《VRゲームでもはかしたくない。》第1章2幕 雇用<employment>
扉を抜けるとそこは見慣れた景の初めてくる場所でした。
鉄の臭いと薬品の臭い、水気を含む植の匂いがします。
メンテナンス前にログアウトした場所なので私のホームに違いはありませんが、まるで別です。
壁にできたひび割れや、煉瓦特有のザラザラ、作られたBGMではない本の環境音。どれをとっても現実と寸分違わないリアリティーです。
し壁に向かい歩き、手をばしてみます。
小さい頃った、実家の塀と同じがします。
一歩、また一歩と歩く度、足が地面を摑むがし、心臓はバクバクと存在を訴えかけてきます。
これが……これがVRですか……!
本の質。
本の生命。
本の世界。
改めてVRのすごさを知りました。
商品を置いているスペースまで階段を下りていきます。
ちらっと見た窓から、今まではオブジェクトとしか考えていなかったNPCや目に突き刺さる街燈の燈り、そのすべてが私の鼓を高まらせます。
決して普段しない階段の上り下りのせいではありません。
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「あっチェリーさんこんばんわ!」
聞き覚えのない聲がします。
「今日は遅かったですね!」
あれこの娘……どこかで……
「9時になったら営業終了しようと思っていたんですよ! 今日お客さんないですし」
はっと気付き返事を返します。
「いつもご苦労様です。お客さんないのならしお話しませんか?」
そう話しかけると「わーい! 紅茶れますね!」といって奧に引っ込んでしまいました。
私がログアウトしている間も商品の取り扱いができるように雇用したNPCのフランでした。
さすがにこれにはびっくりしました。
疑似人格の適応とありましたがここまでとは……。
2分ほどしてフランが紅茶を持ってきてくれました。ついでにクッキーも。
「どうぞ!」
「ありがとうございます」
「いやですよー! 敬語やめてください! 私はあくまで従業員なんですから!」
「わかった」
そう言って紅茶を口に運びます。
「おいしい……」
リアルでも飲んだことがないような良い香りが鼻に抜けていきます。
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「えへへーありがとうございます! 今日頂いたお給料でおいしい茶葉買ってきちゃいました!」
「今度から紅茶はお店のお金で買っていいよ。それか領収書もらってきてくれれば返すから」
「えっ? いいんですか?」
「いいよ」
余談ですがNPCを雇用する際、毎月初日、倉庫から1か月分の料金が勝手に引かれます。
「この茶葉はいくらだった?」
「えーと……1500金ですね!」
1500金をインベントリから取り出し渡します。
「いいんですか!?」
「いいよ。おいしい紅茶れてくれたお禮」
「わーい! ありがとうございます!ここで働けて良かった!」
そこまで言ってくれるのはありがたいですね。一応こだわった店なので。
「あっそういえば私が休憩してる間の従業員みつかりましたー?」
えっ? 何の話?
「いつもは夜9時で私が仕事終わっちゃうじゃないですか! そこでそれ以降の時間チェリーさんいなくても平気なよう雇うって言ってたじゃないですか!」
言ってない。ある意味今日が初対面。
「そうだったね」
そういいながらヘルプの畫面から『NPCの雇用について』を開いて読む。
なるほど。
つまり今までは24時間365日ぶっ通しで働いてくれていたブラック労働のNPC達はVR化に際し、ホワイト労働者に進化したわけですね。
新しいNPC雇わなきゃいけなそうです。
あっ服とかもあげれるんだ!
ポテトが著てた服を制作して著せよう!
「フランの知り合いにいい子いる?」
「やー……いないですねー」
「そっか。じゃぁ募集出しちゃおっか」
「りょーかいです!」
『従業員募集』
『勤務地:『花の都 ヴァンヘイデン』』
『職種:接客、販売』
『店主から一言:働きやすい職場です。『セーラム』にてお待ちしております。』
現実で仕事の募集なんて見たことがないのでこんなもんでしょう。
「こんなじでどう?」
「いいんじゃないですか……?」
ちょっと目が泳いでますね。
「ではこれで募集出してきますね」
「っちょ! ちょっと待ってください! 私が出してきます!」
強引に募集用紙を持っていかれてしまいました。
夜とはいえまだ9時になっていないので危険はないでしょう。
マップを開くと4階の空き部屋が『フラン』の部屋となっています。
部屋の數分だけNPCを雇用できるみたいですね。
4階が二部屋と3階が丸々空いているのであと6人雇用できますね。
さてフランが戻ってくるまで時間があるので、思い出の旅ときに集めたドロップでもいじりましょうか。
そう思ってインベントリからドロップ品を取り出し作業臺に置きます。
作業臺のメニューを作し素材化しようとしたときのことです。
『以下の手順で素材化を実行してください。』
はい?
なにか間違えたかな?
再び作します。
『以下の手順で素材化を実行してください。』
あっこれもしかして……
またヘルプ畫面を開きます。
やっぱりですね。
今まで生産はワンクリックしてほったらかしでよかったのですが、仕様が変更になり決まった手順を踏んで自分の手でやらないといけないみたいです。
…………。
『フラン。まだ案所にいる?』
『いますよー!』
『募集に【鍛冶職人】、【魔職人】、【素材職人】、【錬金師】、【調薬師】追加して』
『えっ? 分かりました!』
NPCとチャットできる機能も使えますね。
ちなみにチャットは送りたい相手のことを考えて、容を考えるだけで送れます。
便利ですね。
ともかく部屋がこれでぴったり埋まってしまいますね。
手狹になります。
あっそうだ。
従業員用の家を買おう。
職人系の人にはそっちで作業してもらうことにして、こっちの家は販売擔當だけにしましょう。
そうしましょう。
あとついでに【料理人】と【菓子職人】も雇いますか。
そうなると従業員もふやさないとですね。
フランにさらに追加で【料理人】と【菓子職人】と食堂の従業員として【給】と【黒服】も募集するようにチャットをれました。
『花の都 ヴァンヘイデン』の空き件でなるべく広くてホームに近いところを探します。
すぐ裏手にいい件がありますね。
でもちょっと好みじゃないので卻下。
南通りを南に300メートルほど行ったところにもありますね。
広さもなかなかですね。
ここにしましょう。
件の場所までスキルを使ってスライド移してきました。
他人の目線がすごかったですが、こないだの執事騒の時ほどではありませんので無視です。
実際にってみると、なかなか広く居住スペースもしっかりしていたので即金購しました。
5980萬金の出費です。痛い。
従業員の雇用に功したら各々好きなようにカスタマイズさせましょう。
VRになるというのもいいことばかりではありませんね。
件の購をすませホームにもどるとフランが帰って來ていたので説明をします。
「というわけで職人系はそちらに住んでもらうことにするね」
「了解です!」
「面接に來たらその點説明しておいて」
「えっ? 私がやるんですか?」
「うん。まかせたよ」
「が……がんばります」
っとフランの就業時間が過ぎてしまいましたね。
「今日はもう時間だからあがっていいよ」
「はい! おつかれさまでしたー!」
そう言って階段を上っていきます。
さてと私は面倒くさいですが従業員の服を作りますか。
素材を並べてるときに仕様が変わったことを思い出しプレイヤーのお店にいくことにしました。
東通りにある『メイドらぶらぶ』というメイド喫茶風のお店にやってきます。
飲食もできますが、見た目重視の服や防を作ってくれるので前から大人気のお店です。
店主のファーナがちょうどいたので聲を掛けます。
「ファーナさんこんばんわ」
「お! チェリーいらっしゃい!」
「服の制作お願いしたいんだけど頼めますか?」
「いいよ! 機能はどうする?」
「特にいらないです。見た目重視のメイド服30著と執事服30著おねがいします」
「これまた結構な量だね」
「VR化して新規雇用することにしたので」
「なるほどね! お任せー! VRの服制作たくさんしておきたかったからちょうどいいタイミングだった」
「そういってもらえると助かります」
「超特急で作るからね! その白ポンだよ!」
「相変わらず、麻雀すきですね」
「<Imperial Of Egg>でも麻雀できるらしいよ?」
「機會があったらやりましょう」
「役満ぶち當ててやるぜー。っと3時間くらいでできるから自分の店でまってて」
「さすがですね。待ってます」
「またあとでねー!」
「はい。それでは」
『メイドらぶらぶ』で無事制作を取り付けることができたのでついでにギルドホームによって行くことにします。
「こんばんわ」
「ばんわわ!」
「こんばんー」
「ばんわーっす」
「こんこんー」
アクティブなメンバーは全員來てるみたいですね。
「あれ? ファンダン顔と形変えた?」
「変えた。どうよイケメンになっただろ?」
「ひげ面のほうがよかった」
「がーん」
「エルマはかわらないねー」
「のんのん! 変わってるよ!」
「あっほんとだ。よく見たら背がリアルと同じくらいになってるね」
「せいかーい! そういうチェリーも長はリアル準拠だね?」
「正解」
エルマとそう話をしていると後ろでひそひそとファンダンとハリリンが話していました。
「なぁ。あの二人ってリアルでも知り合いだっけ?」
「そんなこと聞いたことないっすよ?」
「だよなぁ? どっかで見たことあんだよなぁあの立ち姿」
「あぁ! 思い出したっす!! あれっすよ!! 秋葉原の家電量販店で並んでためっちゃいい匂いする二人組っすよ!!」
「……いわれてみればちょっと雰囲気がにてるよなぁ……」
そんな會話がされてるとはこれぽっちも思わない私たちはVRの想について語っていました。
ギルドホームでし話した後、ちょうどいい時間になったのでホームに帰ります。
「ただいまー」
「おかえり!」
すでにファーナが來ていました。
「あっごめんなさい!待たせちゃいましたか?」
「ううん。今來たとこだよ! ちょっとお品見せてもらってた。NPCか店主がいないと買えないのは不便だねー」
「そうですねー。でも雇用しちゃえばいいだけなので」
「それもそうだね! お品だよ!」
「ありがとうございます」
料金の600萬金を支払います。
「まいど! あっあとついでにこの小剣ちょうだい!」
「5萬金でいいですよ」
「格安!布の裁斷にちょうどよさそうでねー」
「【鍛冶職人】も雇う予定なので注文していただければ作りますよ」
「そん時はたのむね! じゃぁ私はお店にもどってメイドさん眺めるよ!」
「はい。またおねがいします」
ブンブン手を振って帰っていくファーナを見送り、購したメイド服を取り出します。
やはりいい出來ですね。彼に頼んで正解でした。
あれ? 1著多い。
手紙がっていたので読みます。
『チェリーへ これはたくさん素材おいて行ってくれたお禮☆』
真っ赤なロング丈のメイド服です。
せっかくだしちょっと著てみましょうか。
真っ赤なメイド服を裝備し、し歩いてみます。
思ってたよりきやすいですね。
メイド服を著たまま階段を上っていき、フランの部屋の前に來ます。
「はーはー……フランまだおきてますか?」
とドアを3回ノックします。
「いま開けますー」
と応いらえがありました。
「夜おそくにごめんね。従業員を増やすなら必要だと思って制服用意したんだけどどうかな?」
「!! めっちゃかわいい!」
「ありがとう。これフランの分」
そう言って5著分のメイド服を渡します。
「5著もいいんですか?」
「いいよ。前の日著たのまた著るのは嫌だと思って」
「すぐに洗えば次の日でも著れますよ!」
「仕事終わりに洗うのは大変でしょ?お休みの日にでもまとめて洗って」
「ありがとうございます……!」
「遅くにごめんね。明日もよろしく。おやすみー」
「おやすみなさーい」
ふぅ……
畫面越しでプレイしてるときはこの程度疲れのにもりませんでしたがさすがVRゲームです。これだけでもうクタクタになりました。
ホームの中に一応用意していたお風呂もちょっと試してみたい気はしましたが、それはまた起きてからにします。
とりあえず初VRの疲労はリアルの睡眠で消すとしましょうか。
ギルドのみんなに落ちると伝え、お店の看板の火を落とし、表札をCLOSEDに変更しログアウトします。
現実世界にもどってきた私は専用端末を頭から引っぺがし、そのまま深い睡眠に落ちていきました。
to be continued...
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