《Duty》chapter 6 第2の審判 -2
2 6月3日 日頃の行い
太と桜は自分たちのクラス3年1組教室へとやって來た。
今までのこの教室は確かにおかしかった。
五十嵐率いるA軍が取締り、支配下に置いていた生徒たち。
この教室の全てはA軍のものであるかのように扱われていた。
太も桜も、そんなクラスが嫌いだった。
でも今は変わってしまった。
以前に比べてだいぶ靜かにはなった。
それにA軍による暴力的主張もかなり減した。
しかし今のこのクラスは普通ではない。
今、このクラスは何か邪悪なものによって包み込まれているかのようで。
不信と恐怖心が蔓延していた。
登校してきた太と桜に向かって前列に座る平森隆寛が聲を掛けてきた。
「あ……く、胡桃沢さん、お、おはよう」
「平森君、おはよ」
そのまま桜は自分の席へと駆けて行く。
「平森君。おはよう」
太も気分良く挨拶をわしたのだが、
「あ……おはよう」
平森の反応は隨分と素っ気無く見えてしまった。
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「?」
太が不思議そうに首を傾げたとき、ふと気まずそうな顔をして平森は続けた。
「……神谷君?」
「え? 平森君、なに?」
「社會の窓……開いてるよ」
平森の態度に違和をじたが、これの閉め忘れが原因かもしれない。
「てか、桜~。マジなら、マジだって言えよ」とでも言うように、太は聲には出さずに桜を睨みつけた。
偶然、目が合った桜にはニコッと微笑み返されるばかりである。そんなときだった。
「きゃっ!」
という、か弱き悲鳴とともに猛烈な破壊音が教室中に響き渡った。
その音に教室中の生徒たちは注目せざるを得なかった。
それは教室端、窓際の棚に置かれていた花瓶が床に落ちて割れた音だった。それには花が差してあり、定期的にC軍・東佐紀が水を換していたのである。
落としたのは、今日も例によって水の換を行おうとしていた東佐紀だった。
東佐紀は五十嵐の一件以來すっかり沈みきった様子で過ごしていたのだが、
教室の整理整頓は今まで通り、いやそれ以上に心掛けるようにしてやっていた。
花瓶の破損により、床は水浸しになり、さらに不運にも近くを通っていたA軍・山田秋彥の制服にかかりびしょ濡れになってしまったのだ。
山田は東佐紀に向かって、脅すように聲を上げた。
「てめえ! お前のせいで濡れちまったじゃねえかよ!」
「ご、ごめんなさい……!」
「ごめんじゃねえだろ! ふざけんなよ、どうしてくれんだよ!」
山田もA軍ではあるが、その中では地味な部類にる。
山田は元C軍であり、A軍のパシリから始まった関係だった。
「俺は貴方たちの完全なるシモベです」そうアピールすることが、山田なりのこのクラスでうまく生きていく方法であったのだ。
山田が東佐紀に聲を上げたとき、太は悪寒をじざるを得なかった。
これは、そう……あの先月の……あれに似ている。
慌てて、山田と東佐紀の間にろうとした太よりも先にその仲裁にった人間がいた。
A軍の五十嵐と仲の良かった金城である。
「止せ!」
聲を張って、山田と東佐紀を隔てるように金城は間にった。
「! か、金城?」
「ま、まあまあ、アッキーさ。そんな怒るなって。な! いつか乾くじゃんか、こんなん」
「金城、何言ってんだよ。お前、このブスの味方かよ!」
「いやあ~。そうじゃねえけどさ~、な!」
「お前、現にこいつを守ってるじゃねえか!」
「いや落ち著けってアッキー。ほら?」
「ざけんな……」
「なら今日、俺の制服貸してやるから。だからさ、機嫌直せって」
「ふざけんじゃねえよ!」
山田の怒りは収まらず、なだめる金城の倉に摑みかかった。金城は押され、黒板に頭を強打した。
そのとき、教室中は何かいけない領域に足を踏み込んだようなそんな覚に包まれた。
その様子を見た平森は不敵にほくそ笑んだ。
そして太と金城、二人の聲が同時に響き渡った。
「やめろ!」
♪ ピピピ ♪ ピピ ♪♪ ピ ♪
そのとき重なるように二重のスマホ著信音が鳴り響いた。
太と桜の背筋が凍った。
先月の嫌な思い出と全てが被って見えてしまった。
その著信音は東佐紀と山田秋彥のスマホからであった。
その音を聞くと、金城は絶の表を浮かべ、山田から離れた。
山田もサっと溫が下がったかのように青ざめた表を浮かべた。
そして東佐紀と山田、二人は靜かにスマホを確認した。
――――――――――
6月3日
東 佐紀
あなたハ損壊&他人を不快にさせた罪にヨリ『罪人』になリました。
ざまあw
P.S.
イイ奴は救われるかもにぇw
――――――――――
――――――――――
6月3日
山田 秋彥
あたナは過剰防衛&仲介者への暴力行為の罪にヨリ『罪人』になりましタ。
ざまあw
P.S.
全テは日頃の行いw
皆に必要とされた人間ハ無罪w
――――――――――
スマホを見て山田は震えた表を浮かべた。
「噓……だろ」
その後ろで東佐紀も、口を押さえ佇んでいた。
そして、その表で太も桜も、金城もその場に居た人間は全てを察してしまったのだ。
「ま、まさか……」
絶の表を広げる生徒たちを余所目に、一人の生徒が冷酷な言葉を告げた。
「しょうがないよ。僕は自業自得だと思う」
信じられないその言葉に太たちは、その聲の主を探した。
自らの機で予習を施しながら、冷徹な視線を山田・東佐紀両名に向けて、平森が口を開いていた。そして言葉を続けた。
「人を不快にさせたんだからさ。罰はけないと」
「ひ、平森……君?」
太や桜たちは驚きを隠せなかった。
彼の友人であったはずの東佐紀も揺を隠し切れていない様子であった。
山田はスマホを床に叩きつけ、平森に激昂した。
「なんだと……平森、お前!」
そんな山田の恫喝に一切ひるまず、平森はを釣り上げながら、靜かに言葉を発した。
「今からでも皆に対して優しく接しておいたほうがいいんじゃない?」
「はぁ……?」
「前例だと『審判』の日が來なければ、裁かれることはない、と思うし。まだ死刑が決まったわけじゃないでしょ?」
平森は靜かに殘酷な笑みを浮かべた。
「い、いや……」
東は顔を塞ぎその場に蹲ってしまった。
太も桜もそんな平森と山田の様子をただただ眺めていることしかできずにいた。
そんななか、教室の隅でその様子を見ていたとある『人』が眼鏡を整え、かすかに誰にも聞こえないような聲で囁いた。
「なるほど。いい目だ」
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