染めの館》第3話 前

自転車を漕いで、家の前の急な坂道を下りて行った。角を二回回れば、染めの館に著く。

「はぁ、はぁ、はぁ…」

そんなに遠くないのに息切れをしていた。まだ誰もきていない。目の前の染めの館は、門を隔てて巨大な図を構えてそびえ立っている。

不意にどっと背中に汗をかいているのをじた。それが暑いからかいた汗なのか、恐怖からの冷や汗なのか検討もつかなかった。

しばらくして、莉子さん、かなめさん、淳くん、りんごちゃんが到著した。

「早かったな、にも。さあ、行こうか」

慣れた手つきで、莉子さんが門の扉を開ける。

ぎぃぃという軋むような嫌な音を立てて、染めの館の全貌が明らかになった。

「開いたか。中はどうなってる?」

「…不気味だね。」

それまでにない、異様なまでに靜かな雰囲気が館全を包み込んでいた。まるで、異世界の狹間のような。

「せ、先輩!あそこ!!」

りんごちゃんがんだ。しかし、視線の先には何もない。

「ど、どうしたの?」

「ひ…ひとが…いた。」

こんな時間にこんなところにいるのは私たち以外ありえない。なのにひとがいた?

「中にれば確かめられるだろう。行こう。」

玄関の前に立ち、大きな扉のノブに手をかける。鍵はかかっていなかった。

「うっ。まじかよ、埃すげえ」

「ハックション!うぅ。」

凄まじい量の埃と蜘蛛の巣に覆われた広い部屋だ。ここはエントランスホールのようだ。向こう側を月明かりが照らすと、二つの二階へつながる階段と四つの扉がみえた。

「一つずつ部屋を探索しよう。鍵のかかった部屋はスルーする。全員離れるなよ。」

莉子さんを先頭に奧へと進んで行った。

でも、私は気づいた。現在進行形で起きている取り返しのつかないことに。

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