目の前に迫る≪ダーク・ピアス≫と頭上に生される≪シャドウ・ボルテックス≫の発による歪みを認識し、私は腰の【神　チャンドラハース】を抜刀します。

切り札として事前に考えていたうちの一つは【神　チャンドラハース】に≪付與≫を行い威力の底上げを図ることでした。

今回防に用いなければいけなかったのは予想外ですが。

「≪アース・エンチャント≫、≪ホーリー・シールド≫」

マルチキャストにはマルチキャストで答えましょう。

土屬魔法を纏った【神　チャンドラハース】で≪シャドウ・ボルテックス≫をけ止め、正面から飛んでくる≪ダーク・ピアス≫を≪ホーリー・シールド≫でけ止めます。

「本當に見事だね。今のは片方をガードすればもう片方で死ぬ。同格と思うことにするよ」

「ありがとうございます。では試合後時間よろしいですか？」

「それは勝ってから言いな。≪シャドウ・ミラー≫」

やはり來ましたか。私の知らない闇屬魔法。察するに、オリジナルスペルだと思いますが。

「≪リフレクション・ステージ≫」

マーリンがそう言うと、闇屬魔法により生された黒い鏡が、闘技場のフィールドを取り囲みます。

んー。まずいですね。完全に向こうのペースにはまってしまいました。

救いとしては、私がまだ一度も闇屬魔法を発していないことでしょうか。

これを利用できれば、不意が付けますね。

「駆け巡れ！　≪シャドウ・ライン≫」

マーリンが放った一本の≪シャドウ・ライン≫が≪シャドウ・ミラー≫を通り、威力、速度を上げ、私に迫ります。

これは防ぎ切れませんね。ですが防がないで避けると、さらに威力と速度を増して迫ってくることになります。

剎那の時間で私は思考します。

今現在この狀況を打破する方法は二つありそうです。

一つはより上位の環境改変を行い、この鏡のフィールドを破壊すること。

もう一つは、私が今すぐに≪ミラー≫シェイプを習得し、マーリンに向けて跳ね返すか。

現実的なのは前者ですが、まだ取っておきたいという覚があり、私は後者を選択しました。

「≪シャドウ≫」

しずつ早くなる魔法を無意識に躱しながら、頭の中で闇・屬・・を・含・む・魔・法・を反する鏡を想像し、制作していきます。

複雑な過程はなく、ただ発に使用した屬を含む魔法を反するというだけで良いのですぐに完しました。

「お返しです。≪シャドウ・ミラー≫」

まず私の正面に一枚生し、直撃寸前だった≪シャドウ・ライン≫を跳ね返します。

「なにっ！？」

私が闇屬魔法を扱えることに驚いたのか、それとも跳ね返されたことに驚いたのか、マーリンは聲を上げます。

「≪シャドウ・ミラー≫」

マーリンは自分の正面に≪シャドウ・ミラー≫を生しました。

よっし。上手くいった！

「≪ホーリー・エンチャント≫」

私は心の喜びを隠しつつ、今度は屬魔法を【神　チャンドラハース】に≪付與≫します。

そして私が出した正面の鏡とマーリンが出した正面の鏡以外を叩き割ります。

すると速度、威力を増し、正面で≪シャドウ・ライン≫の応酬が始まります。

こうあってしまえば、もうお互い制不能で、手出しができなくなります。

「予想外だよ。本當に驚かされる。≪ダークネス・チャンジ・トゥ・セイクリッド≫」

來ましたね。やはり【墮天使】の【稱號】持ちの様です。

今マーリンが使ったのは闇屬魔法を聖屬魔法として扱えるものです。

私が闇屬魔法を扱えると気付いた後、屬変更までの反神経はさすがと言えます。

しかし、これで私は二つ目のカードを切らずにほぼ勝利を確信しました。

「≪ダーク・ピアス≫」

「≪ダーク・シールド≫」

聖屬魔法となった≪ダーク・ピアス≫を、私は≪ダーク・シールド≫で防ぎます。

ここでマーリンにあせりが出始めたのか、ミスが出ました。

「≪シャドウ・ボルテックス≫」

屬変更は原則一つにつき一つです。

いまマーリンが発したのは複合屬魔法。

つまり闇・屬・・と・雷・屬・・の複合屬魔法でしかない、ということです。

後だしじゃんけんのようなじで申し訳ないですが、勝利は譲れません。

「≪シャドウ・ミラー≫」

私が二枚生した≪シャドウ・ミラー≫により、私に降り注ぐはずの≪シャドウ・ボルテックス≫がマーリンの元へと向かっていきます。

「くっ……！　≪ダーク・シールド≫」

ここはさすが猛者です。自の発する屬が聖屬に変更されている事をしっかりと考慮にれ、聖屬と化した≪ダーク・シールド≫で跳ね返ってきた≪シャドウ・ボルテックス≫を防ぎます。

「ふぅ」

マーリンの安堵の聲をマーリンの背後で聞いていた私は、聖屬魔法が≪付與≫されたままの【神　チャンドラハース】で一閃し、勝負を決しました。

「降參するよ。正直驚いた。ここまで闇屬魔法と魔法を理解しているとは思わなかったよ」

「私より、もっと詳しい人が反対側の枝で戦っていますよ。恐らく決勝戦に出てくるでしょう」

「そうか。是非その試合を見てみたいものだ」

「では決勝戦が終わった後時間頂けますか？」

「敗者に斷る資格なし。なんでも聞いてくれ」

「分かりました」

地面に座り込んでいるマーリンに私は手を差しべ、立たせます。

直後、會場がドッと湧き、勝者のアナウンスが流れます。

私は例のごとく次の対戦相手の手のを知れない様に別室に連れて行かれます。

その途中で準々決勝から私を案してくれているＮＰＣが話しかけてきます。

「見事な試合でした。相手の土俵にり、それを上回るとは」

「いえいえ。これは本當にたまたま作戦が上手くはまっただけです。し危ないところはありましたが」

「闇屬魔法はマーリン選手に合わせてお使いになったのですか？」

「いえ。もともと闇屬魔法が得意なんですよ」

「なるほど。左様でございましたか。三回戦まで剣をメインに戦っていたのはこのための布石でしょうか？」

「魔法使いになる前は【暗殺者】でしたので」

「腑に落ちました」

「良かったです」

そう會話をしていると別室に著いたので、私はそこで次の試合の終了を待ちます。

その後、次の試合が終わり、私の次の対戦相手がムンバだと知ります。

順當に勝ち殘ってるんだね。

私は心の中で呟いていると、ムンバの戦闘を全く見たことがないことに気が付きました。

先ほどまでの試合のモニターもムンバやアリス、ステイシーのはほぼ確認していなかったので、しの不安が出てきます。

準々決勝が終わり、準決勝の場へと引き摺り出された私は、ムンバに敗・北・しました。そしてステイシーまでもがムンバに敗北してしまいました。

「まさか俺が優勝するとは思わなかったな」

闘技場を出たところでムンバが背筋をばしながら言います。

「正直予想外過ぎて……」

私が言った通り、ムンバの戦い方は予想外の一言に盡きました。

銅像を抱えて出てきたかと思ったら、≪傀儡≫を用いて銅像を作し、≪付與≫を行った銅像で攻撃してくるのです。

それだけではなく、本人も多彩な武に≪付與≫を行い攻撃をしてくるので、常に一対多の狀況に追い込まれ、すぐに敗北してしまいました。

ステイシーも自の魔法が銅像に全く通らず、完敗してしまいました。

「ま、敵が強ければ銅像の數が増えるだけなんだけどな」

そう言って笑うムンバの後ろから、マーリンが手をあげながらやってきました。

to be continued...