《Duty》chapter 11 第3の審判 -2

2 7月8日 第3の審判②

「ひどい! どうしてこんなことするんだ!」

皆が揃おうという教室に一人の生徒の聲が響き渡った。

太と桜、霧島もその聲に反応し、聲の主を探した。

聲の主である平森隆寛は床に這い蹲って、打ちひしがれていた。

周りの生徒たちもそんな平森を凝視している。

いったい何があったのだ、と太が話しかけようとしたとき、そんな平森の前に立つ、一人の子生徒の姿が目にった。

A軍・仲居ミキである。ミキはわなわなと震えて、そんな平森の姿を見下ろしていた。

「え……? え……」

と、小さな疑問の聲をらして、ミキ自もいったい何が起こったのか理解しては居ない様子であった。

太たちは平森が俯き見つめている床に目をやった。

そこには無殘にも真っ二つに割れた1本のシャーペンが落ちていた。

それを手に持ち平森は涙聲で言った。

「ひどい……ひどいよ。僕が験の合格祈願の為に買った大切なペンなんだ」

ゆっくりとミキの姿を見上げて、平森は続けた。

「きみは僕のシャーペンが落ちているのを知っていて、わざと踏んだね?」

「え……?」

ミキからじっとりとした汗がどっと溢れ出る。必死な形相で平森を見つめ言った。

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「ち、ちがっ……ア、アタシ、踏んでない! 踏んでないし、そんなふうに割っても居ない!」

ミキの聲は小刻みに震えている。

「合格祈願なんだよ。大切なお守りみたいなものなんだ。これによって僕の人生が決まると言ってしまってもいい」

平森はゆっくりと立ち上がった。

功者となる僕の道をお前みたいなクズが邪魔していいと思っているのかい?」

「ち、ちが、う……アタシ踏んで、ないっ」

平森の目は虛ろに黒く、染まっている。そんな目で目の前のミキの姿を刺し殺すように睨みつけた。

「なんだよ。他人の大切なものを壊しておいて、その態度は人間としてどうなのかな?」

「アタシ、踏んでないし、も、もしも踏んでいたとしても……それはアンタがっ」

「今まで僕らを蹴落としてきておいて、一人じゃ何もできないクズの癖に。いつまで僕たちの上に立っていると思ってやがるんだ。低脳な糞メスが!」

ミキは徐々に平森から離れるように後ずさっていく。最早その表には怯えしかない。

そう、恐らくミキの脳裏に今も焼きついている最悪の出來事はひとつしかない。

その出來事を現化させるかのように平森は聲を紡いだ。

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「お前のような社會のゴミはこの世界から消えてしまえ」

「い、……いや……」

平森は邪悪な笑みを浮かべて、ミキを指差した。

「人のものを壊すという行為は『罪』なのかな……」

「い、いやあああああああああ!」

ミキは頭を抱えてしゃがみ込んだ。

次の瞬間、ミキは目を見開き、天井を見上げ、奇怪なび聲を挙げた。

「あああああああああああああああああ!」

ミキの口が引き裂かれそうなほど開けられ、目玉が飛び出そうなほど見開かれる。

「あ、ああああ……あああああ!」

そして、自らの掌が震え始めていた。そのまま、足の太の部分へと手をばす。

まるでミキの手は#何者かにられているのではないか__・__#というほど、ひどく痙攣をしつつ、ミキのを這いずっていく。

「い、いや……いやあああ、あ。いやっ! 手が……手が勝手にっ! やめて! 助げで!」

そして、ミキの太へと思い切り爪が刺し込まれた。

深く。

深く。

を裂き、がえぐられていく。えぐり刺さっている指の隙間からが次々に噴出してくる。

「ああ、ああ……い、いだいぅ。いだいよ」

ミキの目から涙が流れ続けるが、そんな表とは裏腹に、彼の指は足の皮をえぐり裂いていく。がだらだらと飛び出し始める。

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3年1組の生徒たちはそんなミキの姿を愕然とした様子で眺める。

また目を逸らす者や、悲鳴を上げる者、えずく者も居る。

そんなミキのもとへと教室にやってきた金城が慌てて近づいた。

「ミキ、やめろ! 何やってんだ!」

ミキのを浴びながら、腕を摑み皮を刻んでいくのを止めようとする金城だったが、その手はの力とは思えないほど強力で、押さえることすらできない。

「た、たすげて……かねし、ろ」

「ああ! 助ける、助けるから、手に力れるんじゃねえ! くそ!」

「ちがう……私じゃない、これ私の手じゃない……いだい、いだいよぉ」

太も桜もそんな様子を黙って見つめることしかできずにいた。

霧島はそんな様子を伺い「馬鹿な」と呟き、目を細める。

ミキの爪が指先からはがれ飛び散る。それほどミキの手には力が込められている。

が床を赤く染めていく。足の片が飛び散るほど、傷つけ続ける。

「いだい……いだいよぉっ」

そんなミキの姿を捉え、依然として平森は笑みを浮かべていた。

金城は平森を怒りの形相で睨みつけた。

「てめえ平森! わざとやりやがったな! そのペンは最初から割れてたんじゃねえのか! 答えろ、平森!」

「そんなことするわけないだろう。どうして僕がそんなことを。ふふふ」

「てめえ……っ!」

「死に損ないの糞が裁かれるのは必然だろう? そんなどきゅん、これから生きていく価値もないんだからさあ」

「平森いいいいいいいいいいい!」

金城は激昂し、教室の空気が割れそうなほどのびを上げ、全てを目の前の平森にぶつけるように突撃した。

そして倉を摑み、かつてないほどの力を込め、平森の顔面を毆りつけた。

平森の口から歯が欠け落ち、そのまま平森は床に叩きつけられ倒れた。

「はあ……はあ……」

金城は息荒く平森を見下す。鋭い刃のように倒れている平森を睨みつけた。

「殺してやる……お前は絶対このクラスに居ないほうがいい。俺がお前を殺してやる……」

「はははははっ」

高い笑い聲が3年1組教室中に響き渡った。

ゆっくりと平森が立ち上がった。だらけに滲んだ顔の口元を釣り上げて、不気味に笑い聲を溢しながら、眼球がギョロギョロとき回り目の前の金城を捉え睨みつけた。

教室中の生徒たちの表が凍りつく。

そして、平森はゆっくりとの垂れる口を開いた。

「ははははっ、やったあ、やったぞ! これは完全に暴力行為の傷害罪だよねえっ! A軍の金城君! これは立派な罪だよねえ? 罪深き罪人は裁かれなきゃならないよねえ? 死刑だよねえっ!?」

ぞっと金城から脂汗が滲み出した。

目の前の平森は最早、最低階級のC軍年などではない。

その姿はまるで『闇』そのもののようにじた。

「な、なんだ、と……お前いったご。か、あ、が、があ」

金城が平森に返答しようとするも間に合わず、金城の手が暴れ出すように蠢き、自らの眼球に指を突っ込んだ。

「があああああああああああああああ!」

ぐりぐりと金城の指は目を掘るように両目奧深くに指が刺さりこんでいく。そして大量のが噴出す。そのまま金城は床に倒れこんだ。

「が……あ、ああああ、あ」

「きゃあああああああああああああ!」

教室には生徒たちの悲鳴がこだました。

の慟哭が響く教室で目を塞ぎ蹲る者やえずき嗚咽を繰り返す者たちが蔓延している。

「はっははははははははははははは!」

そんな阿鼻喚の教室で平森は恍惚な表を浮かべ、天を仰ぐような笑顔で立っている。

「この世に馬鹿はいらない。人を見下し、陥れるようなクズもいらない。だからそんな奴らは裁かれるべきだ。そのために絶対的なルールが必要だ、皆が恐怖し、苦しむとしても! 僕のような功者となる人間の為に! 冷徹な秩序は必要なんだ!」

平森は狂喜舞に興した早口で言い続けた。

太は大量に出し倒れている金城とミキに駆け寄りたいとは思ってはいた。しかし足がすくみけない。

今の太はその狀況に完全なる恐怖をじていたのだ。

【簡単に人が死んでいくことは正しいはずガ――い、――ア】

まるで教室の中央に立つ平森の顔が黒く霞がかっているように見え、その姿に恐怖を抱いてしまった。

「金城君! 仲居さん!」

そんな太の前をC軍・伊瀬友昭が通った。そのまま伊瀬は倒れている金城とミキのもとへ駆け寄った。

「い、伊瀬……か? お、お前そこにいるのかあ……?」

金城は苦しそうに言った。

「うん、そうだよ! しっかりして! すぐに病院に連れて行く! 絶対に助ける!」

「い、伊瀬……」

苦しそうにミキも伊瀬の姿を捉えた。

に腕が突き刺さって、大量にが噴出している。

「こ、これは罰なの、かな……? アタシたちが今までアンタたちを馬鹿にしてきた、から……」

腕はさらに激しく足をえぐり出す。

「あああああ!」

平森はそんなミキの姿を一瞥し、不気味に微笑み言った。

「そんなの當たり前だろ? 今更言うまでも――」

「それはちがう!」

平森の聲を掻き消すかのように伊瀬がんだ。

「それはちがうよ……仲居さん、金城君」

「……」

「金城君も仲居さんも……僕を助けてくれたじゃないか……。あのとき死のうとした僕に聲を掛けてくれたこと。僕は凄く嬉しくて……救われた気がした」

「伊瀬……」

「い、伊瀬」

「だから今度は僕が絶対に助ける! 僕が金城君も仲居さんも! このクラスの皆を僕が絶対助ける!」

「さっきから何言ってるんだい? 伊瀬君」

しゃがみ込んでいた伊瀬の背後から平森の冷たい言葉が刺さった。

「平森君……」

「キミは僕の友達だろう?」

「……」

「そいつらはクズだ」

「……」

「何を言われたか、何をされたか、脅されたのか、知らないけど。今まで僕たちがけてきた屈辱は絶対に消えない。その罰を、今、僕が與えてるんだ」

「……」

「邪魔をするな」

伊瀬は靜かに立ち上がり、刺すような視線を向ける平森を睨んだ。そして言った。

「黙れ。平森君は間違ってる」

一瞬、目を見開いた平森だったが、次には目を閉じて、薄く笑った。

そして平森は目の前に立つ伊瀬の肩を持った。

「伊瀬君は僕の友達だ」

「平森君……わかってくれたんだね――」

と、安堵の表で伊瀬は頬を綻ばせたのだったが。

「と。思っていたのに……」

「!」

「キミはどうやらA軍の味方だったみたいだね。被害者はそいつらじゃなくて僕なのに」

「ひ、平森君! ちがう、それは違うよ!」

「黙れ! 人間のゴミが! キミはずっとC軍として振舞っていて、ずっと心のどこかで僕たちを嘲笑っていたんだろう!」

「ちがう!」

「今のキミの姿を見れば嫌でも伝わってくるよ! キミは僕や東さん、みんなの信頼を裏切った最低のゴミ屑だ!」

「……ち、ちがっ」

平森は伊瀬の首を摑み、そのまま突き飛ばした。

「ぐ……あっ……」

「キミも罪人になってしまえばいい」

伊瀬は目を見開き、自分を睨むかつての友人の姿を見た。

「友達を裏切るのは『罪』だろ。伊瀬友昭」

「や、やめ……て。平森、君」

カタカタと伊瀬の腕が震え始めた。

そして近くの床に転がっていたハサミを取った。

「え……え、ど、どうして手が勝手に……」

まるで手が自らのを先導するように伊瀬は移し始めた。

そして、苦しみながらまみれのをガクガクと震わせる金城を見下ろすように立った。

「か、金城君?」

「……ぜぇっ……ぜえ……い、伊瀬?」

そして、伊瀬は手に持ったハサミを思い切り振り掲げ、金城目掛けて振り下ろした。

「あああああああああああああああ!」

「え……い、いやだ! やめろ! 金城君! ちがう! 僕じゃない! やめてくれ!」

「い、伊瀬ええええ! あああああ!」

腹部に何度も何度もハサミが刺し込まれる。

「だ、誰か! と、止めて! 止めてくれ!」

伊瀬はんだ。

ピンと張られた糸が切れるように太の直は解けた。

「くそ! 止めるぞ、霧島!」

太と霧島は走り出し伊瀬を止めにかかったのだが、まるで人間とも思えない力で突き飛ばされた。

「い、伊瀬君!」

「ち、ちがう! 今のも僕じゃない! 誰かが、誰かが僕のってるんだ」

伊瀬は涙でぐちゃぐちゃになった顔を見せ、大聲で訴えた。

そうしているうちに金城はぐったりと苦しむ様子すらなくなっていった。

そして伊瀬はそんな金城の腹部に『罪人』という文字を書き起こした。

「ひんっ……ひっ……ざ、罪人?」

次にられるように伊瀬は立ち上がり目の前のミキの姿を捉え、歩き始めた。

「い、伊瀬! や、やめて! やめ」

「仲居さん! 逃げて! だ、駄目だ! 僕から逃げて!」

逃げようとを引きずるミキだったが、太からのおびただしい量の出が広がり、まともにくことが出來ない。

「い、伊瀬! い、いや! いやあああああああああああ!」

金城と同様にミキの臓を掘り起こすかのように何度も何度もハサミは刺される。

「あああ、ああ……な、仲居さん……ぼ、僕は……」

俯き瞬きすらできなくなったミキのに伊瀬は再び『罪人』という文字を書き起こす。

「あ、……ああ……ひ……ひんっ……」

まるで機械的な作業が終わったと同時に伊瀬は自らの服を裂き始めた。

「え……え? ……あっ! あ、あああ」

そして、自らの腹部に『罪人』という文字を刻み始めた。

「あああ、い、嫌だ! し、死にだくない! た、助けて! だ、誰か!」

伊瀬は目の前に立つ平森の姿を涙で霞む視線で見つめた。

大粒の涙が床へと零れ落ちる。

「ひ、平森君……た、助けて。ゆ、ゆるじて、僕たち……と、とも、だち……だよ、ね?」

平森はゆっくりと涙で濡れる伊瀬の頬へと優しく手をばした。

「ひ、平森……君」

笑みを浮かべ言葉を投げ掛けた。

「罪人の友達なんて僕の恥だ。さっさと死ね」

「あああああああああああああああああ!」

伊瀬の腕は蠢き、手に持ったハサミを自らの頭目掛けて直撃させた。

赤く鮮やかなが空気中で破裂するように飛沫となって霧を散らした。

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