《終わった世界の復讐者 ―僕はゾンビをってクラスメイト達に復讐する―》第57話 想定外の事態

「は――ぁ?」

予想だにしていなかった言葉をけて、トバリの思考が停止する。

それは城谷や辻も同じだったようで、彼らもまた事態を飲み込めていないようだった。

だが、いつまでもそうしているわけにはいかない。

うまく働いてくれない頭を回転させて、トバリは結論にたどり著こうとしていた。

――『セフィロトの樹』。

――知恵の『知恵コクマー』。

トバリとしては、認めたくない。

だが、それらの単語が示す事実は、一つしかない。

三田は。

こいつは、敵だ。

「……なんで」

ポツリ、と。

それまで靜寂を保っていた城谷が、言葉をらす。

そして、燻くすぶっていた発させるように、聲を荒げた。

「三田さんっ! なんでだよ! なんでなんだよぉ!!」

「城谷くん……」

「だっておかしいだろ!? おれたち今までずっと一緒に頑張ってきたじゃねえか!! 何がダメだったんだよ!! おれたちになんか気にくわないところがあったならそう言ってくれよ! なんで、なんでそっち側に行っちまうんだよ……」

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城谷の聲はだんだんと小さくなっていき、最後には消えた。

そんな城谷の様子を、三田は相変わらず黙って見ていたが、おもむろに口を開いて、

「俺が『セフィロトの樹』側につくのは、それが俺にとって合理的な判斷だからだ」

「なんだよ、それ……意味わかんねぇよ……ッ!!」

城谷のびはまさに、トバリたちの総意を代弁していた。

意味がわからない。

まさにそれがトバリの本音だ。

「三田さん。何かあったんですか? 『セフィロトの樹』の人間に脅迫されてるとか……」

外出先で三田が『セフィロトの樹』の人間に脅迫をけたということも考えられる。

それなら、まだ対処のしようがある。

なくとも、三田が自分の意思で裏切ったことにはならない。

三田が何か問題を抱えていたなら、共に戦いたい。

そして、それは今からでも遅くはない。

「いや、こうしているのは俺の意思だ。お前の想像しているようなことはない」

だが、トバリのそんな儚いみはバッサリと切り捨てられる。

「俺の願いは、お前たちには葉えられない。だが、『セフィロトの樹』なら葉えられる。それだけのことだ」

「三田さんの、願い……?」

トバリの疑問の聲に「そうだ」と三田は頷き、

「生き返らせたい人がいる。そのために、セフィラが必要だった」

「――――」

「奴・は話してもいないのに俺の願いを知っていた。その上で、提案をしてきた。俺が『セフィロトの樹』側につき、そこの夜月と城谷と辻、そしてユリを差し出せば、セフィラを一つ渡す、と。そして、俺はそれを承諾した」

その言葉を耳にして、ようやくトバリも得心がいった。

つまり、三田は買収されたのだ。

セフィラという、三田にとってから手が出るほどしている対価と引き換えに。

「俺は、俺の正しいと思ったことをする。お前たちには悪いがな」

三田の淡々とした言葉に、城谷はがっくりと肩を落とす。

それは紛れもなく、彼の中で何かが折れかけている証だ。

「……大學病院にいるみんなのことは、どうするんですか? みんな三田さんのことを大切な仲間だと思って、あなたの帰りを待ってるんですよ……?」

「俺はそんなことをお前たちに頼んだ覚えはない」

辻の悲痛な言葉も、無表の三田にはどこ吹く風だ。

そんな三田の態度に、辻は表を歪めた。

「……信じてたのに」

「――――っ」

辻のらした一言に、一瞬だけ三田が苦蟲を噛み潰したような顔をした。

しかし、すぐに何事もなかったかのように顔を整えると、トバリたちのほうを見た。

「悪いようにはしない。俺からも、お前たちの命だけは助けてもらえるように取り計らおう」

は罪悪じているのか、三田はそんなことを言っている。

だが、トバリはとても助けてもらえるとは思わなかった。

もし本當に、『セフィロトの樹』に、あの・・・がいるのならば。

奴は間違いなく、今度こそトバリの神が壊れるまで遊び盡くすだろう。

「――來たようだな」

「……っ!!」

何かを察したような三田の聲と共に、の深い部分が冷えていく覚があった。

抑えきれない寒気が、トバリのを襲っているのだ。

その発生源は、ちょうどトバリたちがワゴン車を停めた出り口あたりから近づいてきている。

気配は二人分。

足音が大きくなればなるほど、トバリの中の恐怖と不安はより大きなものになっていく。

そして、悪夢が姿を現した。

制服姿のと、純白の法に纏った年。

そんな奇妙な組み合わせの二人が、トバリたちの前に歩いてくる。

「……見るに堪えない姿だ。こんなのが俺と同じような立ち位置にいたなんて、信じられませんよ」

トバリたちのほうを見て何事か喋っているのは、白の法を纏ったガタイのいい年だ。

長はトバリよりし高いぐらい。

顔はパッとしないものの、その鍛えられたには目を見張るものがある。

もっとも、その大半は白い法に隠れて見えない。

そしてトバリは、その年の名前を知っている。

――春日井かすがい。

と共に現れた彼は、トバリの復讐対象のうちの一人だった。

そして。

「だから言ったでしょう? 『本屋さんで適當に本でも読んでいれば、トバリたちは必ずここに來る』、って」

「ああ、まさにその通りになった。禮を言おう」

三田の禮の言葉をけてどこか不満そうな顔をしているのは、小柄なだ。

ショートヘアの黒髪は深淵の闇を吸い込んだかのようなしい漆黒で、その小のような可らしい顔を飾り付けている。

可憐な口から発せられる聲は、聴く者すべてを魅了する甘な音だ。

の格好は、トバリも見慣れた制服姿だった。

……いや、見慣れていた、と言った方が正しいだろう。

かつては彼を普通たらしめるのに貢獻していたその裝も、今の狀況においては異質以外の何でもない。

「久しぶりね、みんな。わたしのこと覚えてる?」

この終わってしまった世界でなお、しい毒の華のまま、彼――沢城さわしろ 亜樹あきは、何も変わっていなかった。

何も。

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