４

自を見下ろす紫姫音の目は、果たして自なのか慈なのか、気の毒そうに向けられるそれの意味を、Sample 13は計りかねる。

《貴は、何？》

わからない。

何故同じ顔なのか。

何故敵になっているのか。

オカシイのは自分なのか、紫姫音この子なのか。

《何で源お兄様といるの？》

《わかんない……けど》

紫姫音はSample 13の前に膝を突き、彼の頬にれた。

《アナタはなんだかとってもイタそう》

その言葉を聞いた途端、何故だか知らないがが締めつけられる心持ちがした。Sample 13が抱いた初めてのだった。

源やギルバートという、自と同じ存在に対しての好奇こそあったが、自を底から揺るがすほどの心のきは、これまでなかった。

『イタそう……？……私が？』

紫姫音がゆっくりとしゃがみ込み、頬にれてきた。

人工憑依人バイオロイドの生溫さが、痺れたに沁み込んでくる。

《……何で？痛いの？私が？そんな……だって……》

《ちがうの？ココ、くるしくないの？》

頬にれる手とは別の手で、紫姫音がSample 13のに手を置いた。今度はに広がっていく溫もりに、はようやく気づく。

心臓を引き裂かれ、が滴っていくような痛み。

《な……何をしたの？》

《なにもしてないよ。けど、ナノマシンがシんでるみたいだから、源のつかってるナノマシンをつかっておくね》

《やめて！そんな得の知れないもの！》

《だいじょぶだよ。源とおそろいだもん》

《……》

《あ、うれしいの？》

《なわけあるか！やるならさっさとやってよ！》

言われるが早く、紫姫音がまだ塞がっていない傷に指を差し込む。痺れの奧の僅かな異に耐えていると、やがてSample 13のからのの流出は止まった。そうして傷こそ塞がったものの、彼の疲労質や酸は取り除かれていない。

モタモタともがくばかりのSample 13を、紫姫音は気遣うように見守っていた。

その安心からだろうか。

「時間だ。Sample 13」

その嗄れた聲を聞いた時。ほんのしだけ、Sample 13は自の立場を忘れていたことに気づいた。

「……失禮しました。お父様」

そうしてシャンと立ち上がって居住いを正して、ようやくは気づく。源とギルバートの雙方が、朧げな意識を繋ぎ止めてその・・老人を睨んでいた。

小柄で細、枯れ果てた老木のような佇まい。

鋭い眼でSample 4とSample 9を睨め回し、老人はシワまみれの口をかした。

「不良品では所詮完品には及ばん。殘念だったな、息子たちよ」

ジョセフ・クラークはくように源に向かって吐き捨てて、震える手で銃を取り出す。

生気のない瞳でボンヤリとそれを視認していた源は、かないを気持ちしだけらせた。もはや抵抗するはそれ位しかなかった。

震える銃口が源の頭を捉え、リボルバー式拳銃の撃鉄が上げられる。

引き金に掛かったジョセフの指がゆっくりと遊び・・を消費し盡くす前に、意外にもその銃をSample 13の手が下げた。

「お父様。もう行きましょう。コレ・・はもう死にゆくだけの輩。そんなものよりこちらの亜生インターフェイスFIAIの方が重要かと」

Sample 13がそう言って紫姫音の首っこを摑んで突き出すと、ジョセフの表は一変した。

「おお！阿形のNtCSTか！これは確かに素晴らしい」

ジョセフはリボルバーをSample 13に渡して、両手で包むように紫姫音の顔にれる。

憮然とした表の紫姫音に睨み返されたが、なおもジョセフの機嫌は良くなった。

「なるほど、よく似ている。いいだろう。コレに免じて今日は退いておこう」

そうして、源は霞む意識の中で不思議なものを見た。

ジョセフとSample 13、紫姫音のを、薄緑のが包み出す。それはさながら、T.T.S.が時空間跳躍する時のようだ。

だが、そんな景を前に想を思い浮かべることも、増してやその景を記憶しておく力も、源にはなかった。

《源》

そう呟く紫姫音の聲が、どんなを乗せて放たれたのかさえ、今の源には推して知ることも儘ならない。

徐々に郭を失っていくSample 13たちは、やがて完全にその姿を消した。