続けて、鈍い音が何発か炸裂する。

不意にが軽くなった。

聖二は、ゆっくりと目を開ける。

が息を荒くしてこちらを見ている。その手には、空の酒瓶が握られていた。瓶底は割れている。どうやらホームレスの住まいから持ってきたらしい。

長い髪のが自分の真橫にいるのに気付き、聖二はパッとを起こす。

改めて凝視すると、の頭部はパックリと割れ、赤黒い斷面が覗いていた。

きは完全に停止している。

久志は未だに前進と後退を繰り返しており、こちらに向かってくる様子は見けられなかった。

「逃げましょう」

瓶を持ったままが促す。

先ほど落としてしまった久志のカバンを拾い、聖二はうなずいた。

久志のことが気がかりだったが、この狀況ではどうしようもなかった。

大柄はまだへたりこんでいた。

と二人で肩を貸し、なんとか立ち上がらせる。

「ひとまず、安全な場所を探そう。それからどうするか考える」

震える聲をかろうじて落ち著かせ、聖二は提案する。とにかく気持ちの整理をつけて、今の狀況を把握したかった。

三人はホームレスの住みかを後にした。聖二を先頭にし、が大柄に肩を貸す形をとって歩く。歩きながら彼は、安全の高そうな場所を考えた。

まずは駅員室。急病人が多數運び込まれていたことを思い出し、卻下する。

確実にそうだとは言い切れないが、急病人たちが例の怪になっている可能も否めない。その場合おそらく最悪の結末となるだろう。

多目的トイレはどうだろうか？

鍵はついているが、ってしまったら最後、外の様子を伺えなくなってしまう。加えて、多目的トイレの中には一定時間が経過すると自的にドアが開いてしまうものもあるらしい。避けた方が無難だ。

走りながら結論を出す。

喫煙所だ。全方面をガラスに囲われているので、外の狀態も分かりやすい。

運が良ければ他の人に會えるかもしれない。

「ホームに行こう。そこにある喫煙所なら、一度こもって狀況を整理することができる」

聖二は、後ろからついてくる二人に申し出た。

幸い、ホームに至るまでの道中で四つん這いの怪に遭遇することはなかった。反面、まともな人間にすら出くわさないのが聖二はひどく不安だった。

ホームに著いたとき、當然というべきか電車は停まっていなかった。

聖二たちはそのまま喫煙所に向かう。

その部を見、思わずき聲が洩れる。

ガラス越しに數匹の怪が蠢き、獲を待ち構えていた。