「…………」

なかなかに騒な発言をして微笑む琴羽に対して、三田はかける言葉が出てこない。

「……背骨が好きなのか？」

「まあ、それなりには」

そんな中でようやく絞り出した三田の疑問の聲を、琴羽は適當な言葉で返してきた。

まともに取り合ってくれる気はないらしい。

三田は手を最後まで食べきると、自の右腕の調子を確かめる。

いまだに骨は出たままだが、とりあえず出は収まった。

さすがにこの狀態で何ができるとも思えないが、致命傷をそのままにしておくよりは遙かにマシだ。

……それよりも問題なのは、琴羽の能力がいまだによくわからないことだ。

おそらく琴羽には、直接相手にれる、もしくはれるほど近づくことで敵を傷つけることのできる能力がある。

先ほどまでじていた右手の違和の正は、おそらく琴羽の能力によるものだ。

その違和をじたのは、決まって右手が琴羽に接近した時だった。

そして、先ほどの強烈な一撃をけたのも、琴羽に接近した時だ。

……しかし、それだけでは漠然としすぎている。

あるいはもっと限定的な能力なのかもしれないが、現狀ではなんとも言えない。

だが、仮に琴羽の『峻厳ゲブラー』がそんな能力なのだとしたら、彼が三田の攻撃を避け続けていたのは不可解だ。

れただけであそこまで強烈に人を破壊できるのなら、琴羽の方からこちらに攻めてきたほうがいい。

琴羽は琴羽で三田のことを舐めていた、もしくは接近戦を挑むのは不利だと思ったからなのかもしれないが……それをしなかったのは、それができない理由があったからなのではないか。

「……ふむ」

『峻厳ゲブラー』の能力にはいまだに謎が多いが、ある程度距離を取っていれば、その能力は発できない可能が高い。

現に今、こうして距離を置いている分には、琴羽は特に何のアクションも示さない。

三田のの一部分が、違和をじ始めるということもない。

――それならば長を使うか、遠距離攻撃が有効なはずだ。

「……おっと。なかなか騒なもの持ってるんですね」

三田が懐から拳銃を取り出すと、琴羽は警戒したようにその鉄の塊を睨んだ。

セフィラを持つ人間とはいえ、わかりやすい遠距離攻撃のできる武には危機を抱くらしい。

この銃は、この間三田が『知恵コクマー』に一撃を浴びせた時に使ったものだ。

そんな代を、今は三田自が『セフィロトの樹』の『知恵コクマー』となって使っているのは、一なんの因果なのだろうか。

銃を握っているのは左手だ。

右手が使いにならない以上、利き腕でもない左手だけで撃つしかない。

「撃てるのか？」と、三田の中のなる自分が囁いたような気がした。

「……俺は」

仲間を裏切り、憎むべき敵に尾を振っている。

だが、敵に尾を振る従順な犬にり下がっても、一つだけ譲れないものがあるのだ。

それだけは、たとえ何を犠牲にしても守らなければならないのだ。

三田は、再び茜に會うために、悪魔に魂を売ったのだから。

「――ッ！！」

三田は引き金を引いた。

辺りに銃聲が響き、圧倒的な破壊力をめた弾丸が琴羽に迫る。

命中すれば、いくら『峻厳ゲブラー』を持つ琴羽と言えど無事では済まないであろう暴力の発。

だがそれは、命中すればの話だ。

「……どうやら、そんなに上手く扱えるわけではないようですね」

し安心したような様子の琴羽が、そう呟く。

弾丸は、琴羽のいる場所から大きく下に逸れた場所に著弾していた。

――外した。

三田がそう認識した時には、もう琴羽はいていた。

「それじゃあ、次はこちらからいきますね」

微笑を浮かべる琴羽が、三田のほうへと迫ってくる。

爛々と輝くその瞳に映っているのは、彼の獲に定められた痩の男だけだ。

琴羽の突然の行に三田は反応しようとするが、その速度は彼のそれよりも遅い。

反のせいで軽く痺れた左手に、一瞬だけ意識を向けてしまったからだ。

そんな僅かな隙を突いて、琴羽は三田に薄する。

琴羽の白く細長い指が、三田の左手に迫り、

「チッ！！」

左手の違和が明確な痛みに変わる寸前のところで、なんとか回避することに功した。

……三田は咄嗟とっさにそう思ったが、それは間違いだった。

「おいで」

「――ぐっ！？」

そんな琴羽の囁きを耳にした瞬間、強烈な痛みが三田を襲う。

三田の右手から飛び出した骨が、琴羽のほうへとびていた。 

慈しみの表を浮かべる琴羽を求めるようなその骨のきに、さすがの三田も目を見張る。

それはおぞましい覚だった。

自分の意思に反して、三田の右手の骨は琴羽のもとへ行こうともがいている。

一応を塞いでいたかさぶたは再び開き、腕から溢れる大量の鮮が床を赤く染め上げた。

「――う、うぅっ！！」

だから、三田が腕の激痛に耐え、床を転がって琴羽から距離を取ったのは、まさに英斷と言わざるを得ない。

異常な激痛を伝えてくる右手の覚を強靭な神力で無視し、三田は左手の銃で再び琴羽を狙う。

今度は琴羽との距離が近い。

普段の三田であれば、十分に標的への著弾が狙える距離だが、

「……！」

しかし、それは萬全の狀態での話だ。

そしてこんな狀態での一撃が、まともに當たるはずもない。

弾丸は琴羽がいる場所の、はるか左側に著弾した。

「まったく、そんなものを振り回したら危ないじゃないですか！」

琴羽は焦ったような顔で、三田に文句をぶつける。

いつの間にか、彼の右手には白く長い棒のようなものが握られていた。

先端は鋭く尖っているが……三田にはそれが、人間の骨のように見えた。

「……くっ！」

転がって勢を崩したままの三田は、すぐに立ち上がることができない。

いまだにを垂れ流したままの右手は、もはやなんの役にも立っていなかった。

「はぁ。ようやく捕まえました！」

嬉しそうな顔で、琴羽がしみじみとらす。

床に這いつくばった三田のすぐそばに、無傷の琴羽がやってきた。

彼はその場にしゃがみこんで、手に持った白い棒の先端で、三田の右膝あたりをつつく。

それはまるで、何かの調子を確かめるかのような挙で。

「これ以上抵抗されたら大変なので、折らせてくださいね」

「な、なに――をっ！！」

聲にならない悲鳴を上げ、三田は新たに自を襲う強烈な痛みを実する。

彼の白い棒がつついた部分から、三田の足の骨が突き出していた。

おびただしい量のが、三田の周りを赤く濡らしていく。

それはあまりに異常すぎる覚だった。

焼けるような激痛ももちろんだが、自分のをまるでおもちゃのように弄ばれているという嫌悪と恐怖が、三田のの中に渦巻いている。

だが、それだけでは終わらなかった。

「こっちも出しましょうねー」

「や、やめ……っづ！」

三田の嫌な予は的中する。

琴羽の握る白い棒が、今度は三田の左足に標的を定めていた。

「はいはい、大人しくしてくださいねー」

そんな三田の儚い抵抗もむなしく、琴羽の持つ白い棒の先端が、三田の左足の膝をつつく。

次の瞬間、三田の左足の骨が、膝の皮を突き破って外気に曬された。

噴き出したの量がしだけないように見えるのは、三田ののが失われすぎたせいなのだろうか。

「すごい綺麗……！　やっぱり鍛えている男の人は違いますねー！」

空気に出した腳の骨を眺めて、琴羽はうっとりとしている。

そんな姿を見て、三田は朦朧とした意識の中、ある一つの結論に達する。

――こいつもし、頭がおかしい。

そして、琴羽の能力の正にも、思い至った。

嬉しそうな顔で出した骨をつついている琴羽に向かって、三田は尋ねる。

「……お前のそれは……骨をる能力、か？」

「そうですね。だいたいそんなじです」

出した骨をつつきながらも、琴羽は三田の言葉を肯定したのだった。