《終わった世界の復讐者 ―僕はゾンビをってクラスメイト達に復讐する―》第41話 『知恵(コクマー)』VS三田

三田は慎重な足取りで、階段を降りていく。

スーパーの中は、不気味なほどの靜寂に包まれている。

先ほどから斷続的に聞こえていた聲や戦闘音が途切れていた。

嫌な予を押し殺して、先へと進む。

どんなことになっているのだとしても、進まなければならない。

それが、三田に與えられている唯一の選択肢なのだから。

「……これは」

一階には、悲慘な景が広がっていた。

そこらじゅうにの開いた死が散しており、赤黒いを垂れ流している。

生きている人間は一人もいない。

「……」

この慘狀は、法の男の仕業と見て間違いないだろう。

しかも、死の損傷合から見て、法の男は何か特殊な攻撃方法を持っている。

ただの人間が、人間のにこれほどの大きなを開けられる何かを持っているはずがないのだから。

生きている人間の気配はなかったが、法の男の気配もない。

つまり、奴は今、地下一階にいるということだ。

額から滲み出てくる汗を、腕で拭ぬぐう。

この先に広がっているであろう景を想像して、軽い吐き気に襲われていた。

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に慣れているとは言え、ここにあるのは全て見覚えのある顔の死ばかりだ。

さすがの三田も、心にくるものがあった。

「……すまない」

一人一人の顔を確認しながら、三田は死の頭を金屬バットで毆り潰していく。

たちの頭は、そのほとんどが無傷のままだ。

このままでは、ゾンビとなって起き上がってしまう。

そんな冒涜ぼうとくだけは、許容するわけにはいかなかった。

「……はぁー」

やがて全ての死の頭を潰し終えると、三田は長い息を吐く。

そして、地下一階へと繋がる階段へと足を向けた。

地下一階も、一階と大して変わらない。

と子供たちのために整備した區畫だからか、小さなおもちゃなどが辺りに散しているが、違うのはそれぐらいだ。

一階にあったのと同じような、腹部にが開いた死が多い。

その頭を一つずつ潰しながら、先へと進んでいく。

やはり、生きている人間の気配はない。

しかし三田は、奧の方から嫌な気配をじていた。

――いる。

そんな確信をに抱きながら、三田はさらに先へと進む。

やがて、し広い場所へと出た。

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住民たちの憩いの場だった場所だ。

三田も何度か來たことがある。

子供たちが戯れるのを、母親たちが他のない話をしながら見守っていた。

そんな場所で、法の男が死を咀嚼そしゃくしていた。

「ぁあぁあぁあ……忌々(いまいま)しい……忌々しい忌々しい忌々しいぃい……!」

がよだつような音を発しながらも、法の男が三田の接近に気付いた様子はない。

その原因は、法の男が怒りで我を忘れているからだ。

「まったく、こんなカス共にこのわたしが傷をつけられるなど、あってはならないことだというのに……また新しい法を用意しなければいけませんね……こんな蛆蟲うじむしにも劣る害蟲共ので汚れた服など、神への冒涜ぼうとくにも等しい……ぁあ汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い」

意味不明な言葉を羅列しながらも、法の男は人間の腕を噛み千切り、そのを食べ続けていた。

白かった法も、今は赤黒いでべったりと汚れてしまっている。

それは明らかに、まともな人間ではなかった。

狂人と呼ぶことすらおこがましいとじさせるその姿に、嫌悪が湧き上がってくるのを抑えきれない。

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「…………」

三田は懐ふところから拳銃を取り出した。

パンデミックの初期に、警のゾンビから奪い取ったものだ。

一応拳銃を扱うことはできるが、法の男との距離はそこまで近いわけではない。

外すこともあり得る距離だった。

「…………」

拳銃を持つ手が、わずかに震えている。

目の前にいる化けに、自分は恐怖しているのだ。

……それでいい。

それは人間として必要なだ。

それすらもなくなったとき、人間は破滅するのだから。

三田は両手で拳銃を構える。

狙いを外さないように、慎重に標準を定めていく。

そして、

「――――!」

三田の拳銃が火を噴いた。

放たれた銃弾は、寸分の狂いもなく法の男の頭部に吸い込まれていく。

そして、鈍い音とともに、銃弾が法の男の頭を抉えぐった。

重い一撃をけて、法の男のが傾く。

そのままゆっくりと勢が崩れていき――、

「……そこにいるのは、誰ですか?」

の男は、幽鬼のごとくゆらりと顔を上げた。

その瞳は、いまだに鈍いりを燈している。

「ちっ……!」

頭からは流れているが、致命傷を與えるには至らなかったようだ。

すぐにに隠れて距離を取る。

住民たちが生活に使っていたおで、家や棚などの遮蔽は多い。

今はそれがありがたかった。

の男は、ゆっくりと辺りを見回す。

そして、三田が隠れている棚の裏を凝視した。

「おやおやおやおや……どうやらまだゴミ蟲が紛れ込んでいるみたいですねぇ……すぐに殺して差し上げなくては……!」

不自然な勢で三田のほうを見て、殺意をたぎらせる法の男。

その姿は、まさに死神と呼ぶにふさわしい。

三田は拳銃を構えて、法の男を迎え撃つべく覚悟を決めていた。

「ゴミ蟲……ね。むしろ、頭のおかしい狂信者であるお前にこそふさわしい呼び名だな、法の男よ」

三田は素早くから出て、法の男へ拳銃を向ける。

の男は、そんな三田へあまりにも無機質な視線を浴びせた。

「――――」

再び、三田の手に握られた拳銃が鳴る。

しかし今度は、その銃弾が法の男の頭へと吸い込まれていくことはなかった。

「黙りなさい。神の救いをれようともしない愚か者どもめが。あなたたち劣等に、我々の高等な考えなど欠片たりとも理解できないのでしょうね……」

「なっ……!?」

の男は憂げな表でそう語る。

だが、三田はそんなことに驚いていたのではない。

「銃弾を……逸らした……?」

奴の法の下から手がび、三田が放った銃弾の軌道を逸らしていた。

の人間であるはずの法の男からなぜそんなものが生えているのか、驚きをじ得ない。

いや、それよりも驚くべきなのは、あの手の反応速度とそのさだ。

いとも簡単に銃弾の軌道を逸らしたそれは、法の男の元でぬるぬると蠢いている。

「おとなしく、神の救いをれなさい」

「くっ……!」

の男が、恐るべき速さで手をばしてきた。

慌ててそれを回避する。

異常とも言えるスピードで迫ってきたそれは、三田の後ろにあったタンスをいともたやすく貫通した。

「……ッ!?」

その景を見て、三田はそこらじゅうにあったの開いた死を思い出す。

彼らの死因はいまいち判然としなかったが、今、目の前を通り過ぎていったモノを見れば一目瞭然だ。

彼らは、あれにを貫かれたのだろう。

尋常ではないスピードで迫ってくる手を避けるのは、男たちには難しかったに違いない。

そしてそれは、三田も例外ではない。

このままではいずれ、あの死たちと同じような最期を迎えることになる。

「クソ……っ!!」

手がこちらを狙った隙を見計らい、拳銃で応戦するが、法の男は袖そでの隙間から新たな手をばして銃弾の軌道を逸らす。

「無駄なことを……。あなたでは、わたしを殺せない。大人しく神の救いをれたらどうですか?」

「ふざ……けるな……っ!!」

迫り來る手を回避し、拳銃に弾を補充しながら、三田は悪態を吐いた。

……考えろ。

その思考の先に、必ずこの狀況を打開できる何かがある。

再び発砲したが、これも手で軌道を逸らされた。

何度やっても、結果は同じだ。

「……ん?」

拳銃を逸らした手をよく見てみると、が抉れた跡があった。

さすがに、あの手をもってしても拳銃の一撃を完璧にけきるのは難しいようだ。

の男相手に、短距離戦を挑むのは無謀と言わざるを得ない。

相手には異常とも言えるほどの手數がある。

手數があるだけならまだよかったが、法の男の手をるスピードは、ゾンビ共とは比べものにならないほど速い。

接近戦では、どう考えても勝ち目はない。

つまりこのまま長距離戦を続けるしかないのだが、三田が持つ拳銃の弾も無限にあるわけではない。

弾の殘數はおよそ二十といったところだ。

さらにどうやら、法の男の頭は通常の人間のそれよりもいらしい。

それは、先ほどまともに銃弾を食らったにもかかわらず、普通にいている法の男の様子を見ても明らかだ。

それらの要素を全て踏まえて、法の男を倒す方法は――ある。

「ようやく、神の救いをれる気になりましたか?」

かない三田に向かって、再び法の男が手をばしてくる。

それをすんでのところで回避しつつ、三田は法の男に発砲した。

「無駄なことを――!」

銃弾を逸らし、法の男が三田のほうへと手をばす。

手は三田の後ろにあったキャビネットを貫通した。

の男は手を手元へ戻そうとしたが、

「っ!?」

そのでキャビネットが倒れ、數本の手がその下敷きになってしまった。

「ちっ!」

倒れたキャビネットの下敷きになったそれを抜くために、法の男の意識が一瞬だけそちらに逸れる。

そして、一瞬だけでも意識が逸れれば十分だった。

そのタイミングを見計らい、三田は拳銃を発砲する。

「――――」

そしてそれは、今度こそ法の男を仕留めた。

きを止めた法の男のが、ゆっくりと崩れ落ちていく。

銃弾は、法の男の頭ではなく、目・に著弾していた。

「……ふー」

終わった。

そんな実とともに、から力が抜けていく。

どれだけ人を強化していようが、人間にはわかりやすい弱點がある。

眼球はそのうちの一つだ。

かなり危ない綱渡りだったが、なんとか法の男を倒すことができた。

「さて、撤収す――」

三田のそんな言葉はしかし、最後まで続くことはなかった。

「ああ、まったく。愚かしいにも程がある」

三田の腹部に、何本もの手が突き刺さっていたからだ。

「が……ふっ……」

三田のが崩れ落ちる。

何が起こったのかわからない。

三田の頭の中には、大量の疑問符が飛びっていた。

の男の袖の下から大量の手がび、それが三田の腹部へと繋がっている。

やがて法の男は、何事もなかったかのように立ち上がった。

の男の右目は潰れている。

だが、それだけだった。

「わたしを殺せたと思ったのでしょう? 甘い。甘い甘い甘い甘い甘い甘い甘い甘い甘い甘い甘い。我々の弱點は頭。そして、比較的にやわらかい部位である眼球はわかりやすい弱點です。ならば、そこを補強しておくのは當然のこと。そんな単純なことにも思い至らなかったのですか?」

知恵が足りない愚者を嘲あざけるように、法の男は三田をなじる。

そんな言葉をけても、三田は僅かにをよじることしかできない。

左目で三田を凝視しながら、法の男は三田の腹部から手を引き抜いた。

三田の腹部からおびただしい量のが溢れる。

破れた腹から、腸がれ出ていた。

の男は、手の先端に付著したをぺろりと舐める。

「所詮しょせんあなたに、わたしを打倒できるほどの知恵など、あるはずもなかったのですよ」

トドメを刺すために、法の男は三田のほうへと手をばす。

避けることなど、絶対にかなわない一撃。

「――コクマぁぁああああああああ!!!!」

しかし、そんなび聲と同時に、三田の目の前に迫っていた手たちが切斷されていた。

三田の目の前で銀の軌跡が飛びい、手たちを切斷したのだ。

そして、誰かが近くまで近づいてくる気配があった。

「三田さん! だいじ――っ!?」

「……よる、づき?」

それは、間違いなく夜月の聲だった。

息を呑むような気配と共に、意識が急速に薄れていく覚に襲われた。

目の前が暗くなっていく。

を流しすぎた。

命が、かられ出ていくような、そんな実があった。

そして、三田は意識を失った。

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