《終わった世界の復讐者 ―僕はゾンビをってクラスメイト達に復讐する―》第36話 応戦

二階のバリケード付近に戻ってきたトバリたちは、驚愕きょうがくに目を見開いていた。

「な、なんだよあれ……」

城谷が聲を震わせながらそんな言葉をらしてしまったのも、無理はない。

優に四メートルはあろうかというほどの巨大なゾンビが、を曲げながらトラックを押しのけようとしていた。

そのゾンビの後ろには、黒を纏った化け――手のゾンビたちが大量に待機している。

あの巨大なゾンビが障害を退ければ、あそこでバリケードが壊れるのを今か今かと待ち構えている手のゾンビたちが、こちらへなだれ込んでくるだろう。

そんなことになれば、ひとたまりもない。

それはまさに、悪夢を現していた。

「どうしろって言うんだよ、あんなの……」

辻が顔を下に向けながら弱音を吐いた。

トバリは、どうすればあのゾンビを止めることができるのかを必死で考える。

「……そういえば」

あれがゾンビの一種だと言うのなら、トバリが持つゾンビに命令できる能力が有効なのではないのか。

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――試してみる価値はある。

「……止まれ」

トバリが小聲でそう命令すると、巨大なゾンビの挙が明らかに変わった。

するように直させ、トラックを押しのけようとしていた手は完全に停止している。

「……お? なんだ? 止まったぞ?」

その様子を見て、城谷たちが困したような聲を上げていた。

「……トバリの、命令、聞くみたいだね」

「ああ。……一応は、な」

ユリに言葉を返しながらも、トバリの表は優れない。

頭の中で、何かピリピリとした覚があった。

おぼろげながら、それがあの巨大なゾンビがこちらに反抗している証なのだと本能的に理解する。

それは、通常のゾンビに命令している時には得られない覚だ。

おそらく、そう長くは保たない。

そう理解しながらも、今を逃せばあのゾンビを討伐するチャンスは遠のいてしまうことはわかっていた。

「……頭を、下げろ」

頭の中のピリピリする覚が明確になってくると共に、巨大なゾンビの頭がトラックの近くまで降りてきた。

トバリは地面に頭をつけさせるつもりだったのだが、巨大なゾンビがそれ以上頭を下げる様子はない。

を止めろ、ならともかく、何か行を起こさせるとなると、今のトバリでは力不足のようだ。

「頭が降りてきたぞ! 今だ!」

辻がそうぶと、三田がすぐにいた。

トラックの上によじ登り、巨大なゾンビの頭を金屬バットで毆打する。

鈍い音と共に、巨大なゾンビのが揺れる。

しかし、まだ致命傷には至らないようだ。

「ふむ……。頭を潰せばいけそうだな」

三田のそんな聲が、トバリのところにも屆いてくる。

そんな悠長なことを言っている場合ではない。

いつトバリの命令の効力が切れるのかわからないのだ。

しかし、トバリのそんな心配は杞憂に終わる。

三田が金屬バットのスイングを何度か打ち込むと、巨大なゾンビの頭蓋が砕けた。

その隙間から、三田が金屬バットをその頭に突き刺すと、巨大なゾンビのが崩れ落ちる。

「あんまりビビるなよ。たかがゾンビだ」

三田がそう笑うと、場の空気が一気に弛緩した。

本當に、三田は頼もしいかぎりだ。

「トバリ、だいじょうぶ?」

「ああ……」

トバリの中にあった、ピリピリする覚が消えていた。

あの巨大なゾンビはしっかりと倒されたのだと判斷して問題ない。

しかし脳を酷使しすぎたせいか、頭が異常に重い。

できればもう二度と命令したくない程度には、気分が悪かった。

「……ん?」

ふと、立駐車場の窓の隙間から、外を見た。

「どうしたの?」

「いや、なんか今……」

何かが、空を飛んでいたような気がしたのだ。

いや、飛んでいたという表現はし正しくない。

自分の意思で飛んでいるのではなく、どちらかというと人間に投げられたボールに近いような――。

「…………」

嫌な予が脳裏を過ぎり、トバリは立駐車場の窓から下のほうを見下ろした。

そこに、いた。

トバリの眼下で、巨大なゾンビが、黒を纏った手のゾンビを右手に握りしめている。

そのゾンビは、右手に持っていたそれを、投げた・・・。

そして、それが投げられた方向は――、

「くそッ!!」

「あ、トバリっ!?」

ユリの戸った聲を無視して、トバリは屋上に向かって走り出した。

僅かに迷ったが、ユリもトバリの後を追う。

「そういうことなのかよ……!」

屋上へと続く階段を走り抜けながら、トバリは自の考えをまとめていた。

屋上に、なぜ手の化けが突然現れたのか。

あれは飛ぶことができるのではなく、あの巨大なゾンビによって投げられた・・・・・だけなのだ。

そして、おそらく――、

トバリは息を切らしながら、屋上のドアを開けた。

ユリもすぐに、トバリのあとに続く。

「――おや。見つかってしまいましたか」

そいつは、いたずらがバレてしまった子どものような言葉を吐き出して、微笑を浮かべていた。

青空の下で、き通るように白い法が、風に揺れている。

黒い短髪の平凡な顔立ちだが、その顔は悪く、しやつれているようにも見えた。

聖職者のような出で立ちだが、トバリはそいつが、ただの狂信者であることを知っている。

そいつの後ろにいる大量の黒の化けたちが、目の前にいる男が何者なのかを如実に示している。

トバリとユリはついに、法の男と遭遇した。

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