《終わった世界の復讐者 ―僕はゾンビをってクラスメイト達に復讐する―》第54話 出発
そして翌日。
病院の前には、避難民たちがほとんど全員集まっていた。
その表は、決して明るいものではない。
ある者は不安を、ある者は心配を、必死に押し殺している。
そんな彼らが集まっている理由は、三田の捜索に向かう三人の年たちを見送るために他ならない。
「それじゃあ、行ってきます。どんなに遅くても三日以には一旦戻ってきますが……三日経っても僕たちが戻らなかったら、そういうことだと思ってください」
「縁起でもないことを言うな。三田さんを連れて、四人でちゃんと無事に戻ってきてくれよ」
「――はい」
困ったような顔をした男の聲を聞いて、トバリの返事がくなってしまうのも無理はない。
何せ、トバリは城谷と辻を無事に帰らせる気がないのだから。
「トバリ……」
「トバリー……」
「トバリさん。城谷さん。辻さん。どうかご無事で」
「うん、ありがとう。それじゃあ、行ってくる」
心配そうに名前を呼ぶユリと日向の頭をわしゃわしゃとで、無事を祈る琴羽に謝の言葉を伝える。
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城谷と辻も、琴羽の言葉に小さな笑みを浮かべながら、軽く頷いた。
こうして、トバリ達は三田を探すために出発したのだった。
「うーん。人の気配はないね」
「そうだな」
城谷と辻が周りの景を注意深く見渡しているが、特にめぼしい収穫はない。
乗り捨てられた車や何かの破片、それに黒い痕がいたるところに殘されている。
そんな大學病院に來る前は見慣れていた景が、今はどこか懐かしくじた。
トバリが運転しているのは、大學病院に向かうときにも使った白いワゴン車だ。
運転するのは一ヶ月ぶりだが、問題なく走らせることができている。
そのことにホッとしながら、トバリは進行方向に目を向けていた。
まあ、トバリもすぐに三田が見つかるとは思っていない。
無論、三田が見つかる前に二人を殺すつもりではあるが、今はまだ早いと考えていた。
なぜなら、
「ゾンビはいるか?」
「……ちょくちょく姿は見かけるんだけどな。明らかに、おれらが大學病院に逃げ込む前に比べたらなくなってる」
トバリが、いまだに城谷と辻を殺さない理由。
それは、今の段階で明らかに不自然な點が、一つあるからに他ならない。
「なんで、こんなにゾンビがないんだ……?」
そう、大學病院の外であるにもかかわらず、ゾンビの姿をほとんど見かけないのだ。
その事実に、トバリも困のを隠せない。
ゾンビの數が減った原因については、いくつか考えられる。
まず一つ目は、自衛隊や他の避難民たちが大掛かりなゾンビの掃討を行った可能だ。
しかし、大學病院の近くで大規模な戦闘があったなら、三田やトバリが気付かないのは考えにくい。
今のところ自衛隊などの組織がまともにいている気配はなく、他の避難所の人間が大きなきを見せたという報もない。
なので、おそらくこの可能はないだろう。
二つ目は、三田が外出のたびに大量に処分していた可能だ。
だが、いくらゾンビに襲われないとは言っても、三田も一人の人間に過ぎない。
そこまで大量のゾンビを処分できるとは思えなかった。
三つ目は、『セフィロトの樹』の人間が、ゾンビ達を集めている可能だ。
ユリにはその能力はなさそうだが、トバリや『知恵コクマー』にはゾンビをる力がある。
同じような力を持った『セフィロトの樹』の構員が、ゾンビ達を招集している可能は十分に考えられた。
ゾンビの數が減っていること自は、生き殘り達にとっては朗報だ。
トバリにとっては使えるコマが減ってしまったのは痛手だが、まあ大した問題はない。
城谷と辻を殺害する時に、ゾンビでの量作戦が使えなくなったぐらいだ。
……だが、嫌な予がする。
『セフィロトの樹』が、再びき始めているように思えてならない。
なんにせよ、生き殘り側の貴重な戦力である三田を見つける必要がある。
その方針は変わらない。
「三田さんが行きそうな場所に、心當たりはある?」
「正直あんまりないんだけど……とりあえずは他の避難所に聞きに行くのがいいと思う」
辻の言葉に、城谷も頷いた。
何か問題が起きて他の避難所から離れられなくなっているのかもしれないし、もし今他の避難所にいなかったとしても、三田の足取りが摑める可能がある。
行って損はないだろう。
「ここからだと、ショッピングモールのとこが一番近いよな?」
「ああ。おれが運転しようか? 夜月は道わからないだろ?」
「いや、ショッピングモールの場所ならわかるから大丈夫だよ」
大學病院に移してきた時に、トバリはこの周辺の地理をかなり調べた。
特に資が富そうな場所や、多くの人間が立て籠もれそうな場所は記憶している。
その中にはもちろん、近くにあるショッピングモールも含まれていた。
「……降ってきそうだな」
空は見渡す限り灰で、今にも泣き出しそうな様相だ。
その空模様になんとなく不穏な気配をじながらも、トバリは車を走らせた。
「――止まってくれ、夜月!」
ちょうどショッピングモールの駐車場にろうとしたところで、トバリは靜止の聲をかけられた。
車を止めてから聲のしたほうを見ると、城谷が深刻な表でショッピングモールの駐車場口を凝視している。
「どうした?」
「……バリケードが、無くなってるんだ」
「っ!!」
辻の言葉に、トバリは息を詰まらせる。
その言葉の意味がわからないほど、トバリは鈍くない。
「『セフィロトの樹』が、ここを襲撃したのか……」
そう考えるのが妥當だろう。
それにしても、『セフィロトの樹』は既にこの近隣の主な拠點を襲撃し終えているように思えてならない。
しかし、城谷と辻を連れてきて本當によかった。
トバリ一人だけなら、この場所にバリケードが作られていたなど知る由もなかったからだ。
どうするべきか、トバリは思案する。
警戒はしなければならないが、中にれば何か報を得られる可能も高い。
それに、襲撃が終わっているなら『セフィロトの樹』の人間がここに殘る意味は薄い。
ゾンビにさえ気をつければ、そこまで危険度が高いとは思えなかった。
「よし。ろう」
「……まあ、ここまで來て怖気付くわけにもいかねえよな。わかった。行こうぜ」
「うん」
三人の意見が一致したところで、トバリはショッピングモールの駐車場へと車を走らせた。
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