《終わった世界の復讐者 ―僕はゾンビをってクラスメイト達に復讐する―》第53話 會議
――三田が消息を絶った。
トバリも想定していなかった事態なだけに、どうするべきか判斷が難しい。
だが、避難民たちの中には、既に三田がいないことに違和をじている者もなくない。
なら、問題が起きたことをしっかりと皆に伝えて、皆で解決策を考えるべきだ。
そう考えたトバリは、ここにいる皆を集めて話し合いをすることにした。
ということで、ここにいる避難民たちに巨大な待合室に集まってもらっている。
いつもなら子どもたちの格好の遊び場になっているはずの場所だが、今はそんな面影はどこにもない。
「えー。みなさん。集まっていただいてありがとうございます」
表面上、トバリは三田と共に『知恵コクマー』を打倒した功労者ということになっている。
それが原因でこの拠點における三田に次ぐリーダー的存在になりつつあるのだが、今回はそれを存分に利用させてもらうつもりだ。
「それで、どうしたんだ夜月。改まってこんな場を用意したってことは、何かあるんだろ?」
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そう聲を上げたのは、男たちの中で一番前に座っている城谷だ。
「ああ。もう薄々気付いている方もいらっしゃるかと思いますが……三田さんが消息を絶ちました」
トバリがそう言った瞬間、待合室の中は大きなざわめきに包まれた。
だが、トバリの言葉に驚きつつも、そこまで取りしていない者もなくない。
やはり、薄々気づいていた人間もそれなりにいるようだ。
「三田さんはちょうど一週間前、僕に一言殘して出かけていきました。行き先はわかりません。どなたか、三田さんから何か伝言など頼まれていませんか?」
トバリはそう問いかけるが、返ってくるのは沈黙のみ。
ほとんど可能はないと思っていたが、やはりトバリ以外に三田から伝言などを預かっている人間はいないようだ。
「……こうして帰ってきていない以上、三田さんが何かしら帰るのが困難な狀態にあるのは間違いありません」
三田がけなくなっている原因はいくつか考えられるが、その中でも現実的にあり得そうなのは、
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「三田さんが普通のゾンビ相手に遅れを取るのは考えにくいです。となると、『セフィロトの樹』の構員と戦闘になって殺されたか、もしくは奴らの捕虜になっている可能が高いと思います」
だが、トバリは自分の発言に微妙な違和をじていた。
三田は強い。
普通の人間だった頃すら、ゾンビに遅れを取らなかったような男が、セフィラを手にれた今、そう簡単に打倒されるだろうか。
……いや、他の『セフィロトの樹』の構員が、『知恵コクマー』以上の戦闘力を持っている可能も十分ある。
決めつけるのは早計か。
「……それで、どうするんだ?」
男たちのうちの一人が、そう聲を上げる。
それは、今ここにいる人間たちが最も求めているものだろう。
そして、その問いに対する答えを、トバリは既に持ち合わせている。
「僕が三田さんを探しに行きます。皆さんにはその間、拠點の防衛をお願いしたい」
トバリがそう言うと、待合室の中に再びどよめきが広がった。
「……一人で行くのは危険じゃないか? 外に行くなら、複數人で行ったほうがいいと思うんだけど」
「僕一人なら、ゾンビ共に気取られずに三田さんを探すことができるはずだ。でも、人數が多くなったらそういうわけにもいかない」
城谷の意見に、トバリはそう言葉を返す。
大人數での外出は、大量の資を補給したい時には効果的だが、リスクも大きい。
その最たるものが、ゾンビ共の襲撃だ。
もし一人が襲われてしまえば、そこから全が崩れていくのは避けられない。
「――でも、だからってこのまま黙って留守番してろって言うの?」
男にしてはし高い聲が、待合室に響いた。
「辻……」
聲の主は辻だった。
辻は靜かに、しかしその瞳に強い意志を宿して、
「ぼくも、さ。一瞬、それでもいいかなって思ったよ。でも、やっぱりダメだ。そんなことまで夜月くんに任せてたら、ぼくたちは三田さんに合わせる顔がないよ」
「だけどさ……辻ならわかるだろ。僕が一人で行ったほうがいいって」
辻は、トバリとユリがセフィラ持ちであることを知っている。
つまりトバリはゾンビに襲われないし、もし敵に出會ったとしても、逃げ帰るぐらいのことはできる。
その事実を踏まえれば、トバリが一人で三田さんを探しに行くことが最も合理的な選択肢だとわかるはずだ。
しかし、そんなトバリの言葉をけても、辻が引き下がることはなかった。
「それでも、夜月くんだけを行かせるのには反対だ。ぼくも一緒に行かせてほしい」
「……俺も、辻の意見に同意だ。三田さんには俺たちも世話になったんだ。何もせずにただ待ってるだけなんてできねぇよ」
「城谷まで……」
トバリは心で頭を抱える。
三田を探しに行くという目的の下では、この二人は全く必要ない。
というより、むしろ邪魔だ。
ゾンビ共にたかられて騒ぎになり、『セフィロトの樹』から先制攻撃をける可能もある。
そうなれば、辻や城谷の命はない。
――命は、ない?
「ああ、そうか」
そこまで考えて、トバリはある考えに至った。
トバリは、張した面持ちの二人に向き直ると、
「……二人の気持ちはわかった。言っとくけど、ここから先は完全に自己責任だ。死ぬかもしれない。それでも、どうしても行きたいって言うなら、僕と一緒に來てくれ」
「それでも行くよ。三田さんにはお世話になったからね」
「同じく。絶対に三田さんを見つけて、無事に連れ帰ってみせるぜ」
辻と城谷は、やる気十分といった様子だ。
その景を心で生暖かい目で見ながら、トバリは言葉を続ける。
「でも、さすがにこれ以上の人數で行くとなると、ゾンビに発見されるという意味でも、拠點の防衛力の低下という意味でもリスクが大きい。三田さんの捜索には、僕たち三人で行かせてもらいます。……それでいいですか?」
質問はしたが、それは一応の確認という意味でしかない。
わざわざ自分から危険な外の世界に行こうという奇特な人間は、辻や城谷以外にはいないだろう。
そう思っていたのだが、
「……わかった。正直に言えば俺らも行きてえんだけどな。今回は若い奴らに任せるとするわ」
男たちの中には、し不本意そうな顔をしている人もいた。
存外、三田は皆に慕われていたのだなと、そんな想を抱く。
そのあとは、三田と共に行することが多かった男たちに留守中の拠點を任せる旨を伝えて、その場は解散となった。
「――トバリっ!」
部屋へと戻る途中、トバリは不意に呼び止められた。
聞き覚えのありすぎるその聲に戸いながらも、後ろを振り向く。
「……ユリ」
トバリを呼び止めたのは、ユリだった。
そしてその表を見たトバリは、息を詰まらせる。
「どうして、ユリを、連れて行って、くれないの……?」
「ユリ……」
その聲には、どうしようもないほど悲痛なが込められていた。
見ると、ユリの目元には涙が滲んでいる。
今すぐに泣き出してもおかしくない。
「と、とりあえず、中で話そう」
こんな廊下で泣き腫らしたと話していたら、どんなよからぬ噂が立つかわかったものではない。
狼狽ろうばいしたトバリは、慌ててユリを自室へと連れ込んだ。
その後、ベッドの上でユリを抱き寄せ、その頭をで続けること三十分ほど。
ようやく落ち著いたらしいユリに、トバリはホッと一息ついた。
「あー、それでな。ユリを一緒に連れて行かない理由だけど……」
トバリは頭の中を整理しながら、慎重に言葉を紡ぐ。
「ユリには、剎那を守ってほしいんだ」
「セツナを……?」
ユリが剎那のほうを見ると、剎那もユリのほうを見返した。
その人間らしい反応に苦笑しながらも、トバリは言葉を続ける。
「そう。僕はね、ユリのことだけを信用してる。ユリだけは、絶対に僕を裏切らないって。だから、僕が留守にしてる間、剎那を守ってほしい」
――ユリ以外の人間は信用できない。
それは、トバリの心の底にある揺るがない一つの思いだった。
だが、信用できないからといって、どうでもいいと考えているわけではない。
「それに、琴羽や子供たちのこともまあ、心配だ。もし萬が一『セフィロトの樹』の奴らがここに攻めってきたときは、あいつらのことも守ってやってくれ。……もちろん、自分のを第一に考えろよ?」
自分でも、なかなかに無茶なことを頼んでいると思う。
だか、頼れるのがユリしかいないのもまた事実だった。
「……わかった。ユリ、がんばる」
結局、ユリは了承した。
こんな小さな子にお願いするのは心苦しいが、仕方ない。
無事に帰ったら、たっぷりと甘やかしてやることにしよう。
「あと、トバリ」
「ん?」
腕の中のユリが、トバリを見上げながら口を開いた。
「どうして、あいつらを、つれていくの?」
「え?」
「あいつら、足手まといじゃ、ないの?」
「……ああ、そういうことか」
ユリは、城谷と辻のことを言っているのだろう。
たしかに、城谷と辻は三田の捜索には何の役にも立たない。
三田を絶対に見つけ出すのだ、という気概はじられたが、はっきり言って邪魔でしかない。
その上で、どうしてあの二人を連れて行くのかと尋ねられれば、その答えはひとつしかなかった。
「いや、ね。あいつらを、適當な場所で殺しちゃおうと思ってるんだ」
「――――」
トバリのその言葉に、ユリが息を詰まらせたのがわかった。
そんな彼の様子を心苦しく思いながらも、トバリは続ける。
「ここで生活している限り、僕はあいつらに手を出すことはできない。でも、避難所の外なら話は別だ。僕たち三人だけなら誰に見られることもないし、いくらでもゾンビを使える」
それに、トバリ自の能力も、セフィラを持っていることで飛躍的に向上している。
城谷と辻の二人ぐらいなら、簡単にねじ伏せることができるはずだ。
「……うん」
薄々は察していたのだろう。
ユリの目の中には、複雑なが渦巻いているように見えた。
「だからさ。あいつらを殺すときには、たぶん僕も々とひどいことになっちゃうだろうから。……その時の僕の姿を見られたくないっていうのも、ユリを連れて行かない一つの理由だね」
「……そっか」
そこまで言い終わると、トバリは深く息を吐いた。
誰かに自分の本音を吐き出すというのは、なかなかに神経を使う。
それが自の中の黒いに伴うものなら、なおさらだ。
「あいつらも、安藤と、同じ、なんでしょ……?」
「――。あぁ、そうだ。だから殺す」
そうだ。同じだ。
奴らも、城谷と辻も、安藤と大して変わらない。
……しだけ、ほんのしだけ、城谷と辻のほうがマシなだけで。
「……わかった。それで、トバリが、楽になるなら」
結局、ユリはトバリの考えに理解を示してくれた。
トバリの腕の中で、ユリは自分を包む腕を優しくでながら、
「ユリは、トバリの、味方だから」
「――うん。ありがとう、ユリ」
ユリのその言葉が、トバリの心に溫かなものを植え付ける。
でもそれは、今のトバリには決して必要のないもので。
それをじながら、トバリはずっとユリのことを抱き締め続けていた。
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