてんだ！」

愚癡すら前進のエネルギーに変えるつもりで吐き捨て、ブーツを出來るだけ早く回転させた。

エリカ・リグスビーもまた、通信途絶と同時に走り出していた。

対電磁狙撃銃アンチマテリアルレールスナイパーライフルの本そのものを持ち、裝甲車が吹き飛ぶ様を目の當たりにしていた彼がかないわけにはいかない。

思い當たる方角に対電磁狙撃銃アンチマテリアルレールスナイパーライフルの超長距離レーザーポインターを指し示しながら、エリカはドローンの瓦礫の中を這うように進んだ。

源やギルバートのサポートで、運能力が削がれるような大きな負傷こそないものの、軽い捻挫や打撲はのそこいら中で起こっている。奧歯を噛み締めて痛みに耐えながらも、エリカは必死にレーザーをして歩み続けた。

それでも、その時はやってくる。

最終機工兵ノーライフキングの磁場が、いよいよ地上に達した。

周囲一の瓦礫がフワリと浮き上がり、緩やかに上昇を始める。當然、そこには対電磁狙撃銃アンチマテリアルレールスナイパーライフルそのものをに隠し持つエリカも含まれていた。

「クソッ！間に合わない！ホセェェェ！」

悲鳴に近いびは宙に浮かぶ自のように覚束なくて、やがて海中に流された電流のように霧散して儚くも消えていく。

そう、覚悟した。

《勝手に諦めろなんて指示してねえぞ》

燃え盛る殘骸の向こうで、黒い影が跳躍する。

それが誰かなんて疑問は持たない。

「お前が遅いからだろうが！さっさと弾丸タマよこせ！」

《今そっちに著く。準備しとけ》

「了解！」

ニヤリと口角を上げたエリカは、すぐに上半の服を剝ぐ。そこにあるのは乙のなどではない。

チタン合金で形作られたヒトのを模した銃。

その腹部が開き。十重二重の絶縁層の中に、コイルがり輝いていた。

加えて、エリカの右腕が上下にパカリと割れ、大口徑の銃口が天に掲げられる。

「背中開くぞ」

その辺の木とロープ、錘として石を用いたのであろう即席の投げ縄で背後に立ったホセの言葉に、エリカは頷いた。

対電磁狙撃銃アンチマテリアルレールスナイパーライフルの高火力に耐えうるカーボン加工を施された特殊弾頭の大口徑弾を肩甲骨の裏から裝填され、戦乙は照準を合わせる。

いかなはじめ源は思い出す。

それは、今日ここに來る直前のこと。

クリスマスイブを潰され、會いたくもないギルバートに合わなければならなくなった。

そんなハズレくじを引かせることに負い目をじていた相棒の姿を。

フラッシュの役を揃えたホールカードを２枚抱えて、後ろめたさから逃避するようにゲームに集中する絵は言っていた。

「切れ長のお蔭でちょっとだけ視野が広いのよ、私」

シオンいわく、Sample 13は源と兄弟であるらしい。

爛々とした目でこちらを睨むその顔からは、確かに源と似た特徴が見けられた。

それこそ、切長ではないが二重瞼のアーモンド型の目なんかはソックリだ。

ならば、今のこの狀況。

が源の頸を左腕一本で摑み掲げるこの場面ならば、最後の勝機がある。

《紫、姫音……破滅との握手シェイクハンズ・ウィズ・ダムネーション》

源の右腕が、白地の長手袋に黒い管が這い回ったデザインに変わった。白と黒のは、ゆっくりとSample 13の左腕の、見上げる彼の下を這い上がる。

神すら捉える目であろうとも、見えない場所から近づく亀には気付けない。

源の右手中指がソッと、鶴が優しく著地するようにの耳下にれた。

直後、ビシリとの目が強張り、が固まった。流れる時を失ったように、しい顔を筋から凍らせて、Sample 13は完全に直する。

何とか掌握から逃れた源はドサリとその場に落ちた。

しかしそれ以上、彼にはける余地がない。ボロクズのように地に転がりながら、霞む視線を投げることしか出來なかった。

もしSample 13が追撃を放って來たとして、源には最早抵抗も対抗も出來ない。

一方で、電死しかねない一撃をけたの中でも、決定的な崩壊が始まっていた。

Sample 13の脅威的な力と回復力は、彼の中を漂う有機ナノマシンによって賄われている。表面を絶縁加工されたそれは、戦闘中は常にの筋中の酸を取り除き、疲労質を分解し、裂傷を塞ぎ続けていた。

だが、その機能さえ破滅との握手シェイクハンズ・ウィズ・ダムネーションによって停止し、塞ぎかけていた傷が急騰したの高圧によってを噴き出し始める。源とギルバートに対して持っていたアドバンテージを全て剝がされ、もまたの海に沈む。

《いたいの？》

Sample 13は曇った瞳だけをかして聲の主を仰ぎ見る。

それは、自分と同じだが、確かに違う自分。

もしかしたらあったかもしれない、仮定の現。