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～2176年12月24日PM5:08

北アメリカ大陸橫斷鉄道～

時に思う。

同士の猥談に巻き込まれた男こそ、この世で最も厳しい生存環境下に置かれた生に他ならない。と。

対面のシートで繰り広げられるエリカと絵の夜伽談義は、絵がムキになったこともあって、白熱していた。話題は前戯と本番の時間配分やその容にまで及び、さながら源の存在を完全に無視して子會を始めたノリだ。

口を挾むことも、相槌を打つことさえも憚られる、究極の進退不能狀態デッドロック。

ただ、の多いT.T.S.に長く在籍していた源にとって、こんな狀況も初めてではない。

特にあの癡に絡まれた時などは、生々しい下ネタでどこまでもしつこく続くので、自然と対処法が構築されることになった。

そんな彼の生んだ対処法の１つが、あえて空気を読まず無理難題をふっかける・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ことだ。

「絵、一旦俺の代わりに出て説明しといてくれ」

鈴蝶に支給されたWITを絵に放り投げ、源はコンパートメントの扉に手を掛ける。

「お前なら多亜金も信頼してるだろ」

「いやそんな手応えないんだけど……」

「ってかお前どこ行くん？」

ついでのように尋ねてくるエリカにタバコの箱を振って答えながら、源はコンパートメントの小部屋を出た。

線路の継ぎ目を通り抜ける、規則的な珍しい。2100年臺を迎えてなお線路走行を続ける古式ゆかしいレールウェイは、長いアメリカの歴史の中で幾度も作られ、消えていった悲運の路線だ。

それでもこの骨董品がくのは、鉄道をする者たちのコミュニティが中央アメリカの中心で頑張っているからに他ならない。合衆國という形態すら捨て、國という枠組みから一歩前進したコミュニティの集合組織となり、それでも中央アメリカという土地に著を抱き続ける人々の努力で繋げられるのは、亡き合衆國の魂が生き続けている証だ。

時には、中々験出來ない前時代の生活様式を験しに來る好きもいるそうだ。

さて、そんな好きが隣にもいる。妙に靜かで、明らかに気配を消しているが、殺気はない。

恐らくだが、彼らもまた、訳ありなのだろう。

今の所こちらに危害を加えようとする意志は見られないが、隣接している以上、警戒は欠かせない。

ただ、仕掛けてくるにしても、絵やエリカが相手になるので、返り討ちに會うのが関の山だろう。

そんなわけで、然程気にする存在ではないのだが、あちら側でトラブルが起こって源たちが割を食う可能もなくはない。

念の為、逐一様子を探っておいた方がいいだろう。

『まぁ、何かあったらそん時はそん時……だな』

楽観的な姿勢だが、源は即席アドリブの達人だ。主導権の掌握能力とその即応において、源に勝てる者は絵ぐらいしかいない。

だからこそ、源は余裕のびをしながら車両の継ぎ目に出た。

列車の速度に紫煙を流しながら、アメリカ南部の荒涼たる風景をボーッと眺める。不思議と気分が落ち著くのは、己がの上が風景に馴染むからだろうか。

『さぁて、こっからどぉすっかね……』

ほんの數時間前に消えたSample 13の行方は、絵が手土産としてT.T.S.から掠め取って來た反復時空間跳躍の記録だけだった。

それによると、どうやらSample 13たちは南極に著地したようだ。とはいえ、恐らくそこに敵影はないだろう。足跡の上で胡座を掻くような連中ではない。

しかしながら、生は痕跡を殘さずに行することは出來ないので、何かの痕跡が殘っている可能はある。もしくは、紫姫音が何かを殘してくれている場合も……。

そこまで考えて、源は頭を抱えた。

『全部他人任せだな、今んとこ』

組織I.T.C.の後ろ盾がない事実が痛い。これまでは指示でしかなかったバックアップが、自由になったことで最も必要なものになってしまったのは皮なことだ。

それでも、道を探すがないわけではない。

「郎、訊きてぇことがある」

《久しぶり》

webの世界を、それこそ蜘蛛のように渡り歩く郎にチャンネルを合わせると、いつも通りの別も年齢も不詳な存在がスッと現れた。ただ、驚いたことに、郎のけ答えが珍しく機械音聲だ。おまけにいつもの軽妙浮薄さをぎ捨てている。

「紫姫音を探してる。どこにいるかわかるか？」

しかしながら、ラグなしで返答がくるのは、今の源の神狀態にはありがたかった。

《わかんないよ。私もずっと探してるけどね。多分電波遮斷されてるんだ。紫姫音あの子やアタシの類はそれをされたらどうしようもない》

「……そぉか。一応」

《もちろん全面的に協力するよ。私の持ってるチャンネルは全て使うし、新しいアンテナも探り続ける。紫姫音は私にとっても妹みたいなものだもの。協力させてくれなきゃ怒るよ》

タタン！タタン！と線路の継ぎ目を車がっていく。そのが頼もしくじるほど、郎の言葉はありがたかった。

「ありがてぇ。よろしく頼む」

《それより、アナタは別の心配をした方がいいよ》

「公開されたんだな。俺の手配書が」

《10分ほど前、一生遊んで暮らせる額を懸けられてね。念のために斷っておくけど》

隣の車両の窓に映る自を見詰めながら、源は全てを呑み込む。

「いぃぜ、気にすんな。報を売るのがお前の生活タツキの道だかんな。俺の位置報ならいくらでも売れ。そぉ簡単にやられる布陣でいちゃいねぇ」

《そう言ってくれて助かるよ。で、つい今しがた早速一件売ったから、もうすぐ客が來るはずだよ》

その言葉に、ふと、隣のコンパートメントが頭をよぎる。源の中で、隣室のチェックが優先順位の上位に躍り出た。

《と、もう一つ。そろそろP.T.T.S.がくみたいだ》

「……そぉか」

《覚悟は出來てるんでしょう？》

「まぁ形式上、隊員を一人拐してる形にはなってるからな」

そして、実はT.T.S.からの援軍であり、資支援の橋渡しでもある。本人に自覚があるかは不明だが、エリカはこの旅のキーマンだ。

《そうだね。エリカの件に関しては、世間は拐としか解釈してない。世論は貴方を捕縛しろの一辺倒だ。甘鈴蝶も、いい加減その聲を無視出來ないみたいだ》

「そぉか……」

それほどまでに世間の風當たりが強くなっているとは、正直予想外だった。あのT.T.S.Master甘鈴蝶が追い詰められるとは……彼の強さを知る源でさえ、しばかり彼が気になった。