《Duty》chapter 3 前兆 -3

3 4月15日 胡桃沢桜

「桜!」

たまらず太は先をふらふらと歩く胡桃沢桜くるみざわさくらの名を呼んだ。

桜と呼ばれたはその聲に反応してゆっくりと振り向いた。

太?」

肩にかかる綺麗な黒髪に、シャンプーの香りを乗せ、き通ったに、くりくりの丸い目が太の姿を捉えた。

「大丈夫なのか?」

「うん、いつもみたいにちょっと休めばすぐ良くなると思うし」

桜は太との稚園からの馴染である。

心がついたときから一緒に居て、お互いのことをよく知っていた。

太は桜のが弱いことも知っているし、桜は太が今のクラスの現狀を嫌っていることもよく知っていた。

太も桜もお互いにという関係を意識したことは無いが、おそらくそれ以上に深い絆のようなものはじているはずである。

「無理すんなよ。いつもみたいに急に倒れられたりしたら焦る」

太は桜の顔を窺いながらいった。

「へへ、ありがと。でも別に太まで抜け出す必要なかったんじゃない?」

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「……んー、そうだな。ま、綺麗な空気吸いたかったし。なんか授業抜け出すのってちょっとカッコいいじゃん?」

「そんなダシに私を使わないでよー」

「ウソウソ、冗談冗談」

笑いながら照れ隠しをしたつもりの太であったが桜には見破られていた。

太は相変わらずだね」

「? なにが?」

「人の心配してばっかり」

「は、はあ? べ、別にそんなんじゃねーよ!」

「はいはい、了承了承」

「うるせっ」

怪訝そうな太をよそ目に、ふふっ、と無邪気に微笑み、桜はひとつ息を吐いた。

「なんか太と話してたら元気になってきた」

「……お前ほんとに合悪かったんだろうな?」

「まじまじ!」

と言って桜は太の腕をぐっと摑んだ。

「ね。ちょっと屋上行かない?」

「屋上って……授業は?」

「だって綺麗な空気吸いたいでしょ?」

すーっと自分のと外の空気を換するように桜は大きく深呼吸をした。

太はその隣で呆れ半分で桜を見つめている。

宵崎高校の屋上は誰でも自由に行き來することができる。

他の高校では屋上への侵止されている高校もあるようだが。

いや、この宵崎高校もし前までは閉鎖されていたのだが、どのみち今は自由に使える空間である。

桜は柵に摑まり屋上から見える景を一する。

しかし校庭では1年生が育の真っ最中で。ということは勿論、そこには教師も一緒にいるわけで。

1年生の育の教師といえば、あの厳しい海藤である。

太も1年生の頃に一度だけ育著を忘れ、かなり怒號を浴びたものだった。

3年生とはいえ、もしも授業をサボって屋上にいるなんてばれたら……。

そんな嫌なことを思い出し、太は桜を屋上の端から引き剝がす。

「あ、あぶねえ、って」

「? 大丈夫、大丈夫。まさか落ちないよ」

「う、うん。まあ、そうだけど。か、簡単に超えられそうな柵じゃん?」

「んー……太さー」

一気に聲を変える桜。こんなときは何か気分の良くないことを話そうとしているのだと太は知っていた。

「私たちのクラスっておかしいよね」

「……?」

「學校、楽しくないよね」

「……ああ、そうだな」

「私たちみたいなのって中流階級っていうんだって、クラスの中で」

「中流階級?」

「B軍、ともいうらしいよ」

「Bって、何?」

「A・B・Cって3段階あって、真ん中だね」

「ふーん……で?」

「2番目に偉いってこと……? いや違うか。たぶんいつでもげられる立場になる存在ってことかもね」

「くだらねーな。誰がそんなこと言ってたんだよ」

「五十嵐君」

「五十嵐って、あのうるさい奴か? いつもチャラチャラしてて仲居ミキとつるんでるよな?」

「A軍の中でリーダーみたいなじでいる男子だよ」

「……うーん。桜の気にしすぎだって」

太は桜から視線を外して答えた。

「そう、なのかな?」

「冗談だろ……そんなの」

「……おかしいよ、同じクラスメイトなのに」

暗い表で桜は俯く。

否定やはぐらかすようなことはしたものの太自も、クラスの狀況はしっかりとじ取っていた。

勉強なんかできなくても、顔がイケてて、人気があり、何かを話せば回りがついてくるような、所謂カリスマがあればA軍となれる。

そして他の連中はA軍の顔を見定めながらご機嫌を取り暮らしていく。

つまりB軍・C軍はA軍にとって『自分たちの暴力的カリスマを確認するため』の道にしか過ぎない。

そして、もうそれはどうすることもできないほど巨大に膨れ上がっていた。

昔から正義が強かった太でももう立ち向かえない。

何をしてもクラスの狀況は変わらない。

それは歴然としていた。

「桜! 今年って俺ら験だろ?なんとな~く験も落ち著いてきたら、卒業旅行一緒に行くか」

「! ほんとに言ってる?」

「ほんと。だからさ、あと1年も無いんだから元気だして行こうぜ。気にしすぎたらにも悪い」

「うん! よっし、じゃあ約束だからね」

桜さえ元気で居てくれたらそれでいいと、太は切実に願っていた。

そして二人は指を差させ、お決まりの文句を呪文のように繋ぎ合わせた。

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