《終わった世界の復讐者 ―僕はゾンビをってクラスメイト達に復讐する―》第58話 対峙する悪夢

「噓だろ……おい」

突然の邂逅かいこうに、トバリにも全く余裕がない。

トバリの目の前にいるのは、間違いなく沢城亜樹だ。

いずれトバリの柄は亜樹に引き渡されるだろうとは思っていたが、それがまさか、こんなに早く本人が出張ってくるとは予想していなかった。

「おいおい、わざわざ亜樹さんがお前ら害蟲に話しかけてやってんだぞ? お前らがいくら常識も禮儀も知恵も何もないカスのような人間だとしても、話しかけられたらそれに返事するぐらいのことはするべきなんじゃねえのかぁ?」

沈黙を守り続けるトバリたちに苦言を呈ていしたのは、亜樹のし後ろに立つ春日井だ。

その下品な言を無視して、改めてその格好を見てみると、トバリにとっては見覚えがあるものだった。

春日井の面のどす黒さをひた隠しにするかのような、ホコリの一つも付いていない純白の法

それは間違いなく、法の男――『知恵コクマー』がに付けていたのと同じものだ。

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つまり、春日井は、

「なんだかー、とても生意気な顔をしてるなぁ」

「げぇっ!」

突如として、目の前で火花が散った。

頭を足蹴りにされたのだと気付いたのは、橫向けになった視界の上のほうに春日井の不快そうな顔が映ったからだ。

「まさか俺の格好を見て考察とかしちゃってたりしたの? そういういかにも『僕はしっかり考えてます』って態度が苛立つなぁ。もう何も考えなくていいんだよお前。ただ黙って俺にボコボコにされて、ピーピー泣いてりゃいぃ」

「春日井くん。死なないように加減はしてね」

「わかってますよ亜樹さん。さすがに殺しはしません」

春日井はトバリの頭を踏みつけながら、愉悅の表を浮かべて、

「俺は『セフィロトの樹』、慈悲の『慈悲ケセド』だ。俺の慈悲に基づき、俺はこれから全力でお前を痛めつける。完なきまでにボロボロにして、お前の負け犬をしっかりと前面に引き出してやるから、せいぜい楽しみにしとけぇ」

――『セフィロトの樹』、慈悲の『慈悲ケセド』。

その宣言が持つ意味は、目の前でトバリの頭を踏みつけている男が、『知恵コクマー』と同じような存在だということに他ならない。

慈悲の『慈悲ケセド』と名乗っている割に、春日井からトバリたちに対する慈悲のようなものは微塵もじられない。

それどころか、トバリの頭をグリグリと踏みつけているのがたまらなく楽しいようで、その顔にはいやらしい歓喜の念が濃く浮かんでいる。

下劣でどうしようもない害悪としての質は、しっかりと殘っているようだ。

この危機的狀況の中で、それだけがトバリの救いだった。

春日井への復讐心を燃え上がらせることで、トバリはなんとか自分を失わずに亜樹と対峙することができている。

しかしそれも、何がきっかけで吹き消えるかわからない脆弱な炎だ。

「まったく。しょうがないんだから」

狂笑を隠しきれていない春日井に肩をすくめて、亜樹はトバリを見た。

「さて」

「っ!!」

背筋が凍る。

亜樹が、ゆっくりとトバリのほうへ近づいてくる。

春日井はトバリの頭から足をどけ、亜樹が來るのを待っていた。

トバリの意思とは関係なく、溫が急速に下がっていく覚がある。

脂汗が噴き出し、無意識のうちにガタガタと歯を震わせていた。

今のトバリはきっと、強い恐怖に彩られた顔をしている。

「……どうしたの? そんなに震えて。大丈夫?」

目線を合わせるようにしゃがんだ亜樹が、気遣うような表を浮かべながら、トバリの頭をでた。

られた部分から多幸が広がり、トバリの思考がれる。

同時に、トバリには目の前にいるが、得の知れない化けのように思えた。

たぶん、確証はないが、亜樹はトバリが何に怯えているのかわかっている。

なのに、それをわかっていない演技をして、トバリを気遣う演技をしている。

普通の人間のような行をしている。

――歪いびつなのだ。

それがトバリには気持ち悪くて仕方なかった。

の知れない化けが人間の真似事をしているのが、たまらなく気持ち悪かった。

「春日井くんが暴したのが怖かったの? 心配しなくても、わたしの聞きたいことさえ教えてくれたらもう何もしないわよ?」

微笑みながら、的外れなことを言う

春日井の暴力が怖かったわけではないが、しっかりと腹は立っている。

再び燃えている復讐心を押さえ込みながら、トバリは亜樹に強い視線を向けた。

「聞きたい、こと……?」

「そうよ。トバリなら、知ってるに違いないもの」

それをけても特にじるものはなかったようで、亜樹もトバリの目を見つめ返す。

どこまでもき通った瞳で、亜樹はトバリに尋ねた。

「剎那せつなは――わたしの可い妹はどこにいるの?」

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