「おまたせ」

ステイシーのお店の扉を開けながら聲をかけます。

「ほーい。知り合いの知り合いにも≪憑依≫を解除できる人いなかったー」

「そっか。一応≪狂戦士化≫の〔解除薬〕は貰って來たけど、≪獣化≫の方はむずかしいらしい」

「じゃぁのませてみよっかー」

そう言ったステイシーに〔解除薬〕を押し付けます。

そして私は店の一角で座っている貓姫に話しかけます。

「マオ」

「なに？」

「これあげる」

インベントリから取り出した鉄扇【風翫ふうがん】を渡そうとします。

「これは、扇子、かしら？」

「そう、鉄で作ってある」

「使い、こなせる？」

「使ってみて」

「わかった、わ」

そう言った貓姫が鉄扇をけ取ります。

「あ……」

ガシャーンと音を立てて、鉄扇が落ち、床にめり込みます。

「えっ？」

「なに！？」

素の聲で驚く私と、音に反応して飛び上がるエルマが同時に聲を出します。

「もて、ない……」

「え？」

「重くて、持てない」

「あ……」

私は鉄扇を拾い上げて確認します。

要求ＳＴＲ：30

あっ。なるほど。

貓姫のステータスを覗くために【稱號】を付け替え、頭裝備をれ替えます。

はい。初期値でした。

とりあえず貓姫にまだこの鉄扇は早かったようなので木と紙で作りましょうか。

【稱號】と裝備を普段のに戻し、貓姫に聞きます。

「どうしてLV100のままなの？　＜転生＞クエストはやってない？」

「＜転生＞、クエスト？」

そう首を45度右に傾け、知らないことを言葉と行で示してくれます。

「えっとね、レベルが100になったら＜転生＞クエストをけないとそれ以上レベルをあげられないの」

「そう、なのね」

「第二陣のログインが始まるまでにやりに行く？」

「そう、ね。今から行って、くる、わ」

「案するよ。エルマはどうする？」

「私も案所まで行くよ。案所で依頼出してくる」

「ダーロンのこと？」

「うん」

「じゃぁ依頼金はステイシー含めて3人で折半ね」

「りょうかい」

「じゃぁいこっか」

ここ『商都　ディレミアン』の案所に來るのも久々ですね。

前回來たのは……思い出せませんね。

三度目の＜転生＞を頑張っていた時は毎週來ていたのですが。

「ここが、案所、なのね。好き」

「あたしも結構、好きかな」

「學校を思い出すからちょっと苦手」

「どこで、うければいいの？」

「4階の＜転生＞クエストカウンターだよ」

「……。どこから、上ればいいの？　わからない、わ……」

「一緒に行くから大丈夫だよ」

「じゃぁあたしは2階のカウンターで依頼を出したら、1階の端っこで紅茶でものんでるね」

そう言って大階段に向かってエルマは歩き出しました。

「マオ、私達はこっちだよ」

「まって」

振り向いて歩きだした私の後ろトテトテと走ってぴったりとくっつきました。

「ごめん。急すぎたね」

「大丈夫、よ。ちょっと、見とれて、て反応が遅れた、の」

「4階は直通の階段があるからそっちから行くよ」

「わかった、わ」

そうして直通の階段を上ります。

「ところでマオ」

「なに？」

「戦闘経験は？」

「ソロの、クエスト、結構あったから」

チュートリアルクエストは全部ソロですからね。正直一度目の＜転生＞ボス〔水雷龍　ジャガードラゴン〕はその延長線みたいいなものですからね。

「アドヴァイスさせてもらうね。マオはダメージ完全無効化ができるでしょ？」

「ええ」

「全が黃くったらすぐに防スキルを発して。終わったらクールタイムで逃げ回り始めるから理で毆って」

「でも、マオ、武もってないわ」

「そこは大丈夫。適當な武を貸してあげる」

「そう。何か、マオ、でも使えそうな、のない？」

「実はいいものがあるよ。これを貸してあげよう！」

そう言ってインベントリに眠らせていたとある武を取り出します。

「マオは扇子を扱うためにＤＥＸが高いよね」

「全部、ＤＥＸに、ふってる」

「じゃーん」

そして取り出した【ジェミニウィップ】を取り出し渡します。

これは私が移補助に用いている鞭……というか紐です。

「紐……」

「紐っぽく見えるけどなかなか効果はいいよ」

「≪程延長≫、≪強度無視≫、≪自再生≫。いいわ」

「でしょ。やつが逃げ回り始めたらこの鞭で頭叩いてあげて」

「わかった、わ。おしおき、ね」

「そうそう」

「じゃぁ、いってくる、わ」

そう言って鞭をピシっとばし、クエストを注して、転送されていきました。

貓姫のＤＥＸなら數発で終わりそうですね。蓄積経験値がどうかはわかりませんが、クリア後には発的にレベルアップしているかもしれませんね。

貓姫を見送り、1階のテラスへとやってきます。

すでに依頼を出し終えたエルマが思いに耽って、人の流れをみています。

「どうしたの？」

「んー。ちょっと考え事」

「相談のるよ」

紅茶を一口飲み、ペロリと赤い舌でを舐めたエルマが話し始めます。

「サツキがログインしてきたら一緒に遊ぶじゃん？」

「そうだね」

「チェリーは遠距離魔法と裝備変えて近距離でしょ？　あたしは中遠距離とし近距離でしょ。ステイシーは遠距離。貓姫は近中距離。サツキは中遠距離」

「そうだね」

エルマは貓姫が近中距離なのを知ってたんだ。こないだ見たんでしょうか。

「バランス悪くない？」

「思った」

「遠距離しかできないステイシーには遠距離をやらせるとして、殘りの構はどうなるんだろうって考えちゃって」

なるほど。確かに難しいところですね。

一番近接戦闘に慣れているのは私で次點で貓姫でしょうか。

いくらダメージ無効スキルを持っているとはいえ、一番レベルが低い貓姫に前衛を任せっぱなしにするのは心苦しいです。

となるとエルマかサツキですが、サツキはＶＲの＜Imperial Of Egg＞は初めてですからね。

慣れるまでは難しいでしょう。そもそも武が魔銃なので基本が中距離ですし。

貓姫とサツキが慣れるまでは私が前衛を一人で擔當しますかね。

「じゃぁ貓姫のレベルがほどほどに高くなるまでは私が前衛やるよ。得意だし」

私がそう言うとエルマは驚きのあまり絶句という顔をしています。

「え？　えっ？」

「どうしたの？」

「チェリー。それってめっちゃき回るってことだよ？　わかってる？」

「わかってるよ？　戦闘中の移なら≪スライド移≫があるし。將來的に移が減るならその投資だって思ってる」

私がそう言うと、エルマは殘念そうな人を見るような目を一瞬した後、首を縦に振りながら「これでも……進歩かぁ……」とつぶやいていました。

エルマとそういう會話をしているときにふと『霊都市　エレスティアナ』のことを思い出します。

「あっ、そう言えばこの上に図書館あったよね？」

「あるねー」

「『エレスティアナ』の本とかあるかな？」

「あるんじゃない？」

「行きたい」

「じゃぁおねーさんもついていこーっと」

エルマは殘った紅茶をゴクゴクと飲み干し、ソーサーに靜かに置くと立ち上がりました。

「いまのうちに報収集だね」

「うん。私は車にしか興味ないけど」

「甘いねー。あまあまー。『エレスティアナ』は魔法武の最先端だよ？　魔法系の武を扱うものとしてその技でより武を強化したいはずじゃろ！」

「なるほど。【神】に高位の≪エンチャント≫ができる【付與師】とかがいるかもしれないしね」

「いやー。ワクワクしてきたー！　もうパーティーの配置とかどうでもいいや！」

そうしてやってきた図書館で本を読み漁っているとパーティーチャットで貓姫から連絡がありました。

『やっつけた、わ』

『お疲れ様』

『おつかれ！』

『どこ？』

『上の図書館にいるよ』

『わからないわ』

『おっけ。チェリーが迎え行く』

エルマがそう言ったので貓姫を4階まで迎えに行き、図書館まで戻ってきました。

「本の、匂い。好き」

「あたしも好き」

「何故か懐かしさをじるよね」

私達が生きる現代では、本は電子のが普通となり、紙の本はあまり一般的ではありません。それでも、紙の本が強い人気があるのも頷けますね。だって、こんなに落ちつくんですから。

それからステイシーのことを思い出すまで3人とも本を読みふけっていました。

to be continued...