《VRゲームでもはかしたくない。》第3章13幕 お仕置き<punishment>
「エルマ……」
私はラビと貓姫の所在を尋ねようとします。
「うん。ごめんあたしがついていたのに……」
それだけで私にはすべてがわかってしまいました。
「エルマのせいじゃないよ。私も≪ナイトスター・スニーキングアイ≫の解除忘れてたんだし。取り戻さなきゃ二人を」
「まだ生きてるのはパーティーのおかげでわかるけど」
「パーティー組んでるし、≪シフト≫して乗り込んでくるよ」
「なら私もそうする」
「MPどのくらい?」
「短距離の≪テレポート≫が4回できるくらいしか殘ってない」
「わかった。なら私が≪シフト≫させる」
「お願い。防系の魔法しかいまは使えないから役には立たないかもだけどラビちゃんと英貓姫と合流できたらすぐに≪ゲート≫で避難するね」
「お願い。≪ダブル・シフト≫」
対象にラビが裝備していたベルトにある攜帯倉庫を選び、二人で≪シフト≫します。
視界は変わり、どこかの部屋の部に出ます。
景がれ替わったことを認識し、すぐに周りを見渡し、ラビと貓姫を探します。
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しかし、≪シフト≫してきたポイントにはどちらもいませんでした。
「≪シフト≫対策に持ちを沒収されてる」
「厄介だね。座標がわかれば≪テレポート≫できるんだけど」
現在座標に対してジャミングがかかってしまっているのでこの手は使えませんでした。
「とりあえず、近場で探そう」
「わかった」
そうエルマに聲をかけます。
普段エルマはメインキャラで魔法剣を裝備しているので私の【神 チャンドラハース】を渡しておきます。
「一応これ使って」
「ありがとう。結構軽いね」
「使いやすいよ。魔法剣よりも軽いし。壊れたら私のとこに戻ってくるから、壊すくらいの勢いで使っていいからね」
「うん」
エルマは剣をの前に立てる獨特なフォームで構え、戦闘に備えます。
部屋を出るとそこはどこかの民家だったようで、大通りに出ます。
「場所的には『ファイサル』の中央市街みたいだね」
「そうだね。人気がないだけでここまで変わるのか」
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「もともと人気はなかったけどね」
「そっか」
しゃべりつつ、パーティーチャットの送信を行いますが二人から返事はありません。
こちらのジャミングも解けていないようですね。発生源のプレイヤーを排除さえすれば解除できるのでいいでしょう。
理想としては〔最速〕か【天罰神】が排除してくれることなのですが、連れ去った張本人はラビと貓姫の近くにいるはずなので、排除には時間がかかるかもしれませんね。やはり適任は私達ですか。
エルマのサブキャラは複合屬魔法の≪蜃気樓≫が使えるので姿が隠せますし。
そう考えつつ、私は裝備を転換し、≪探知≫を発します。
敵に位置が知られてしまいますが、敵の場所を把握できるメリットと比べれば必要経費といったところでしょうか。
前方に4人。後方に6人。町の外に3人。
そして右に3人。左に5人いることが≪探知≫でわかりました。複數人が固まっているのはそこだけでした。単騎でうろうろしている人もちらほらと見かけます。
それを確認した私は、一括転換がクールタイム中なのでメニュー畫面を開き、いつもの裝備に戻します。
「わかった?」
「どこにいるかまではわからないけど人が固まっているポイントは見つけた」
≪探知≫によって得られた報を伝えます。
「ナイス!」
「中央市街でも結構王城寄りなのはわかってたけど、まだ【天罰神】が後方に居るのがちょっと引っかかるかな」
後方の6人のうち1人はレベル350を超えるプレイヤーだったのでそれが【天罰神】でしょう。
多対一に特化していると聞いていたのでもう王城に到達していてもおかしくはないはずです。高レベルのプレイヤーを相手にしていたのかもしれません。
【天罰神】のことを気に掛けるよりも、私達には捉えられたラビと貓姫の救出のほうが最優先事項です。
街の外は〔最速〕だと思うので除外しても、まだ前方と右方、左方の3カ所があります。
前方には恐らくいないでしょう。
敵本陣ですからね。
戦力として見てないにしろ、敵のプレイヤーとNPCをれるのには抵抗があります。
となると……。
左ですね。
「エルマ左に行くよ!」
そう言って私は路地をっていきます。
「どうして左なの?」
「私ならそうするから」
「ちょっとわからない」
「切り札にり得る人質を人數で守らせるとは思えないし、ジャミングのプレイヤー一人に任せるのは考えにくい」
「なるほど」
そう言いながら路地を駆け抜け、先ほどマークしておいたポイントまで到著します。
「この建だよ」
「うわー。いそうな雰囲気」
「雰囲気じゃなくて実際いるんだよ。っていっても≪探知≫に気付いて場所を変えてるかもしれないけど。行くよ!」
そう言って扉をバンと蹴り明け、建に侵します。
「クリア!」
一度言ってみたかったんですよね。
「チェリー……」
「やめて。そんな目で見ないで」
「……気を取り直して行こう」
「うん」
そうエルマに返事をし、建の部を啜んで行きます。
1階は現実の大企業それに近い雰囲気であり、特に気になるものはありません。
「エルマ。一応≪蜃気樓≫使っておいた方がいいかも」
そうエルマに言い、ポーションを投げ渡します。
「そうする≪蜃気樓≫」
け取ったポーションをポケットにしまい、エルマは≪蜃気樓≫で一時的に姿を隠します。
「基本的には私の後ろをついてきて、ラビ、貓姫を発見したら≪ゲート≫で離」
「イエスサー。パーティーチャットで返そうと思ったけど使えなかった。ビンゴだね」
「マムね。一発で當たりは気分が楽になるね」
そう言いつつも、気は引き締めておきます。
「上階に上がる」
エルマに告げ、私は奧まで歩き、階段を上り始めます。
2階へ上ると、侵者である私達を排除すべく、立ちふさがるプレイヤーが居ました。
「思ったより早かったですね」
そう私に言ったプレイヤーに見覚えがあります。
「一郎……」
ハリリンの弟子だった一郎というプレイヤーです。
「何を睨んでいるんですか?」
「裏切ったのね」
私は拳を握り、怒りを表します。
「裏切っていません。最初から仲間ではないですから」
「どういうこと?」
「報屋として、そして諜報活の第一線でプレイしているハリリンのスキルを奪うために接近しました。それだけですよ」
「そっか。じゃぁ向こうで探偵業頑張ってくださいね≪サイレンス≫」
「知っています」
私が即時発した≪サイレンス≫を一郎は何かしらの方法で遮り、言葉を続けていきます。
「全部知っています。この場では全力が出せないことも。一人で乗り込んでくるとか馬鹿ですか?」
「言うね」
「ええ。格上を倒すのは挑発が一番です。そうでしょう? 岡・田・さ・ん・」
リアルまで知られているみたいですね。
ストーカー認定します。
「岡田……? 誰ですか?」
冷靜かつ、意味が理解できていないことを裝いつつ返します。
「噓が下手ですね。興味が失せました。≪加速≫」
そう言った一郎の姿が目の前から消え、次の瞬間私の目の前に現れます。
「≪紅蓮・焔斬り≫ぃい!」
炎を纏った刀を私に向かって叩きつけてきます。
「≪アクア・シールド≫、≪マテリアル・シールド≫」
予想はしていたのであらかじめ用意していた対障壁と反的に生み出した水屬の障壁で防ぎます。
「調べ通りですね。過去は【暗殺者】、そして今は【真魔導勇者】。なるほど。AGI型でも楽には倒せませんね。でもここは貴が一方的に不利ですから」
ええ。その通りです。こんな場所で強力な魔法をぶっ放すと上階にいるであろうラビと貓姫に危害が及びます。
「知っているなら早いですね。一郎は魔法を組み合わせた高AGIのプレイヤーと戦ったことはありますか?」
「何を聞くかと思えばそんなことですか。ありますよ。もちろん」
「そうですか。でしたら私の勝ちですね。諦めて……本気でぶつかってきてください」
し眉を持ち上げ、疑問をじていたようでしたが、それを頭の隅へ追いやったようで、再びこちらに攻撃を行ってきます。
「≪紅蓮・焔切り≫」
「≪フレイム・アームズ≫」
火屬魔法で生した剣を右手に構え、一郎の攻撃をけ止めます。
「私のステータスをよくご存じですね」
「隠す気がないんでしょう?」
「ええ。ありません。ではなぜ気付かないのですか?」
「は? 何がです?」
「ふぅ。もういいです」
そう言った私は一郎との會話を止め、右手に力を込めます。
上段から振り下ろしてきた、一郎の剣を下からぐいぐい持ち上げていき、一郎の両腕を上へ持ち上げます。
「≪シャドウ・ボール≫」
そして空いている左手で闇屬魔法の一撃をお見舞いします。
「ぐああっ!」
2階の階段前から、窓際まで吹き飛んでいく一郎を興味なさげに見ますが、言いたいことがあるので伝えることにしました。
「一郎。STRの差とレベルの差考えるべきでしたね。ですが褒めてあげます。今の一撃で死ななかったということは多なりともVITに振っているみたいですね。ハリリンの教え通りです」
「お……おま……」
「そもそも両手で自分が上段から斬っているいるから大丈夫? 誰が決めたんですか? こちらは一郎のSTRを大幅に上回っています。だから? 関係ありませんよ。ステータスとスキルがすべてです。ハリリンの教えの1割くらいしか理解できていなかったようですね。彼は、変態ですが、馬鹿ではありません。対人戦では相手の力を出させないで自分の全力の攻撃を確実に當てる、それだけをやっていました。今のあなたはどうですか? 相手の土俵に自ら立って。自分のステータスに自信があったのですか? 慢心です。それがこの結果ですよ」
こんなことに割いている時間はないと頭では理解しているものの、苛立ちが収まらず、一郎に思ったことをすべて述べていきます。
「反論したいですよね? でもそれはから來ているものです。これは正論です。このゲームにおいてはこれが正しいんです。しばかり調べたところできちんと考えた対策を取りきることができないなら……一郎、もうこのゲームで対人戦しないほうがいいです。これ以上自分の自信を砕かれないうちに止めた方がいいですよ」
私が言い終えると、彼は全てを悟ったような顔をしてログアウトしていきました。
彼はもう二度と、この世界に帰っては來ないかもしれませんね。
心を折ってあげたので。
「エルマいる?」
「いるよ。私の知らないチェリーさん一面を見ちゃったからかわからないけど、足ががくがく震えてる。あとおしっこれた」
「言い過ぎ」
「でもほんとだよ」
そうは言っても今は姿が見えないので本當がどうかわかりませんが。
「さっきのプレイヤーって?」
「ハリリンの元弟子で諜報系のプレイヤーだったんだけど、もともと裏切るつもりでいたみたいだからお仕置き」
「なるほど。お仕置きのレベル超えてたよ」
「そう? とりあえず上にいこっか」
そう言い私達は上に向かい、階段を上り始めました。
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