《終わった世界の復讐者 ―僕はゾンビをってクラスメイト達に復讐する―》第25話 日記

「生き殘りは……いなさそうだな」

「そう、だね」

トバリとユリは、昨日話していた通り、高校へと足を運んでいた。

剎那には、家でユリにサイズが合う服を探してもらっている。

萬が一戦闘が起きた場合、並みのゾンビ程度の戦闘力しかない剎那を守り切ることができるか怪しかったし、トバリ自、今回の探索には剎那の力は必要ないと考えていたからだ。

高校の敷地には、大量のゾンビたちが徘徊はいかいしている。

そのほとんどが、制服を著たままの男子高校生や子高校生だ。

たまに、教師らしき中年のゾンビも混じっている。

「それにしても……やっぱり、安藤が言ってたことは、どうやらあいつの夢や妄想の類ってわけじゃなかったみたいだな」

トバリの視線の先には、不自然に腹部が抉れたゾンビたちがいる。

一匹や二匹なら気にも留めないところだが、それが數十匹もいるとなると話は別だ。

「めずらしい、ね。ゾンビは、手とか、足には、食らいつくけど、お腹は、あんまり、食いつかないのに」

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「やっぱりそうなのか」

ユリの話では、普通のゾンビは、人間の腹部を食い破ったりすることはほとんどないらしい。

そのあたりのゾンビの習はトバリにはよくわからないので、ユリがいてくれて助かる部分でもある。

機を積み上げられて作られた簡易的なバリケードを乗り越えて、トバリとユリは校舎の奧の方へと進んでいく。

それに伴って、その辺をうろついているゾンビの數も増えていった。

「かなり増えてきたな……。安藤が言ってた篭城組は、やっぱりこの辺で立て籠もってたのかね」

「たぶん、そうだと思う。このあたりは、明らかに、ゾンビの數が、多くなってる」

お互いの意見を共有しながら階段を上がり、トバリとユリはある部屋の前で立ち止まった。

職員室である。

「安藤の話だと、法の男の対応は、まず先生たちがしたらしいからな。……『セフィロトの樹』に関する手がかりが何か殘ってるとしたら、ここか、生徒たちが寢泊まりしてた教室だと思う」

「そう、だね」

トバリは、職員室のドアを開けた。

「うわ……。ひどいなこりゃ」

職員室の中は、ゾンビで溢れかえっていた。

その中に、見覚えのある顔のゾンビがふらふらと歩いているのを見て、さすがのトバリも顔をしかめる。

そして、

「トバリ……」

「ああ……。全員、腹を食い破られてるな」

ここにいるゾンビたちは、すべて腹部を食い破られていた。

でべっとりと汚れた腹部から、臓らしきものが顔を覗かせている。

中には、その中がこぼれ落ちている者さえいた。

「たぶん、安藤が言ってた手の化けの仕業しわざだろうな。割とゾンビに慣れてきた今の僕でも、気分が悪くなってくる」

「うん……」

手の化けの死でもあればよかったのだが、殘念ながら職員室の中にはゾンビの死すらなかった。

おそらく全員ゾンビ化したか、大量のゾンビたちに食い盡くされてしまったのだろう。

このままここにいても、これ以上の収穫はなさそうだと判斷したトバリとユリは、職員室から出た。

次は、生徒たちが寢泊まりしていた教室を探す。

こっちも、すぐに見つかった。

同じ二階に、生活の痕跡がある教室がいくつもあったのだ。

しかし、生活の痕跡とともに、大量の痕や片も殘されていた。

教室の中を徘徊する、腹部を食い破られたゾンビたちも。

「ここもダメそうだな……」

トバリはそう言って、軽くため息を吐いた。

中にゾンビが徘徊している教室も、これで三個目だ。

今まで確認した教室のすべてが、だいたい同じような有様になっている。

それはつまり、

「ここにいた奴らは、手の化けに、一方的に躙され盡くしたってことか……?」

「そういうことに、なるね」

ユリの同意の言葉を聞きながら、トバリはかつてないほどの衝撃をけていた。

安藤の話を聞いた限り、この高校には、それなりの人數の人間が篭城していたはずだ。

その人間たちは、全く抵抗できないまま一方的に食い荒らされてしまったということなのか。

ここまで何も殘っていないものなのだろうか。

いや、よく考えたら、安藤の話では、法の男と手の化けたちの襲撃は、ほとんど夜襲に近いものだった。

ほとんどの生徒たちが寢ていた中、その攻勢はほぼ一方的なものとなったのだろう。

何も収穫がないまま、三階の教室へと足を進める。

三階の教室も、二階の教室と大して変わらない。

腹部が抉れたゾンビたちがかなりの數うろついており、生きている人間はおろか、手の化けの死もない。

「収穫はなさそうだな……ん?」

床に、生徒手帳が落ちている。

拾い上げて名前を見たが、聞き覚えのないものだった。

何か書いてあるかもしれないと思い、パラパラとページをめくっていると、

「……これは」

それは、日記だった。

右上の日付欄には、八月二十五日と記されている。

男子生徒は、パンデミックが起きた直後から日記を書いていたようだ。

もしかしたら、この場所で何が起きたのか、詳細に知る手がかりになるかもしれない。

逸はやる気持ちを抑えて、トバリは最初のほうから順にしっかりとそれを読んでみることにした。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

8月25日 月曜日

大変なことになった。

ゾンビなんて……まさかとは思う。

でも、萬が一そうであるならば、俺が見た景の全ての説明がつく。

ついてしまう。

本當に、映畫か何かを見ているようだ。

まるで現実味がない……。

でも、これは現実なんだ……。

今は簡単なバリケードを作って高校の教室に立て籠もっているが、ここもいつまで保つかわからない。

みんな表面的には元気だけど、時折、思い出したように不安そうな表を浮かべている。

父さんや母さんの安否も気がかりだ。

電話をかけてみたが、繋がらない。

どうやら他の奴らも電話が繋がらないらしく、みんなでお互いを勵まし合っていた。

とにかく、無事でいてくれればいいんだけど……。

後でこの日々のことを思い出せるように、日記をつけることにした。

もしかしたら、無駄になるかもしれないけど……今は、とにかく何か、自分にできることをしたかった。

何かをやっていないと、心がり切れてしまいそうだから。

……とりあえず、今日はこの辺で眠ることにする。

…………どうか、明日になったらこれが全て夢でありますように。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

八月二十五日の分の日記は、そこで終わっていた。

「……家族、か」

トバリは、父親や母親の安否をあまり気にしていない。

冷靜に考えると、彼らがトバリに対して、何かしらののようなものをじているとはどうしても思えなかったからだ。

日記はまだ続いている。

トバリは、続きの記述に目を通してみることにした。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

八月二十六日 火曜日

やっぱり夢じゃなかった。

辛く厳しい現実は、続いていた。

みんなの表は目に見えて暗い。

自衛隊がき始めたという報もってきたが、いつ助けが來るのかもわからない。

先生たちが割としっかりしているおかげで、今のところはなんとか集団としての統制は取れているものの、これもいつ崩れるかと思うと、気が気でなくなりそうになる。

食糧も、どれだけ殘っているのか……。

生徒たちだけでも、これだけの人數だ。

あまり余裕はないと見たほうがいいだろう。

俺にできるのは、日記を書くことだけだ。

あとで、何かの役に立つことを信じて、とにかくひたすら日記を書き続ける。

そういえば、さっき職員室に訪問してきた人間がいたらしい。

自衛隊の人間だろうか。

まあ、明日になればわかることだ。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

その日の日記はそこで終わっていた。

「そこまで大したことは書いてなかったか。まああんまり期待してなか――」

トバリは、自分の言葉を最後まで言うことができなかった。

次のページをめくると、その日記には、まだ続きがあったからだ。

「八月二十七日……!? 法の男の襲撃があった、翌日の日記か……!!」

つまり、この日記を書いた人間は、法の男と化けたちの襲撃に遭ってもなお、生き延びていたということ。

ということは、この日記には、まだ何か重要な手がかりが書いてあるかもしれない。

トバリは、そのページにある記述に、目を通し始めた。

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