《終わった世界の復讐者 ―僕はゾンビをってクラスメイト達に復讐する―》第55話 拍子抜け
ショッピングモールの立駐車場で、タイヤのれる音だけがトバリの耳を打っていた。
人はおろか、ゾンビの気配すら一切ない。
トバリ達が乗るワゴン車の音だけが、虛しく響いている。
ショッピングモールへの口付近まで來ると、辻が何かに気付いたように目を細めた。
「ここのバリケードも無くなってる……」
辻の証言によると、駐車場からショッピングモールへと繋がる道の前にも大型トラックを使ったバリケードが作られていたらしい。
しかし、それが跡形もなく消えているのだそうだ。
ガラス製の自ドアは破壊され、その役目を完全に放棄している。
だが、その先へとうために口を開けているようにも見えた。
「何にせよ、先に進むしかないんだけどな」
そうなると、また考えなければならない問題が出てくる。
「ここから先は僕一人で行ってきたほうがいいような気もするけど、どうする? 城谷と辻も來るか?」
ショッピングモールの中まで車を乗りれるわけにもいかないので、ここから先は徒歩で進むしかない。
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トバリはゾンビに襲われないが、城谷と辻は普通に襲われる。
トバリにとっての脅威は『セフィロトの樹』の人間だけだが、この二人にとってはそうではないのだ。
「もちろん、行くさ。そうじゃなきゃ、何のためにここまで來たのかわからねえ」
「ぼくも行くよ。夜月くんもゾンビには襲われないだろうけど、『セフィロトの樹』の奴らには襲われるみたいだしね。いざとなったら、ぼくたちを盾にしてでも逃げるといいよ」
しかし、城谷と辻は行く気満々だった。
使命が先行して、危機が希薄になっているのか。
『セフィロトの樹』の人間に襲われる確率より、普通のゾンビに襲われる確率のほうがはるかに高いということを理解していないのか。
なんにせよ、トバリにとっては好都合だ。
「さすがにそんなことはしないけど……わかった。気をつけろよ?」
「ああ」
「わかった」
いざとなればそういう選択肢を取ることも頭の片隅に置きつつ、トバリは城谷と辻にそう忠告する。
二人は真面目そうな顔で頷いた。
「それにしても夜月くん、最近言葉がちょっと崩れてきたよね?」
そうしてトバリがワゴン車から出ようとした時、辻のそんな聲が耳に屆いた。
「……そう、かな?」
「あ、それはおれも思ってた。なんか、なんとなくさが抜けてきたっていうか、そんなじ」
城谷も辻の言葉に同意している。
自覚はなかったが、し口調が自然なものになってきている可能は十分に考えられる。
「ああ、いや全然悪いことじゃないんだよ。むしろ逆かな」
トバリの表を読み取ったのか、辻は慌てて手をブンブンと振った。
「しは気を許してもらってるのかな……とか、思っちゃったりするんだよね。一応、ぼくは夜月くんのこと友達だと思ってるからさ」
「……そうだな。僕ももう、二人のことは友達だと思ってるよ」
――いっそのこと、このショッピングモールの中でこいつらを殺してしまうか。
そんな考えが脳裏をよぎる。
中にいるゾンビの數によるが、何も難しいことはない。
赤子の手を捻るようなものだ。
だが、ショッピングモールの中には何が潛んでいるかわからない。
二人を抹殺するのは、この中を探索し終えた後でも遅くないだろう。
「でも、おしゃべりはこの辺にしておこう。ここは敵地かもしれないんだからね」
「ああ。気を引き締めていこうぜ」
トバリの言葉に満足した様子の城谷と辻は、表を引き締めてワゴン車から降りた。
その手には、金屬バットが握られている。
トバリも車を停めて、武を握りしめてから二人の後に続いた。
ショッピングモールの中は、不気味なほどの靜寂に包まれていた。
電力系統が生きているためか、それぞれの店舗の電気は點いている。
中には荒らされたり破壊されていたものもあるが、今まで見てきた襲撃をけた拠點――小學校や高校、スーパーに比べると全的に綺麗な印象をける。
しかし、絨毯じゅうたんが敷き詰められた床には、ところどころ大きな黒っぽい汚れが付著している。
それは紛れもなく、その場所で誰かが壯絶に命を散らした証だ。
「……どうやら、ゾンビはいないみたいだね」
「そうみたいだな……」
城谷と辻は、安心した表で辺りを調べている。
たしかにトバリも、ゾンビの気配はじない。
しかし、トバリは微妙な違和をじていた。
「ん? どうした夜月。なんかあったのか?」
「……いや、人の気配がするような気がして」
それは漠然とした覚でしかなかったが、こういう時の勘はあまりバカにできないことをトバリは知っていた。
その覚の先にあるのは、そこそこ大きな本屋だ。
一般的なスーパーぐらいの面積はありそうな売り場に、天井近くまである本棚には大量の本が詰められている。
吸い寄せられるように、トバリは本屋へと足を踏みれた。
誰もいない本屋は、まるで侵者を拒むような錯覚を覚えさせる。
それは、所狹しと並べられている本に圧迫されているだけなのか、何か他の要因があるのか、トバリには判斷がつかない。
だが、そんな中で、明らかな変化があった。
「――――っ」
どんな些細な音でも聞き逃さないように、耳を澄ませる。
今、たしかに聞こえた。
本のページをめくるような、そんな音が。
――誰かが、本棚の前で立ち読みをしている?
トバリの頭の中に浮かんだのは、そんな場違いな想像だ。
現実的にあり得ないと頭では考えても、どうしてもその景を否定することができない。
音がした方向はわかっている。
トバリは意を決して、音のした方の本棚の裏を覗き見た。
そこには、一人の男が立っていた。
右手に文庫本ほどのサイズの本を持ち、左手でページをめくりかけている。
短めの黒髪で、頬はしこけていた。
鋭い眼が印象的な、痩せ型の男だ。
というより、トバリはその男に見覚えがあった。
「三田さんっ!」
男――三田は驚いたような表で、読んでいた本から顔を上げた。
「……夜月。それに、城谷と辻も」
トバリの聲に反応して來た城谷と辻を見て、三田は目を見開く。
三田にとっても、トバリはともかく城谷や辻がここにいるのは意外だったのだろう。
なんにせよ、完全に予想していない形で、トバリ達は三田と再會することになった。
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