の生存者を見つけたトバリは、思案していた。

とりあえず、がどの程度の狀態なのかを確かめるのが先決だ。

あの部屋の中に食料はまだ殘っているのか。

衛生狀態はどの程度のものなのか。

……この狂った世界で、まだ正気を保てているのか。

正直、生存者が一人いたところで、あまり進んで助ける気にはならないというのがトバリの本音だった。

とはいえ、いまだにパンデミックの概要くらいしか知らないトバリにとって、この地獄の中を生き延びてきた人間というのは、それだけで貴重な存在だ。

病人や狂人ならともかく、まだ健康で落ち著いて話ができる人間であれば、しぐらい助けてやるのもやぶさかではない。

「……っ！？」

しかし、悠長に考えていたせいで、それ・・に反応するのが遅れた。

ゾンビたちが、の聲に反応するような危険な挙を見せたのだ。

彼らはふらふらとレジの方へと歩き、が立てこもっている部屋を目指し始めた。

「――くな」

トバリがそう呟くと、ゾンビたちのきがピタリと止まった。

どうやら、小聲でもトバリの認識範囲ならば命令は有効らしい。

まとめサイトの記述では、ゾンビは視覚と聴覚を頼りに獲を認識しているということだった。

ここで、ゾンビは人間の聲に敏なのだと再確認できただけでも収穫だ。

トバリがゾンビたちを止めたのは、中にいるにゾンビの存在を認識させないためだ。

ゾンビたちを靜かに外に逃がせば、コンビニの中には最初からゾンビはいなかった、ということにすることもできる。

つまり、と接する狀況の選択肢をかなり増やせるのだ。

「……さて、どうしようか」

できれば、トバリは他の人間に、ゾンビをる力があることを知られたくない。

こんなモラルも何もない世界でそんなことを知られたら、どうなるかわかったものではないからだ。

トバリの能力は、ゾンビ相手にはほぼ無敵と言っても過言ではないが、人間だけしかいない所ではなんの役にも立たない。

「お前ら。靜かに外に出て、他のゾンビがここにってこれないようにしといて」

トバリがそう言うと、ゾンビたちはコンビニから出ていった。

どうやら、うまくいったようだ。

他のゾンビがここにって來られないように、というのはし厳しいかもしれないが、とりあえずこれで店からゾンビはいなくなった。

「……あまり大きな聲を出さないでもらえませんか？　ゾンビたちが近づいてきたらどうするつもりなんです？」

トバリはドアのほうへと近づき、できるだけ抑えた聲で向こうにいるに話しかける。

「あっ……ご、ごめんなさい」

はし落ち著いたのか、聲が小さくなった。

「とりあえず、ドアを開けてもらっても？」

「……もう、そこにゾンビはいないんですよね？」

「このコンビニにはいませんよ」

はそれでもしばらく渋っているようだったが、やがてドアを開けて、トバリを中に招きれた。

「うっ……」

部屋の中から、なんとも言えない悪臭が漂ってくる。

まあ、無理もない。

こんな狹い空間では満足に排泄の処理もできず、も洗えなかっただろう。

部屋の中は殺風景だった。

無骨な機と椅子、それに業務用のロッカーが置いてあるだけの、簡素な部屋だ。

もっとも、モノはそこらじゅうに散らかっていたが。

「――って、夜月！？」

「……ん？　あれ？」

トバリは、の顔をまじまじと見つめる。

よく見ると、その顔はトバリにとって見覚えのあるものだった。

「……もしかして、葛城かつらぎか？」

は、トバリのクラスメイトの一人だった。