３ ９月１６日　元兇

薄暗く生徒や教師の悲鳴すらそこには聞こえてこない階段があった。

その先に行ってしまえば、この世からあの世へと繋がっているかもしれないとすら思わせる階段だった。

この先は屋上へと繋がっている。

太と霧島、そして桜は階段の先を見つめていた。

殘暑のある季節のはずであるが、そうとは考えられないほどの冷ややかな空気をじた。

もはや現在の狀況は第５の審判と呼んでしまってもいいかもしれない。

校各地で３年１組の生徒たちが死亡していた。事態は一刻を爭うのである。

「行こう。この先で全てを解決させる」

太はそうぽつりとこぼして、後に続く霧島と共に歩き始めたときだった。

「い、いやだ……私、怖い」

桜が一歩足を退いた。俯いている桜のほうを向き、太はいった。

「桜……來るんだ。俺たちは遊びでこのクラスを変えようとしてたんじゃないだろ」

「……」

「カーストがあったときから、そんなもんぶっ壊したくて、頑張ってきただろ」

「……」

「桜は俺たちと一緒に來なきゃならない」

桜は靜かに頷いた。太は怯える桜へと手を差しべた。

暗雲が漂っている、という表現が一番にしっくりくるだろう。

そんな空模様が広がっていた。

午後から快晴といっていたが、雷雨が降るといわれたほうがしっくりくる。

いつの日か太が桜と共にあのクラスで卒業するために約束をした屋上である。

太たちがやってきたとき、そこには誰もいなかった。

「誰もいないじゃない」

桜が小さく呟いた。

「ああ。でも大丈夫だ。呼んであるから」

太がいった。

「呼んであるって……誰を？」

「『犯人』……審判の全ての元兇さ」

霧島がいった。

「たぶん……ここに來るはずだから」

太は聲を落として告げた。

「……」

桜が震え怯える表で太と霧島の背中を見つめていた。

桜のほうを振り返らずに霧島が続けていった。

「前にも一度いったことがあるよね。僕は１００パーセントの確証がなければ自分の推論を話したくないって」

「う、うん……」

「でもね。事態は一刻を爭うし、それに向こうから自白してくる可能もあるからね」

「……自白？」

「自分が審判を起こしていた犯人だ、って」

桜の頬を汗が伝った。

「ど、どうして、そんなことが言い切れるの？」

そのときだった。

カツン――

背後の上ってきた階段とを遮るドアのところから、靴の音が聞こえた。

「神谷君……どうやら來たみたいだね」

「ああ」

太と霧島は聲を落としていった。

太は桜に背を向けたまま続けていった。

「どうしてそんなことが言い切れるのか、って質問だったよな。桜」

「何故なら『犯人』は、この審判を必ず『功』させたいからだ」

「……功？」

「もしも恨みのある人間がいて、その特定の人を殺害したいなら、こんな『大それたこと』する必要なんてないし、『審判』じゃ必ずその人を殺せる絶対的可能だってない。……つまり影浪子や、當時の教師たちに恨みを抱いている、影零は犯人とは言い難い」

ドアに背を向けているため一切視界にはっていないが、ドアの向こうにいるその『人』は今、太たちを睨みつけているような気がした。

「じゃあ……影充君の……呪いが現化して……」

桜の疑問に霧島が答えた。

「そうかもしれないね。でも……未知へと一石を投じて、解決を探っていくことが間違いだって気づいた」

「それよりも俺たちは目の前の可能をつなげるほうが、可能が高いって気づいたんだ」

桜は手をきゅっと握り、自らの元をでた。

「『犯人』はこの審判を功させたい、ってさっき言ったよな」

「う、うん……」

太は桜のほうを振り返り続けた。

「つまり俺たちは俺たちの持つ可能を見せるだけだ。このままじゃ『審判』は失敗するかもしれないぞ、っていう可能を……」

桜は太の目を見ていた。太は悲しそうな瞳を一度桜へと向けるとドアの先にいる『人』の影のほうへと目をやった。

「僕たちは『審判』の仕組みを理解したからね」

霧島は口元に嫌味たらしい笑みを浮かべていった。

「仕組みを理解した者には、もう『審判』は効かないかもしれない。そんな不安要素を放っておけるはずがない」

「仕組み……？」

「桜……これは……『審判』は影充の呪いなんかじゃない。これは影充のいじめ自殺を利用し企てられた……大量殺人事件だ」

ドアの先から小さな舌打ちが聞こえた気がした。

太はドアの先を睨みつけ、小さく呼吸をした。そして、悔しそうな目を向けいった。

「『影充』……この名前には勿論聞き覚えがあるはずだ。だって……今から２７年も前にアンタが自らのお腹を痛めて産んだ実の子供なんだから」

霧島は自らのポケットから取り出した數枚の資料を宙へと投げ捨てた。

それは警察署で亜門からけ取った資料のコピーだった。

「どうして貴方は自らの経歴を消したのですか？　どうして自らの名を隠したのですか？　それはもしかしたらこの『審判』を起こして功させるためなのではないですか？」

それは影浪子というの詳細名簿だった。

そして、名前が何度も改名され、経歴が何度も消去されていた。

そのなかの一枚が桜の目に留まった。

「う、うそ……そんな」

桜は小さく呟いた。

そのとき屋上のドアが床とれる金屬音を鳴らし、ゆっくりと開いた。

そして、太が苛立ちの聲をあげ、その『人』へと告げた。

「『審判』を起こした全ての元兇はアンタだ。……なあ、そうなんだろ？」

ドアが開いた先から、その『人』は姿を現した。

その人を睨みつけ、太は続けた。

「『影浪子』、いや……『靜間奈子』先生」