「おまたせ！」

リーリがドンッと音を立てテーブルに4つのジョッキを置きます。

「景気付けに一杯いこうよ」

そう言ってひと際大きいジョッキを手に取ったリーリが高く持ち上げます。

それに従い私やステイシーもジョッキを持ち上げます。

「お姉さんもどうぞー」

ステイシーがそうジョッキをススッとらせるとほんのりと頬を赤くしたＮＰＣもジョッキを持ちました。

「いいよ。乾杯！」

リーリは一言そう言うとグビリとジョッキに口を付けます。

「かんぱーい」

「乾杯」

「いただきます。乾杯！」

そう言って私達もジョッキに口を付けました。

あまりお酒は飲まないのか、一杯飲んだだけで付のお姉さんは赤くなってコクリコクリと船を漕いでいました。

「ステイシー。どうやって連れてきたんだい？」

「ナンパー」

「君もよくやるね。一目見ただけで、このが年下の、しかも中的な男の子が好きだと気付いたものだよ」

しみじみとリーリが言いますが、そんなの見た目とかでわかるわけないじゃないですか。

「なんとなく目がそう言う目だったからねー」

「そっか。てっきり≪魅の眼チャーミング・アイ≫でも使ったのかと」

「あれは確かにＮＰＣには効果あるけど、そう簡単に使えないよー」

「ははっ。そうだったね。さて始めるよ」

リーリはそう言って手袋を裝備します。

「チェリーは見るのが初めてだからし驚くと思うよ」

そして手袋を裝備した手を、気持ちよさそうな顔で寢始めた付のお姉さんにかざします。

『開ケ　開ケ　思考ノ扉ヨ　記セ　記セ　ソノ過去ヲ　我ガ神ヲ供トシ　全テノ記憶ヲココニ開放セヨ』

『≪思考開放≫』

直後、付のお姉さんの額から數本のが出現します。

「これは？」

私が聞くとステイシーがリーリの代わりに答えます。

「記憶の柱ってやつらしいー」

私が頭の上で疑問符の柱を立てていると、リーリが説明してくれました。

「簡単に言うと種類ごとに分けた記憶の塊だよ。上に行けば行くほど新しいってじ。よし、終わった」

「おー。さすがー」

「ところでステイシーはどうしてこの人の記憶を見る必要があったのかな？」

リーリがステイシーにそう問います。

「その子に依頼を出した、もしくは、出そうとした人間に僕は會わないといけない」

ステイシーがいつになく真面目な聲と真面目な表で言いました。

「そうだよね。そんな気はしてたんだよ」

私には分からない報を何か得た様で、ステイシーは一人頷いていました。

「どうしたの？」

「なんでもないよー。じゃぁ『ヨルデン』の案所に行こう。リーリついてきてくれるー？」

「もちろんだよ。この件に関しては助力を惜しまない。また姫様が殺されたりしたら寢覚めが悪いよ。次こそは殺される前に止めてあげたい」

この一件が『海上都市　ブラルタ』の姫君殺害事件と関係しているということをいま私は初めて知りました。

私達はすっかり寢てしまった付のお姉さんを宿屋に預け、私の≪ワープ・ゲート≫で『商都　ディレミアン』から『騎士國家　ヨルデン』まで戻ってきました。

「案所に行く前に一ついいかな？」

リーリがそう言ってプレイヤーの経営する商店に走っていきました。

數分して戻ってきたリーリは大量のＴＰポーションをまるで栄養ドリンクの様にガブガブと飲んでいました。

そのまま私達は『騎士國家　ヨルデン』の案所へとり、依頼付カウンターへとやってきます。

「あー。男かー」

「なら任せてくれる？」

リーリがそう言って自に≪変裝≫を施します。

「さすがー」

「任せてっ」

先ほどとは口調も聲の高さも、すべてが変わったリーリが男職員をナンパしに行きました。

そしてトボトボと歩いて帰ってくるリーリを見て失敗だったと悟ります。

「何が悪かったのかな？」

し涙目になりながら≪変裝≫を解いてリーリが言ってきます。

「リアル含めてナンパに失敗したことなんてないよ」

ずっと小聲でぶつぶつ言っているリーリをステイシーがめています。

「私が聲かけてきてもいいかな？」

「うんー」

「ちょっと行ってくるね」

私は二人に言い殘し、付のお兄さんに話しかけるべく歩き出しました。

「すいません」

「はい。なんでしょうか」

「お聞きしたいことがあるのですが……」

「なんでしょう」

「好みのってどんなじですか？」

「僕は仕事が人なので、強いて言えばお母さんでしょうか」

「…………」

「…………」

こりゃ駄目だ。

強手段しかありませんね。

「そうですか。すいません変なことを聞いて」

「いえ。では仕事中なので」

「はい」

私は二人の元に戻り、失敗を伝えます。

「お母さんが好みらしい」

「それはいい。こうなったら強手段だよ」

私と同様にリーリも強手段にでる事を考えていたようです。

「的にはー？」

「「≪スリープ≫」」

私とリーリの聲が重なり、どちらともなく、くすりと笑いだします。

「≪スリープ≫なら寢かせる手間が省けるからね」

「無力化にはこれが一番」

理由は異なりました。

先ほどのＮＰＣが仕事を終え、案所から出てくるのを、張り込みの刑事のような雰囲気で待ちます。

右手には焼き鳥、左手にはビールですが。

「チェリーに話さなくていいのかな？」

ポツリ、リーリが言います。

「チェリー的には聞きたいんだろうけど、もうし待ってほしいー。話す前に解決しなきゃいけないことがあるんだー」

ステイシーの目ははぐらかす様なものではなく、決意の炎を奧に燃やしている様でした。

なので私は彼が話してくれるまで待つことにします。勿論、個人的には調べますけど。

「きたよー」

『眠レ　我ガ歌ニテ≪スリープ≫』

『睡魔ヨ　我ガ聲ニ宿リテ≪スリープ≫』

私とリーリで詠唱が異なりましたが、効果は大きいです。二人分の≪スリープ≫はさすがにＮＰＣでは耐えられないでしょう。

パタリと倒れたＮＰＣをステイシーが持ち上げ運んできます。

「セカンドホームまでー」

そう言ったステイシーの聲を聴いた私はすぐに≪ワープ・ゲート≫を発しました。

「ここならだれに見られるわけでもないしー」

「というか一等國家にこれほどのセカンドホームを持つってすごいね」

心したようでリーリは辺りをきょろきょろ見回しています。

「まぁいろいろあったんだよー。こっち」

ステイシーがＮＰＣの男を空き部屋に寢かせます。

「じゃぁリーリお願いー」

「わかったよ」

そう言ったリーリが先ほど『商都　ディレミアン』の案所で働くＮＰＣにしたのと同様に記憶の柱を引き出しました。

「やっぱりねー」

「こっちにもいたね」

私にもしっかりと見えました。

さっきも記憶の柱で見た男の姿が。

to be continued...