《Duty》chapter 9 調査 -5

5 7月6日 調査

「って、まさか霧島君のお父さんが刑事さんだったなんて。初めて知ったよ」

桜は大きく背びをしながら、黙々と文獻に目を通す霧島に向かって言った。

様々な資料が整頓され並ぶ資料室を貸してもらえた太たちは、

「散らかさないこと。持ち出さないこと。ここ以外では調べないこと。余計なことはしないこと」

という霧島の父改め#霧島亜門__キリシマアモン__#警部から出された條件のもと調査を行っていた。

もう何時間適當な文獻を読み漁っているだろう。

太は飽き飽きした顔で、文字を目で追っていた。

「まあね。こういう資料なら保管されてあるって聞いたことがあって。頼んでみたら、結構簡単に了解を得てさ」

霧島は目を左右にかしながら答えた。

「それはまあ。普段から信頼されてる息子なんだろうな」

掌に顎を乗せながら太は呟いた。

霧島は「ふっ」と笑い、

「さあね。僕に興味なんてないんじゃないかな? 彼は」

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と、小さく聞こえないよう呟いた。

同時に桜の大きな溜息が資料室に響く。

「さすがに疲れたよー。もうどれだけ読んだか。宵崎高校の歴代の事件なんて全然ない。ちょっとした火事だとか、化學の実験で生徒が怪我を負ったとかの記事なら見つけたけど」

そんな桜を一瞥したあと、太は霧島に向かって口を開いた。

「こんな過去の新聞記事や、事件記録なんて読んで本當に意味あんのかよ。俺には『審判』の手掛かりになるなんて思えないぞ」

と告げ、掛けていた椅子に仰け反った。

「神谷君と胡桃沢さんの手も借りれば、僕だけで探すよりも単純計算で3倍の速さで文獻調査できるかと思ったんだけど」

「……」

太は霧島に白い目を向け、桜に小聲で話しかけた。

「人手が必要ってまさかこの為だけか」

「……ど、どうだろう」

流石の霧島も疲れたのか大きく背びをしたあと、太と桜に向け微笑んだ。

「まあでも、一応、気になる記事なら見つけたよ」

「……まじ?」

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太は唖然として、霧島の顔を窺った。

「霧島君。もっと早く言ってよ!」

「僕も今見つけたところさ。ほら」

太と桜は霧島が文獻を読み漁っていた機に近づき、覗き込んだ。

それは過去の新聞記事のようであった。

「ここ最近のなかで宵崎高校の生徒が死亡した事件を探していたんだけど、これが一番新しいかな」

「古いな。10年も前の新聞じゃねえか」

かなり隅の方に小さな記事でそれは存在していた。

見出しには『宵崎高校の生徒自殺 両親の離婚が原因か?』と書かれてある。

桜は見出しを靜かに聲に出して読み、こう続けた。

「……これが何か関係ありそうなの?」

「まだわからないけど、ただ違和があってね。もっと記事の容、よく読んでみて」

「ん?」

太も桜も記事に顔を近づけていく。

そして、読みながらにして太が呟いた。

「宵崎高校の屋上から投自殺してるな」

そのとき、太はあることを思い出した。

そういえば、宵崎高校の屋上はつい數年前まで生徒立ち止になっていたはずであったことを。

「これが原因だったのか……?」

「……えっと霧島君。何が違和なのか、ちょっとわからないんだけど?」

霧島は立ち上がり、何かを考えるようにしながら話し始めた。

「両親の離婚が原因となって自殺に追い込まれたんだとしたら、自殺場所を學校に選ぶかな?」

「えっと……どうだろう?」

「まあ勿論、それほど追い込まれていたのかもしれない。死に場所なんてどうでもいいほどね。でもそうではないとしたら?」

太はフラフラと歩き回る霧島の姿に目を送り続けた。

「もしも、両親に対する反抗的思いがあるのなら自宅を自殺場所に選ぶんじゃないかなと思ってね」

「……そう、なのかな?」

「『自殺』をある種のテロル、だと仮定したらだけどね。『自分の死に様を見ろ。お前らのせいでこうなったんだ』っていう。……なくとも僕ならそうすると思っただけ」

太は眉を下げ、霧島に言った。

「お前……大丈夫か?」

「ハハッ」と笑い、霧島は答えた。

「病んでないよ、安心してくれ。ただの推察」

またフラフラと霧島は歩き回る。

「さらに違和があるとしたら、両親の離婚で自殺まで追い込まれるか、ってことだ。しかも高校生で。だ」

「いや……でも」

と、桜が言いかけたとき、霧島が手で桜の聲を遮り続けた。

「うん。まあそれは個人の家庭の事・問題であるからね。なんともいえない。どういう事があったかなんてわからないからね。でも僕なら絶対に有り得ないけどね。自殺なんて」

太は霧島から視線を外し、新聞記事を見つめた。

「それを言ったら。ここまで両親の離婚なんてプライベートな容を大々的な見出しにするか? 普通……」

と、太はポツリと意見を溢した。

「お。いいところに目を付けたね、神谷君」

「……」

「えっと……どういうこと?」

桜は太と霧島を互に見つめた。

霧島はニヤっと笑い、一度太に視線を送ったあと、こう告げた。

「カモフラージュとか」

「カモフラージュって……なんの?」

「これは僕の推察だからさ、言ってしまえばただの妄想だ。何も意味もない意見かもしれない。ただこの『両親の離婚が原因』だったことが偽りだったとしたら、それを見出しにしたこの記事は何かを隠蔽したかったというふうに見えるね」

太は霧島を見上げ、間をし置き、真剣な眼差しで言った。

「隠蔽って、誰が? なんのために?」

「學校が、だろうね」

「……」

「隠したかったものといえば、んーなんだろうね、例えば」

霧島は冷徹な眼で太と桜を見つめた。まるで蛇に睨まれた蛙のように太も桜も瞬きすらできずにいた。

「『いじめ』とか」

そう言い、霧島は怪しく微笑んだ。

「いじめって……つまりこの自殺した生徒がいじめられていたとでも?」

そう太は尋ねた。

「かもしれないね」

「そのいじめが原因で自殺した、と?」

「かもしれないね」

「だから學校側はイメージのため『いじめ』を隠蔽し、別の自殺原因を工作したと?」

「かもしれないね」

「……おい」

「言っただろう、まだ妄想の枠をしていないって」

太は深く考え込むように記事を再び読んでみた。

「でも、この妄想の方が、この記事よりも違和がなくないかい?」

と霧島は微笑んだ。

「いじめ、で……生徒が……死んだ?」

反芻するように太は呟いた。

そのとき、

「……C軍」

「!」

桜のその言葉に太は揺を隠しえなかった。

そう自分たちのクラスに蔓延る、いや蔓延っていたその#階級制度__カースト__#を。

「上流階級の者が最低階級の者を的・神的暴力行為によって支配する。まあ簡単に言えば『いじめ』だ」

霧島はそう言い放った。

「俺たちのクラスで行われていたことも『いじめ』のうちの一種……?」

「そのC軍となる人がグループではなく一人だけだったとしたら? この自殺した生徒がその一人だったとしたら?」

「この自殺した生徒がいた時代は俺たちと同じスクールカーストが確かに存在していたってことか?」

「宵崎高校のことならある程度、僕たちは知っているだろう。この高校は決して評判は悪くない。『いじめ』や『不良行為』などの問題なんてほぼ皆無だ。それなのにそう言ったスクールカーストが存在するのはここ數年で僕たちのクラスだけだ……この自殺した生徒の時代を除けばね」

霧島は頭を掻くようにし、振り払った。

「最初から言っているように々オカルトチックな話になるけど……。この自殺した生徒の意思が、僕たちのクラスのカーストに同調したのだとしたら?」

「……霧島、本気で言っているのか?」

「それ以外で僕たちのに降りかかっている非科學的な出來事をどう解明できる?」

「……それは」

「誰からも実際に手を下されずに、まるでられているかのようにして、人が死んでいるんだ」

「……」

「これはその生徒の恨みが新たな形となって現化され、『審判』として僕たちのクラスに起こっているのかもしれない」

太と桜も蒼白の顔で霧島の意見を噛み砕いていた。

そして言っている霧島自も有り得ないとでもいうような表を浮かべて、告げた。

「これは10年前に自殺した生徒の『呪い』なのかもしれない」

太はそんな怪しげな笑みを含ませた霧島が話し終えたあと、間を置いて言った。

「じゃあ……いったいこの生徒は……誰なんだよ」

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