５ ７月５日　母と子②

家に著いた太は玄関のドアを開けようとした際、錠が閉めてあることに気が付いた。

太の母・波絵は家を開けるとき、しの間であろうと鍵を閉める。

「出掛けてるのか？」

太はポツリと呟き、自の持つ鍵で家へとった。

太は、未だに現在の自分たちの狀況を母に話す気にはなれないでいた。

太がい頃から心配の波絵は現在の３年１組のことを知ればヒステリーを起こしてしまうかもしれないという不安と、またそれで太自が気に掛ける問題を増やしたくはないという思いもあった。

さらにどういうわけか、何があっても母に助けを求めたくないという確固たる思いもあった。

それは母・波絵が頼りにならないからではない。

いったい何故そこまで母に自分の事を隠したいのか、と太は自分のに問いかけてみたが、答えは心の中の朦朧とした煙の中に消えてしまうのであった。

「太！　帰ったの？」

太の背後から玄関のドアの開く音と、波絵の聲が響いてきた。

「母さんこそ、どこに出掛けてたのさ」

「ちょっとコンビニよ。調味料切れてること忘れてて」

太の側までやってきた波絵はビニル袋片手に続けて言った。

「進路。決めた？」

「母さん。心配ないって」

「もう半年もないのよ。いい加減に自分の將來とか見つめないと――」

「母さん！　わかってるって」

「太、邪険にしないで。ちゃんと話を――」

「うるさいな！　俺はちゃんとわかってるし、ちゃんとやってる！　それに今はそれどころじゃないんだよ！」

「それどころじゃないって……なによ？」

「！」

太は目を見開いた。

そして、開きそうになる口を堪えた。

「太？」

「俺のことは……構わないでくれよ、母さん」

太はそう言って振り向き自の部屋へと急いだ。

進路どころの話ではない。

自分たちは今、命の危険に冒されているのだから。

太の心の中ではそんなことがグルグルと渦巻いていた。

「進路は大丈夫」そう言っておけば波絵は落ち著いていてくれるだろうと、太は渦巻く心の隅に小さくしまっておくのだった。

「太……」

波絵は小さく呟き、ビニル袋をその場に落としてしまったことにも気が付かないほど、不安を抱えて、息子の背姿を見つめ続けた。