《ニゲナイデクダサイ》日常

 通販で頼んだ品は相変わらず「輸送中」だった。

臥雲聖二は、サイトを閉じてため息をつく。

図説を見て資材の勉強をしようと思っていたのに、この分では別の本を買うことになりそうだ。

図書館に行くか、近所の本屋に行くか。いずれにせよもう通販には頼るまい。

「そうは言っても、また頼むんでしょ」

 人の新居真はそう言うに違いない。

確かにそうだ。彼の言うことはいつも正しい。クイズの答えから聖二のことまで何でもお見通しだ。

聖二は、もたれかかっている柱の冷たさをひしひしとじていた。スマートフォンが振する。友人の田中久志からだ。

「もしもし」

『聖二。今どこ ?』

「もう駅にいる」

『わりぃ、ちょっと遅れるわ』

 一方的に告げて、久志からの電話が切れた。

「ちょっと」どころか、約束の時間からもう一時間が経過しようとしているのだが。

「わりぃ」なんて軽い言葉じゃ済まされないのだが。

久志は明るくていいヤツだが、ルーズで自己中心的なのが玉にキズだ。

聖二は柱から離れる。もう一人で喫茶店にっていよう。久志はそこに來させればいい。

駅から出ようとエレベーターに乗る。扉が閉まり、エレベーターが上昇する。無重力のような、ふわりと全が浮き立つような一瞬の覚を聖二は気にっていた。

無重力覚の後、聖二の意識は隣にいるに向く。子高生だろうか、制服を著ている。その顔は青く、額には無數の汗が浮き出ていた。全は瘧にかかったように震えている。

「大丈夫ですか」

 聲をかけると彼はうなずいた。だが、震えは激しくなり、ついには膝をついた。

慌てて聖二はしゃがみ、子高生に手を貸す。子高生がおぶさってきた。爪が肩に強く食い込んでくる。

痛みをこらえながら聖二は駅員室に子高生を運んだ。

「エレベーターの中で合が悪くなってしまったみたいで……」

 事を話そうとするが遮られてしまう。

「分かっている。今日は急病人が多くてね。こんなのは初めてだよ」

年老いた駅員は參ったとでも言いたげに眉を下げる。

「そうですか……」

 その時、駅員室の奧から唸るような聲が聞こえてきた。何かを叩いているような音もする。

おそらく、急病人か酔っぱらいが暴れているのだろう。仕事の邪魔になってもいけない。聖二は駅員に禮を述べて出ていった。

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