《T.T.S.》File.5 Worthless Road Movie Chapter1-4

~2176年12月24日PM5:14

北アメリカ大陸橫斷鉄道~

自分の空き巣が大変な慘狀になっていることを思い出して、正岡絵は溜息を吐いた。

結局、T.T.S.本部は急封鎖された。

それをけて一部業務を引き継いだICPOは“元職場への逆恨み”というもっともらしい理屈をつけてい源の急手配。

本気で嫌疑をかけているわけではないだろうが、大義名分を表明された以上、手を出してくるのは時間の問題だろう。

場合によっては、足跡隠しのためにここから先の進路変更の必要もあるだろう。

「逃げるってのも中々大変なものね」

「大丈夫だよ。撤退戦なんていつまでも続かない。むしろ大事なのは反転攻勢のタイミングだ」

猛り狂う亜金を宥めた疲れから、思わず零れた愚癡に、コンパートメントの対面のエリカが太々しい笑顔で答えてくれる。

まだ知り合って間もないが、彼のこういう図太さは嫌いじゃなかった。それに、中々どうして鋭いことを言う。

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「ねえ、軍歴長いんでしょ?そのタイミングってやつ、教えてよ」

軍族だった経験のない絵にとっては、しっかりと確認しておかなければならないことだ。

エリカならば何の屈託もなく教えてくれるだろう。

しかしながら、狀況がそれを許さなかった。

けたたましいブレーキ音を立てて、列車が進行方向に傾く。急停車の慣に悲鳴を上げる聲も聞こえてくる中、コンパートメントの扉が開かれた。

「よぉし、逃げんぞ。荷纏めろ」

20秒前

兆候は、思った通りに早く、思った以上にあからさまだった。車両連結部分で噴かしている源の両脇を、何かが高速で駆け抜ける。

真上に紫煙を吐いていたために視界の端に僅かに影を捉えた程度だったが、見紛うはずがない。強化外骨格。それも、跳躍機臓義足ディアフットのような部分強化型ではない、全を覆う軍事用著両面汎用MARTWの類似モデル。

「……おぃおぃ、いきなり派手にやろぉってか」

直後、軋むような音を立てて車両が前方に傾く。

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恐らく、車両脇を通過する際にスキャニングを済ませ、源の存在を確認したのだろう。

いよいよ接敵まで時間がない。

激戦からさして時間も経っていない今、源のコンディションとて十全とは言い難い。出來るだけ速やかに逃亡しなければ、更なる追手がやって來て絶絶命の危機に追いやられることだろう。

そうなれば、絵やエリカに多大な手間を取らせることだろう。

急いでコンパートメントまで戻らなければならないが、折角ならばここは一つ、自分の能がどこまで落ちているのか確認してみよう。

威勢のいい言葉を吐いてはいるが、どう見ても顔の優れない相棒バディが脇腹を抑えながら個室にって來た。

恐らく、喫煙所代わりの車両連結部から、その腕で跳んで來たのだろう。

しかしながら、健常ならいざ知らず、今の源には無茶な行為だ。

思わず、絵は強い口調で咎めてしまった。

「バカ!何やってんの!つい數時間前まで危篤だった人間が無茶するんじゃないの!」

「まったくだ……どんくらいけっか確認したかったんだが……このザマとはな……」

世にも珍しい源の弱音に絵が驚いていると、エリカが自と源の荷を引っ摑んで立ち上がった。

「言ってても仕方ねえ、さっさと逃げよう。源、肩貸すから摑まれ」

軍人ならではの現実主義的発言と共に手を差しべるエリカの沈著冷靜さが、絵の冷靜さも呼び戻す。

「その通りね。さっさと逃げましょう。エリカ、私が源擔ぐから、前衛お願いしていい?」

「そういやアンタもそれなりに重傷者だったね。いいよ、荷だけそっちで持ってもらえればアタシに任しといて」

エリカから荷け取って相棒バディの肩を擔ぐと、流石にかなりの重量だ。思わず、傍の男に零していた。

「ある程度回復したら自分で歩いてよね」

「あぁ……悪ぃな、荷持して」

「仕方ないから許すわよ……でも出來れば早く自力で歩いてね」

「そろそろ行くぞー」

至近距離で顔を見合わせる源と絵に、エリカがし呆れたように宣言する。

「ほっとくとすーぐ2人の世界行っちまうな」

「いつもの仕事の距離だから変な勘ぐりしないで!」

「マジか、距離近っ」

の事態にそぐわない弛緩した會話が、エリカの発言中ターンで途切れた。

代わりに、彼の人差し指だけが立てられた左手が差し出される。

と源もすぐに察した。

コンパートメントの扉の向こうに誰かがいる。

エリカが腰のホルダーからナイフをスラリと抜いて、後ろ手に構えながら目配せを送ってきた。

研磨裝置付きのナイフホルダーから引き抜かれたしい刀の面で、源と絵の顔が首肯する。

「……どちら様でしょう……か?」

ゆっくりと扉を開けて向こう側を覗き込んだエリカの頭が、ゆっくりと下を向いていった。

事の推移を見守っていた源と絵が顔を見合わせる中、こちらを振り返ったエリカが困した様子で呟いた。

「このガキ、誰かわかる?」

の肩越しに2人が扉を覗き込むと、そこにはの姿があった。

當然ながら、褪せた菫のワンピースを來てボロボロのウサギのぬいぐるみを抱えた黒人の児に見覚えはない。

だが、2人が知らないと告げるより早く、エリカの眼前に突きつけられた銃口によって、またしても狀況は一変した。

「アンジェラ、勝手に出ちゃダメじゃないか。お席に戻りなさい」

銃把を握る男の聲に、アンジェラと呼ばれたはタタッと駆け出す。

代わりに殘ったインド系の小太りの男は、震える銃を必死にエリカに向け続けながら、怯えたように呟く。

「アンタたち。申し訳ないが私らに構わんでくれ。私らはまだヤツらに捕まるわけにゃいかないんだ」

ただ、どれだけ騒に男が凄んでも、その震える銃と口元が全てを臺無しにしていた。誰がどう見ても、彼は武を構え慣れていない。

そんな人間に遅れを取るエリカではなかった。

男の死角、彼の腕の下から垂直にスルリと腕をばして銃口と引き金にかかる指の間に自らの手をりませて絡め取る。

「あ……う……」

弱々しいぎと共に男が震えるで僅かな抵抗を仕掛けようとするも、軍人のエリカの速度と正確に葉うべくもない。

あっという間にエリカの武裝が1つ増え、形勢は今一度覆った。

男に出來たことといえば、カチカチと歯を震わせることくらいだ。

『こいつには、逆立ちしたって葉わない』

素人の男がそう理解せざるを得ないほど、エリカの手並みは鮮やかだった。

「何だ?アンタ」

エリカの問いかけに、男は脂汗を滴らせるばかりでかない。

しかしながら、その回答を待っている時間はない。

「まあもう誰でもいいから退いてくれよ。アタシらさっさと逃げなきゃヤバいんだよ」

そう言って、エリカは男を押し退ける。周囲の安全を確認した彼のサインを見て、絵と源も続いた。

そのタイミングで、2人は目撃する。

隣のコンパートメントから、男の家族と思われる者たちが顔を覗かせていた。

ただ、その構は奇妙なものだった。

先ほどのアンジェラは、先にれた通り黒人。

だが、その彼を庇うように背後から抱くし年長のは東アジア人のような黃人種。

そして、母親であろう白人の

どう見ても、伝子の表現系が全員違う。

この集団は・・・・・、斷じて家族ではない・・・・・・・・・。

何か訳ありの、自分達と同じ逃亡者だ。

「ついて來たけりゃついて來ぃ。面倒は見れねぇが、同道すんのはそっちの勝手だ」

源の言葉に、訳のわかっていない子供たち以外が互いを盜み見る。

源は振り返ったエリカの手から銃を掠め取り、安全裝置をかけて母親役のに放り投げた。

々せぇぜぇ頑張んだな」

そう言い捨てて、源たちは移を再開する。

そうして、疑似家族に聲が屆かない距離まで歩いてから、絵はそっと源に呟いた。

「隨分意地悪するじゃない。アギーの真似事なんて……らしくないわね」

「バックアップねぇんだ、使えるもん使うしかねぇだろ」

しだけ顔の良くなった相棒バディの苦渋の呟きに、絵は背後をチラリと顧みる。

の家族たちは源の狙い通り、一定の距離を空けて追従していた。デコイの役割を任されたとも知らずに。

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