トバリは家を出た。

生存者が見つかった時のために、自分たちが食べる分も含めて、量の食料と飲料を持ってきている。

萬が一のことを考えて、護用の包丁と、金屬バットもバッグにれてある。

準備は萬端だ。

道路には、ガラス片やの跡がそこらじゅうにあった。

近くにある建は、一目見ただけで荒らされているとわかる。

大量の車が乗り捨てられ、帰ってくるはずのない運転手たちをひたすら待っているようにも見えた。

そして、ゆらゆらと歩くゾンビたちが道路を闊歩している。

まるでそこが、自分たちのいるべき場所なのだと言わんばかりに。

外の世界は、昨日までと何ら変わりない景をトバリに示している。

終わってしまった世界は、まだ続いていた。

今日、トバリは小學校へ行ってみるつもりだった。

生存者の集団と接して、報の換を行いたいと考えていたからだ。

「まあ、ちゃっちゃと終わらせよう」

午前中とはいえ、まだまだ夏の暑さはりを見せない。

あまり長時間外にいようとは思わなかった。

「さて、と」

小學校の正門は閉まっていた。

トバリは正門をよじ登り、小學校の中へとる。

平時なら警備員さんが常駐している小さな小屋は、當たり前だが無人だった。

その代わり、ゾンビたちが人間の侵を拒むように辺りをうろついている。

中には、小學生くらいの子どもの姿もあった。

トバリは、正門のすぐ隣にある育館に目を向けた。

小學校で避難する場所と言えば、やはり育館だろう。

長期間の篭城には、お世辭にも向いているとは言えないが。

「……こりゃひどいな」

育館の扉を開けたトバリは、顔をしかめた。

避難所だったらしい育館は、凄慘な狀態だった。

あちこちに赤黒いで染まった布やら服やらが散し、バッグやリュックサックなどが置きっぱなしになっている。

中を漁ると、懐中電燈やラジオ、電池などの避難用の道に、通帳や現金などもっていた。

とりあえず懐中電燈とラジオを拝借しておく。

家電量販店などに行く機會があれば調達できるだろうが、そこにいつ行けるかもわからない。

よろよろと歩くゾンビたちを避けながら、トバリはを終えた。

育館の中にも、それなりの數のゾンビたちがいたところを見ると、おそらく避難民がいた時期はあったのだろうが、それらはほとんど壊滅してしまったのだろう。

収穫をリュックサックの中に詰め込み、育館を出た。

「……結局、生き殘りはいなかったか」

當初の目的である、生き殘りの人間たちと接するという目的は達できなかった。

しかし、もしかしたら校舎の中に立てこもってる人たちがいるかもしれない。

トバリたちは早速、空いている口を探してみることにした。

ほとんどのり口は鍵がかかっていたが、正面玄関のガラスが割れていたので、そこから侵する。

「……こりゃダメかもしれないなぁ」

校舎の中には、あちこちにゾンビの姿があった。

年齢層もさまざまだ。

小學生くらいの子供もいれば、人している男や、老人の姿もある。

「……ん？」

一階にある部屋を見回っていたトバリは、すぐに違和に気がついた。

「これは……」

教室のドアの鍵の部分が、破壊されている。

教室の窓や、他の教室も同様だった。

トバリがこれまでに見ていた限り、ゾンビに鍵を破壊するほどの知能はないように思える。

つまり、これは人間がやったと考えたほうがいい。

小學校の教室の鍵など、その気になればすぐに壊せるが……そんなことをするメリットがトバリには思いつかなかった。

もしかしたら、外にゾンビが溢れている中に、教室で篭城していた子供たちを……。

「いや、でも仮にそうだとしたら、この鍵を壊した奴のも危なくないか……？」

まあ、本當のところはよくわからない。

念のために、この先はさらに気を引き締めて進むことにする。

とにかく、一階部分には生存者はいなかった。

トバリは二階へと向かった。

「これは……」

二階は、一階と比べるとだいぶ様子が違っていた。

バリケードの殘骸のようなものが殘っているため、何人かの人間はここに篭城していたのだろう。

だが、殘骸だ。

今現在、ここに人間が篭城している気配はなかった。

この階も、教室のドアの鍵は破壊されていた。

窓も破壊されているため、教室の中に生きている人間がいないのは一目瞭然だ。

次に、特別教室が集まっている區畫に向かう。

このあたりは普通の教室とは異なり、外から教室の中までは見ることができない。

白いプレートには、『コンピューター室』と書かれている。

トバリはその教室にってみた。

「うぉ……」

のゾンビが、年の死を食っていた。

おそらく、両方とも小學生だ。

は、年齢の割に長い黒髪をツインテールにしている。

年の方はうまく見えない。

その場にしゃがんでいるは、年の指を口にくわえていた。

と骨が砕ける嫌な音が辺りに響き、びちゃびちゃとの滴る音がトバリの耳を叩く。

それはあまりにも冒涜的な景だった。

「……やっぱり、ゾンビは人を喰らうのか」

そして、トバリの中でし疑問に思っていたことの謎が解けた。

ゾンビになっていた時の剎那がトバリに噛み付いていたからそうではないかと思っていたが、やはりゾンビは人を喰らうようだ。

そんなことを考えながら、トバリがその場を立ち去ろうとした、そのときだった。

「……ん？」

視線をじたトバリは、後ろを振り向いた。

「……っ」

のゾンビが、トバリのことを見ていた。

思わず、そのあまりにも空虛な瞳から目を逸らしてしまう。

何となく、嫌なじがする。

のゾンビを殘して、トバリがコンピューター室から出ようとした、まさにそのときだった。

ゾンビのが立ち上がり、トバリのほうに向かって歩き始めた。