５

予想通りの反応だ。

運転士にランチャーを見せて車両を停めさせ、車掌にアサルトライフルを見せて全車両の全てのキーを解除させる。

すると、対象はすぐに逃げ出て來た。蜘蛛の子を散らすよう、なんて例えも聞くが、どちらかといえば蟻の行列に近い、綺麗な縦隊編だ。

ここまで予想通りに事が進むと、むしろ肩かし食らった気分だが、まだ最後の楽しみが殘っている。

平凡な人生を送っていたはずの一人のが、安定した生活を捨てて雇われ傭兵にを窶やつしてまで求めた、その楽しみ。

対象者確保の際、そのツレがウッカリ・・・・・・・流れ弾で・・・・死んでしまう・・・・・・、よくあるトラブル。その時対象者が見せる嗜心を刺激する絶的な表。かつて親友の男を寢取った時にもじた、誰かの人生を臺無しにしてやった快。

思い出すだけでも、背筋がとろけそうになる。

任務中は元を隠さなければならないが、たとえ強化外骨格越しでも、その姿が見れるものなら見たい。

その一心で、目標を、あのエセ家族を、追い詰め−−

『おいおいおい、何であのがいるんだ？』

赤茶けた荒野を真っ直ぐに貫く線路と、その上に並んだ21世紀頃のクラシカルな列車に沿って、目標のエセ家族がアリンコのように逃げて行く。

ただ、その先には別のグループの姿があった。

遠レンズで拡大して、目に止まったのは、ナイフ片手に先導するの姿だった。

西日でハレーションがキツかろうとも、見紛いやしない忌むべき仇敵に、心臓が高鳴る。

「久しぶりねエリカ！このクソアマ！」

拡聲機能を最大に上げてぶと、エリカはピタリときを止めてこちらを顧みた。

その眼差しに込めた殺気を隠そうともせず、燃えるような瞳を夕に灼かせてこちらを睨めつける。

相も変わらず強くてしい、凜としたその顔に、生まれて初めて嫉妬した記憶が蘇った。

たちまち、エリカがマイクに向かって咆哮した。

「失せろヴェラ！今すぐ消えろ！じゃなきゃ死ね！」

エリカは今にも飛び掛かって來そうな圧を飛ばして來るが、連れの２人を気にしてか、こちらに手を出して來る様子はない。

ヴェラとしても、目標はエリカたちの手前。今しがた車両の下に必死に潛り込もうとしている連中なので、何もここで殺り合う必要はない。

だが、気が済まない、というのは、彼にとって何よりもストレスだった。

あのだけは、エリカだけは、ただで帰してなるものか。

その一心で、スーツの左腕に著いているランチャーを撃った。

だが−−

「え？」

ヴェラの目に、不思議な景が飛び込んできた。

ランチャー系特有のフラフラとした軌道で飛んでいった弾が、急に車両から遠ざかるように外側に逸れ、更になぜかポップオフして車両から500メートルほど離れた所に著弾する。

急な軌道変更に面食らったが、遠くの音を聞く頃には、ヴェラには誰の仕業かがわかった。

エリカに続く、２つの人影の１つが、肩越しにこちらを見ている。

その眼差しに乗る殺気に、ヴェラのは高鳴った。

「エリカ、その面白そうなの誰？」

「……絡むんじゃねえヴェラ。怪我じゃ済まねえぞ」

気まずそうに目を逸らしながら、集音マイクが拾えるギリギリのボリュームで放たれたエリカの言葉に、ヴェラはその正の片鱗を摑む。

『エリカより立場が上の人間……でも、あの言い方からすると、そこまで親しい間柄でもない』

「そう……それはそれで面白そ−−」

舌舐めずりをする心持ちで呟いて、次弾を発しようと構え直した。

その時−−

「鬱陶しいタイプの子ね。男を使い捨てるのだけは得意そうだけど」

聞き覚えのない凜としたの聲と共に、ヴェラの視點がグルリと90度転回して、紅い夕空が視界いっぱいに広がっていた同時に、背中に來る鈍い衝撃。

なぜ転んだのか、誰に言葉を浴びせられたか、確認するまでもない。

さっきのだ。

「クソッ！今のは？アンタ一何したの　︎」

余りにも屈辱的な扱いに、頭に真っ赤なが満ち満ちて、ありったけの聲でびながら起き上がる。

だが、起き上がって銃口を向けたその先に、すでに憎きその姿はなかった。

しかも最悪なことに。

「……あいつらもいなくなってるし……クソッ！」

本來の目標であるエセ家族さえも、姿を消していた。