《終わった世界の復讐者 ―僕はゾンビをってクラスメイト達に復讐する―》第27話 資補給
そして、その翌日。
「と、いうわけで、今日はこれに乗って、ホームセンターのほうまで行ってみようと思う!」
「おー」
トバリの言葉に、ユリがゆるゆると手を挙げた。
その作からは、あまりやる気がじられない。
今のユリは、剎那が昔著ていた白いワンピースをにつけている。
昨日、剎那に探してもらったものだ。
ツインテールと言えば元気系のイメージが強いが、清楚系で攻めるのもなかなか悪くはない。
「どうしたユリ。あんまり元気がないな」
「だって、トバリ、運転できないって……」
「まあ、そうなんだけど。練習したからさ。大丈夫だよ」
トバリの家の前には、大きなワゴン車が停められている。
昨日のうちに、トバリがその辺の道路から調達してきたものだ。
どうやら、ユリはトバリが運転できないのを心配しているようだった。
だが、そんな心配は杞憂だ。
「トバリ、運転できるようになったの……?」
「……えーっと、まあ、うん。ユリと剎那を乗せれる程度には上手くなったと思うよ」
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「おおー」
ユリが心したような表を浮かべて、パチパチと手を叩く。
トバリは頑張った。
近所の本屋で運転免許の本を探したが見つからず、ほとんどのサイトがサーバー落ちしているネットの海から、ようやく運転の基本作が書いてあるページを見つけ出したのだ。
『P』やら『N』やら、最初は何が何だかわからず、車をいたるところにぶつけたが、なんとか走らせることだけはまともにできるようになった。
ちなみに練習に使っていた車は、々なところにぶつけたせいでボロボロになってしまっているが、トバリはあまりそういうところを気にする格ではないので問題ない。
トバリはドアを開けて、ユリを車の中にれる。
ワゴン車なので、橫のドアはスライド式だ。
その間、ユリはずっとそわそわしていた。
「どうしたユリ。そんなに車が珍しいか?」
「ユリ、車にのったこと、ないから…」
「あれ? そうなのか?」
「うん」
どうやらユリは、トバリがまともに運転できるのかだけを心配していたわけではないらしい。
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初めて車に乗るとなれば、そわそわして當然だろう。
「なおさら安全運転で行かなきゃいけなくなったな……」
「おねがい、します」
「おーけー。よし、んじゃ行くか」
トバリがエンジンをかけようとした、そのときだった。
不意に、玄関先に立っている剎那と目が合った。
どうせなら見送りにと、トバリが命令して家の中から連れてきたのだが、
「……剎那も來るか?」
もちろん、返事などあるはずもない。
だが、トバリはなぜか、剎那が一緒に來たがっているように見えた。
「……剎那も連れて行く。荷持ちは多いほうがいいからな」
「うん。わかった」
「それじゃあ剎那。剎那にも一緒に來てもらうから助手席に乗ってくれ」
剎那に命令を出して、助手席へと座らせる。
そこで、トバリは気付いた。
「無意識のうちに、ユリを後ろの席に座らせてんだもんなぁ……。はぁ……」
トバリは大きくため息をつく。
ユリを助手席に乗せずに後部座席に乗せていたあたり、どうやらトバリは元々、剎那を連れて行くつもりだったようだ。
そういえば、剎那が他のゾンビに襲われないのかどうかについては試していないが、おそらく大丈夫だろう。
なんとなく、そんな予がトバリの中にはあった。
こうして、トバリたちは資を補充するために出発したのだった。
「――著いたぞ。ここだ」
「ここは……」
車を走らせること、およそ二十分ほど。
トバリたちは、ホームセンターへと到著した。
「トバリ、だいじょうぶ?」
「だいじょうぶ……」
ユリの言葉にそう答えるものの、そこにはいつもより覇気がない。
トバリは目を閉じて肩を回し、運転の疲労を癒していた。
初めて他の人を乗せて運転したが、思いのほか神を削る作業だった。
事故なんて起こしたら、目も當てられない。
そんな張の中、トバリはなんとか目立った事故を起こすことなく、ホームセンターへと到著できたわけだ。
「ユリのほうこそ、調は大丈夫か? しんどくなったりしてないか?」
「ユリは、だいじょうぶ。げんきだよ」
後部座席から下りながら、ユリは自分のが平常運転であることを示すように、その場で飛び跳ねてみせる。
本當に大丈夫そうだった。
「剎那は……大丈夫そうだな」
助手席に乗っている間も、剎那は特に何をするでもなく、車に揺られていた。
たまに窓の外の景に目を向けていたが、反応と言えばそれぐらいだ。
あと、しっかりとシートベルトは裝著していた。
剎那に助手席から下りてもらい、レバーを『P』の位置に戻したことを三回ほど確認してから、トバリも車から出た。
周りにはゾンビもいるが、トバリやユリにはもちろん、剎那に反応する気配もない。
剎那がゾンビに襲われる心配は、今のところなさそうだった。
「それじゃ行くか」
「うん」
トバリたちは、ホームセンターの中へ足を踏みれた。
ホームセンターの中にも、混の跡は見て取れた。
ありとあらゆる商品が床に散しており、大きな人間の痕がいたるところにある。
服の切れ端と思しきもの、それに何かの片らしきものも落ちていた。
それらをらないようにしながら、トバリたちは奧へと進んでいく。
さすがホームセンターと言うべきか、商品の品揃えはコンビニなどとは大きく違う。
役に立たないものがほとんどだが、刃や金屬バットなどの武類、洗剤などの生活必需品も數多く取り揃えている。
十分に味して調達しようと、トバリは考えていた。
「……トバリ」
「お、っと。どうした?」
トバリの數歩先を歩いていたユリが、突然立ち止まった。
そのままユリにぶつかってしまいそうになったが、なんとか踏みとどまる。
「……あれ、ほしい」
「え?」
ユリが指さしているのは、折りたたみ式の、白い小さな椅子だった。
ちょうど、ユリぐらいの長の子どもが座るのに適した大きさだ。
「家か。うーん……あんまり大きいものは無理だけど、あれぐらいならまあ、いいか」
「――! ありがとう、トバリ!」
「っ……。僕じゃなくって、それを作ってくれた人にお禮を言っときなよ」
「うん! そうする!」
ユリは嬉しそうに、それをり口の方に置きに行った。
今持ち歩いていたら邪魔になると判斷したのだろう。
「そうか……そうだよな」
改めて考えると、ここにあるもの全てを自由に使えるのだ。
あまり気負いせずに、適當に必要なものを車に詰め込んでいけばいいのかもしれない。
しかし、ホームセンターにある服類や家などは、デザインやセンスに難があるものが多い。
このあたりを揃えるなら専門店に行ったほうがいいだろう。
もっとも、そんなものを揃える必要は全くと言っていいほどないのだが。
そのあとも、ユリはトバリのところに大きめのものを持ってきた。
「ん? どうした?」
「これ……」
ユリが抱えるようにして持っているのは、バーベキュー用のセットだ。
「バーベキューの……? 何に使うんだよ、こんなもん」
「いつも、生ばっかり、だったから。たまには、焼いたやつも、食べたいと、思って」
「……お、おう。じゃあこれも持って帰るか」
「うん」
しぐさは可らしかったが、その発言の容は常人であれば神経を疑うものだろう。
まさに人バーベキューだ。
トバリが正常でいる限り、ユリに人を食べさせることは絶対にしないが、どこかに冷凍保存された牛などがあるかもしれない。
一応持って帰ることにした。
そのあとは、トバリとユリで武になりそうなものをした。
包丁が並んでいる一角を見つめながら、トバリは一本の包丁を手に取る。
「柳やなぎ包丁……刃の部分が長くて使いやすそうだな」
そのほかにも大量の包丁があったので、何本か調達しておくことにした。
ただ殘念ながら、サバイバルナイフなどはなかった。
ああいった系統のものは、ホームセンターには置いていないらしい。
金屬バットも何本か拝借しておいた。
小學校で使用した金屬バットたちもまだ使えそうではあったが、新しいものを手しておくに越したことはない。
ノコギリは工としては使えそうだが、武としては微妙だろう。
とはいえ、木材などを切る機會は今後増えていきそうなので、これも二本ほどいただいておく。
あとは、各種電池や、僅かに殘っていた缶ジュースや菓子類をかき集め、車のなかへと詰め込んでいく。
それが終わると、次には食洗い用の洗剤、歯磨きなど、生活に欠かせない消耗品を乗せられるだけ車に乗せ、ようやく車の中はいっぱいになった。
「よく、はいったね」
「ホントにな……」
外から見ても、車の中に大量の資が詰め込まれているとわかる。
これを運転するとなると、かなりの神的疲労を覚悟しなければならないだろう。
今から気が重くなる。
「なんだか、家族みたいだね。ユリたち」
「――そう、だな」
照れ臭そうにユリがそう呟くと、トバリはユリの頭をくしゃくしゃとでた。
それに便乗するように、剎那もユリの頭を優しくでる。
これから、本の家族のように仲良くなっていけたらいいと、トバリはそんなことを考えていた。
「……ん?」
「どうしたの、トバリ?」
「…………見てみろ」
トバリが指差したその先。
そこには、白いトラックの荷臺に乗った男たちの姿があった。
「生き殘り……こんなところにいたんだな」
白い車は、ところどころで汚れている。
ゾンビと接した痕跡だ。
荷臺のところに積まれている資を見る限り、食糧の調達に出ていたのだろうか。
とにかく、向こうにどんな人間がいるのかわからない以上、こちらとしても、警戒しないわけにはいかない。
「ユリ。剎那。隠れて」
「う、うん」
「…………」
トバリたちは、素早く車の影に隠れた。
ユリはじっと息をひそめて、男たちが乗るトラックが通り過ぎていくのを待っている。
どうやら、向こうはこちらに気付いていないようだ。
そのトラックは、何事もなくホームセンターの前を通り過ぎていく。
そして、ホームセンターから目と鼻の先にある、大型スーパーの立駐車場へとるそぶりを見せた。
「そうか……なるほど。あそこに篭城してるんだな。先にこっちに來ててよかった」
あそこに大量の生き殘りがいるとするならば、接するべきだ。
生きている人間と接するのはリスクが高いが、リターンも大きい。
それに、もしかしたら、クラスメイトたちに繋がる報を持っている奴もいるかもしれない。
食糧を調達していた人間たちが、大型スーパーの中へと戻っていく。
おそらく、二階と三階の立駐車場をうまく使って篭城しているんだろう。
とりあえず今日のところはこのまま帰宅し、荷と剎那を家に置いて、明日またここに來ればいい。
萬が一話がこじれて戦いになっても、いざとなれば、こちらにはユリがいる。
トバリより戦闘力が高いユリがいれば、大抵の場面はなんとかなるだろう。
そんなことを考えながら、トラックの荷臺に乗っている男たちをぼんやりと眺めていた、そのときだった。
「――ッ!?」
トラックの荷臺に乗っている、數人の男たち。
その中に、いた。
「……見つけた」
「え?」
そんなトバリの言葉に、ユリが困したような聲を上げる。
「城谷と、辻だ」
トバリの言葉を聞いてもなお、ユリの表は優れない。
その名前が何を表しているのか、ユリにはわからないからだ。
トバリは、そんなユリの様子に気づかずに、ただ目の前の幸運を噛み締めていた。
城谷と、辻。
いずれも、トバリが探している六人のうちの、復讐するべき人間だ。
「……確実に、殺してやる」
復讐対象の人間を見つけたトバリの目は、暗い喜びに輝いていた。
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