《T.T.S.》FileNo.4 『Sample 13』 Chapter 6-5

~2176年12月24日PM4:24 東京~

慘敗だった。

T.T.S.No.2 いかなはじめ源、新たに加わったT.T.S.No.5 帷子ギルバート、そして援護兼急支援者護衛のT.T.S.No.3 正岡絵の帰還こそ果たせたものの、満創痍の彼らの回復を待たなければ彼らの果も聞き出せない。

その上、敵勢は逃亡し、あまつさえNo.2の亜生インターフェイスFIAIを持ち去られた。

敵の目的も分からなければ、兵力も大幅に減退させられる。お手本のような大慘敗だ。

結果、見事に裏をかかれた。

「Master、薔薇乃棘エスピナス・デ・ロサスが今し方聲明を出しました……」

「……見てるよ、今」

《我々薔薇乃棘エスピナス・デ・ロサスは、このほど皆さまにとってより良い時間旅行をご提供するべく、常在管理本部を設置する運びとなりました。所在地はT.T.S.の捜査が及ぶ恐れがあるため公表を差し控えますが、今後とも是非私共薔薇乃棘エスピナス・デ・ロサスをよろしくおねがいいたします!》

己が牙城の設立を堂々と宣言して、薔薇乃棘エスピナス・デ・ロサスはT.T.S.に告げる。

止めるものなら止めてみろ、と。

一方で、その挑発に容易に乗ることのできない狀況が、T.T.S.には迫っていた。

それは、速報として流れた。

《ダラス郊外で無差別テロ事件発生。T.T.S.が関與と報もあり》

「あ〜……これは々大変になりそうだねえ」

周囲のあらゆるデバイスが一斉に速報を通知する中、鈴蝶はさっさと煩わしさから逃れる。

だが、彼の名譽に掛けて弁護すれば、決して遁走したわけではなかった。むしろ、こうしてパニックから遠ざかるのは、事態に立ち向かうための準備に過ぎない。

実際、直後にICPOから掛かってきた音聲通信に出た彼は全ての覚悟を決めていた。

「……マジですか?」

まあ、聲は震えていたが。

『思ったよりずっと深刻ね。まさかT.T.S.を、ではなく源ちゃん本人を訴えるなんて……まあ、あの子のことだから気軽に聲かけたのかもしれないけど……』

薄々わかってはいたつもりだったが、鈴蝶は初めて真の意味で絵の苦労を理解した。

『源ちゃんめ……余計なことを……』

のびのびと仕事をさせた方が良いパフォーマンスをすると見込んでの放任主義だったが、限度があったのかもしれない。

とにもかくにも、鈴蝶がすべきことは一つだ。

司令室に踵を返した彼はその場にいる全員に宣告する。

「これより箝口令を敷きます。メディアはもちろん、あらゆる國・組織・宗教団のいかなる機関や警察機構。賞金稼ぎから親兄弟やペットの犬貓にいたるまで、全ての生命にT.T.S.関連の出來事を話さないように」

そして、改めて事件の経過と音聲通信を検めて決意した。

「もう一點。T.T.S.No.2 いかなはじめ源は本作戦による負傷が癒え次第、T.T.S.より除名処分といたします」

T.T.S.Masterとは、T.T.S.を第一に守る者の名だ。

ただでさえ敵の多いT.T.S.に、これ以上アキレス腱を増やさないように手を打つのは當然だ。

そう自分に言い聞かせながら、鈴蝶は奧歯を噛み締め、手のひらに自ら爪痕を刻んだ。

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