《VRゲームでもはかしたくない。》第6章13幕 薙刀<Naginata>
「ではこちらをご覧ください」
浮島は≪模寫≫か≪絵畫≫を持っているのか綺麗な地図をホワイトボード上に書きました。
「まず前提知識の確認をしますね。『海上都市 ブラルタ』の姫君殺害事件にはどの程度の理解がありますでしょうか。リーリさんにお聞きします。チェリーさんとステイシーくんは詳しく知らないでしょう」
確かに私達は、『巖塩都市 ファイサル』の一件の方で主軸になっていましたので『海上都市 ブラルタ』の姫君殺害にはあまり詳しくありません。
「ボクが知っているのはあくまで一般的に出回っている報までだよ」
「わかりました。では詳しく説明しますね」
そう言った浮島が説明を始めるべく眼鏡を裝備し、クイっと持ち上げました。
形からるタイプですね。
「『ファイサル』の一件が発生した同時刻、『ブラルタ』に數人の諜報系プレイヤーが侵しました。そのうち一人は恐ろしいほどの手練れでした。名を……田アマガミと言います」
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「っ!」
この間、アマガミが『海上都市 ブラルタ』の姫君殺害をほのめかしていましたが、やはり名を聞くと反応してしまいます。
「チェリーさんはすでに田アマガミさんと遭遇しているのですよね」
私の反応か、事前に集めていた報から知っていたのかは分かりませんが、『叡智會』は敵に回してはいけない組織のような気がしてきました。
「タイミングが悪かった、というより、そのタイミングを見計らったというじですが、『ブラルタ』の鋭兵団は壊滅。同盟國である『マスティア』からの増援【天罰神】如月開斗くんは不在。『天平』の<最速>ござる丸くんもデスペナルティーで不在という狀況でした」
ごくりと私は唾を飲みこんでしまいます。
「結果的に田アマガミさんを押さえきれず、姫君を……マズールカ・マキュレ・ブラルタ様を亡くす結果になりました」
悲しげな聲になった浮島の話を聞いていると何も言葉が出てこなくなります。
「最終的には何とかデスペナルティーにしましたが、犠牲は大きすぎました」
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「うちも殺されたしなぁ」
「もこちんさんも?」
「その呼び方なれんなー。もこでええよ」
「わかった」
「うちら『叡智會』の支部長、支部副長クラス全員集まったんやけど、結果的に本部長が周囲の味方ごと地形をフッ飛ばしてデスペナやったで」
もこちねるは「ちなみにうちは近接やから即死んだで」そう付け加えます。
「こちらの被害はまぁこの際置いておくとしても、こちらの報を得るだけの報網と単騎で數十人のプレイヤーを打倒しうる強さ。正直手に負えない相手だと思いました。そこで私達『叡智會』の中で最も強いプレイヤー、つまり本部長がずっとマークしています。逐次向を報告し、私に報告するようになっています」
だから、私がアマガミと接した事も知っている、ということですね。先ほどの私の疑問は後者だったようです。
「だから連絡をとったんだよー」
「だと思いました。ではここからが、一般に公開されていない報になります」
今までの報でもそこら辺のプレイヤーが知っている容よりも深かったですが、ここからが、報屋の領分ということでしょうか。
「田アマガミさんをデスペナルティーにしたことを、私達はリアルを用いて伝達しました」
もこちねるが攜帯端末を握っているような仕草をします。
「そして油斷から警備が疎かになっていたのです。ところで皆さんは『ブラルタ』にVRになってからいらしたことは?」
突然私達に質問をしてきます。
「僕はしー」
「私もちょっとだけ」
「ボクは今回で二度目だね」
「いま皆様の前にあるホワイトボードの上にあるのは改正前のです」
「えっ?」
私は驚きマップを開きます。
そしてさらに驚きを重ねました。
「チェリーさんのお考え、その通りです」
正面の地図と比べると、日食のように無くなっている部分がありました。
「その無くなっている部分が本部長の攻撃の後なのです。しかし、田アマガミさんを討伐した油斷から、私達は『ブラルタ』への侵を許しました」
「さすがに出の管理、警備はしっかりしていないわけではないよね?」
リーリが浮島を見ると、浮島は首を縦に振ります。
「勿論です。しかし、唯一警備が手薄になっている場所があったのです。それはここです」
そう言ってホワイトボードをクルリと回し、現在の『海上都市 ブラルタ』の地図へと変え、蟲食いのように開いた一點をさします。
「そうです。本部長が刻んだ傷跡。そこから第二陣が侵攻してきたのです」
「それが問題なんよ。考えてみー? たった今できた空白地帯にどうやって兵を送り込むんや?」
もこちねるの言う通りですね。それができると言うことは、狀況を見ていたとしか思えません。
「私達は仮説を立て、そして捜索しました。このような事ができるプレイヤーがいるのか、を」
「結果はいない、やった」
「そうなのです。合致するプレイヤーはいませんでした。なくともこの『ブラルタ』に國した敵にはそんなプレイヤーがいた痕跡はありません。殘るは空に浮いていたか、それとも、水に潛っていたか、そのどちらかです」
確かにどちらも現実的な方法ではありませんね。ゲームですが。
「そこで僕から関係ありそうな人の畫像をご提供ー」
ステイシーが先ほど二人のNPCの記憶の柱から切り取った畫像を見せます。
「なるほど。対価としては十分ですね」
そう言った浮島が一瞬だまり、次に眼鏡をはずして言いました。
「許可を出します。もこ。ステイシーくん、チェリーさん、リーリさんと共に、この人を調査してください。では『叡智會』から二日間ないしはもうし長い時間私兵訓練の依頼をこなせる人を手配します」
そういって浮島がお辭儀をし、もこちねるもお辭儀を返したので、私達もつられてお辭儀をします。
「はぁー。めんどいことになったなー。これうち巻き込まれ損やろ」
ぶつぶつと文句を言いながらもこちねるが『叡智會 支部本部』を出ます。
「パーティー組むで。事が事やから今回はうちのパーティーで勘弁してな」
そう言って私達にパーティーを送ってきます。
もともと組んでいるエルマ達の方に一言殘し、もこちねるのパーティーに參加します。
「一応の実力見ておきたいんやけど、うちのセカンドホームでちょっと模擬戦しーひん?」
そう言ってちらりと視線をかします。
「いいよ」
「いいよー」
「ボクも構わないよ」
「決まりやな。んじゃついて來ー」
そう言ったもこちねるについて行きます。
「いくでー」
まずはステイシーの実力把握で模擬戦が行われましたが、結果はもこちねるが瞬殺されていました。
続いてリーリの模擬戦が始まります。
「≪マテリアル・シールド≫」
「どっせーい」
もこちねるが薙刀を一薙ぎするとパリンと何かわれる音がし、リーリが背後に吹き飛ばされます。
「まぁ普通こんなもんやろなー。ステイシーがおかしいんと違う?」
そう言って私を見ます。
「チェリーの実力は見ぃひんでもわかるけど、一応なー」
もこちねるがそう言うので私は二歩ほど前に出ます。
「まった。うちが知りたいのは魔法の実力やない。近接の実力や。それが重要な気がするんよ」
そう真剣な目で言われた私は両手の【神】を外し、短刀と短剣を裝備します。
そして腰についている【神 チャンドラハース】と増やしたスロットに【春野】を裝備します。
「ほう。近接でもなかなか手ごわそうや。いくで」
直後もこちねるが目の前に現れ、薙刀を振ります。
しかし、その作は全て見えていたので、私は、しゃがむことで回避を選択しました。
「そうくると、おもったで」
もこちねるの聲が聞こえた瞬間、私の視界に振り下ろされる薙刀が見えました。
「ふっ」
私はを捻ることで回避し、続くもこちねるの攻撃を持ち前のAGIで回避していきます。
「このままじゃ勝てへんな。≪範囲増大≫」
ブンッと薙刀がり、先ほどより、範囲が広がっていました。
このままだと避けるのも一苦労ですね。
そう考えた私は、≪対応転換≫を用い、【春野】を裝備しけん制するかのように撃ちまくります。
「見え見えやで」
そう言って常識では考えられない速度で振られる薙刀が方向を転換し、私の右腕を狙ってきます。
でもそれは……。
「私の勝ち」
左手に握られていたはずの【短雷刀 ペインボルト】が後ろからもこちねるのを貫きました。
「なんでやっ!」
それをみたもこちねるが大聲でびました。
「チェリーさっきの何なん?」
「簡単な話だよ。ステイシーとリーリの模擬戦を見ていて弱點に気付いただけ」
「弱點?」
「AGIの低さと、振ってる最中は移ができないこと。だからずっと攻撃をさせてたの」
「答えになっとらんよ」
「あぁ。その答えは……これだよ。≪投擲≫」
私はそう言って実踐して見せます。
≪投擲≫された、【短雷刀 ペインボルト】が遠くに飛び、そして私の手へと戻ってきました。
「なんで戻ってきたん?」
「武に宿った霊に持ってきてもらった」
「それ普通に凄い発想やな。新しいビルドが完するで。いや、ほんまに。というか霊だしてたんか!」
もこちねるは「ずるいぞ!」と抗議の聲をあげていますが、私は魔法は使っていないので、これはセーフです。
すこしいじけているもこちねるをリーリがめ、落ち著くと、私達は、準備を整えるために再び街へと繰り出しました。
to be continued...
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※書籍化決定しました!! 詳細は活動報告をご覧ください! ※1巻発売中です。2巻 9/25(土)に発売です。 ※第三章開始しました。 魔法は詠唱するか、スクロールと呼ばれる羊皮紙の巻物を使って発動するしかない。 ギルドにはスクロールを生産する寫本係がある。スティーヴンも寫本係の一人だ。 マップしか生産させてもらえない彼はいつかスクロール係になることを夢見て毎夜遅く、スクロールを盜み見てユニークスキル〈記録と読み取り〉を使い記憶していった。 5年マップを作らされた。 あるとき突然、貴族出身の新しいマップ係が現れ、スティーヴンは無能としてギルド『グーニー』を解雇される。 しかし、『グーニー』の人間は知らなかった。 スティーヴンのマップが異常なほど正確なことを。 それがどれだけ『グーニー』に影響を與えていたかということを。 さらに長年ユニークスキルで記憶してきたスクロールが目覚め、主人公と周囲の人々を救っていく。
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