《山羊男》# 8共同捜査本部:仙崎 充の場合

『連続行方不明事件及び盲信共有犯による不特定多數犯罪共同捜査本部』

「や〜れやれ。隨分まどろっこしい名前が付いたなぁ。なんだ盲信共有犯って…」

「先輩、急ぎましょうって!」

津山に室を諭されるが、山崎は無髭を掻きながら會議室前のり紙をまじまじと見つめる。

既に會議室は既に相當數の刑事が集まっているようで、かなりの喧騒が廊下まで聞こえている。

「ウチら最後の方なんで早くりましょう。遅れたらまた仙崎さんにドヤされますよ」

「しかしなぁ…襲われたの仙崎のオヤジさん所の若い刑事だろ?気が気じゃねぇだろうに…」

「山崎さん!」

「わかったよ津山うるせーなぁ!」

─ガラッ

會議室の扉を開けると一瞬視線が山崎に集まるも、ってきた人が大では無いと分かると中にいた刑事達は構わずに換を続けた。

「おう、おめぇ等で最後だ。さっさと座れ」

「こ、こりゃぁ仙崎さん。どうも」

仙崎と言われた初老の警部は、扉を開けた口のすぐ脇に立っており、全を見渡しながら考え事をしていたようだ。津山は特にビクつくが、いつものように激は飛んで來なかった。

仙崎 充(せんざき みつる)と山崎 亮(やまざき りょう)。山崎からしてみればかなり年上の上司に値するのだが、名前の字が似てる事からと昔から盡く比べられてきた。仙崎は真面目一直線な古強者で頑固と、昔の刑事のイメージそのものと言った人であるが、山崎はなんでものらりくらりと過ごして規律規則はいつもスレスレ。よく言えばやる事は大膽で、型破りな捜査で有名なのだが、基本と基礎を徹底する事で有名な仙崎にはそのやり方が気にられず、二人はいつも衝突して來た。何回か組んで捜査をした事はあっても、酷い時は流するような喧嘩にまで発展した事もある。

仙崎がどう思っているかは分からなかったが、山崎にはかなり深く苦手意識があった。今となっては仙崎は第一課の警部になり、仕事中でもほとんど顔を合わせる事が無くなったのだが、それでも未だに廊下ですれ違うだけでも山崎は肝を冷やしていた。

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(な、なんか、仙崎のオヤジさん。大人しいッスね?)

(大人しいってか、なんか様子が…顔が…表がおかしいぞ?何かあったか??)

コソコソと話をしながら空いている席に腰掛ける津山と山崎。山崎は參加している刑事達に興味津々で、會議が始まろうとしているさなかでもキョロキョロと辺りを見回している。

(ほほぅ。結構なメンツ揃えたな?名前忘れたが本部の刑事も居るだろ?ほらあそこ…)

(山崎さん!そろそろ始まるからやめましょうって!!)

の証明が落とされて、スライドがスクリーンに映し出される。

「えーそれでは、事件の概要と関連していると思われる行方不明事件の…」

司會進行する一課の刑事が関連事件の説明をし出すと、皆は一斉に手帳を取り出しメモを取り始めた。

津山もそれに遅れずにメモを取るが、山崎は眠そうな顔で説明をただ聞いていた。

「えー今回の殺害事件の起點となる最初の行方不明者、東堂 智恵(とうどう ちえみ)の失蹤については…」

子高校生の寫真が映し出される。いわゆる至って普通の子だ。普段の行になんて何も問題ない。いつだってそうだ。居なくなる、巻き込まれるのは普通の奴で、事件を起こす奴もいわゆる普通の奴だ。被害者であったり加害者、犯人とされる人報を聞く時山崎はただぼんやりとそう考えていた。『あの人が、あんな事をするなんて』と言うのは、所詮その人の事を何も知らない奴だからそう表現するのだ。

必ず、何か原因はある。それがまだ見えていないだけなのだ。

そして、その糸口を探して答えにたどり著くのが刑事であり、警察の務めだ。それだけはいつの時代だって変わらない。

「…この行方不明者については、実の姉である東堂香子から捜索願いが出されている。その擔當をしたのが、第一課の奧村 楓(おくむら かえで)刑事である」

「「……ん?」」

奧村の寫真が數枚映し出されている。正面からの寫真に、最近のと思われる全が寫った寫真。水のコートに、手には同じような水の手帳を持っている。

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津山と山崎は、同じ所で引っかかりを覚えた。なぜ、このタイミングで奧村刑事の寫真が映し出されるのか。それはつまり、ある事を意味していた。

「えー次に、最初の行方不明者の友人である水無月 環奈(みなずき かんな)を説明する。奧村刑事は東堂智恵失蹤に関して、現在多數の學生が行方不明となっている事件の共通要因とされるCapricornus社製のアプリ、Playhem(プレイヘム)の関係を見出し、東堂智恵馴染で同じ睡蓮(すいれん)高校の同級生、水無月 環奈と接した。捜査資料では水無月 環奈は東堂 智恵失蹤に付いて何も知らないと言っていたが、終始態度がおかしいと報告している。警察が話を聞かせてくれと言って、學生が取るような態度では無かったと。予め警察の捜査がる事を予見していたようだと報告している。」

説明を聞きながら、山崎が津山に確認を取る。

「津山。このの子が奧村が最初に調査した人なのか?」

「らしいですね。細かい所までは分かりませんが…」

津山の回答を遮るように、次の説明が始まった。

「えーこの水無月 環奈であるが、奧山が接したその日に失蹤している。両親から捜索願いが出されて居るものの、拐等では無く本人の意識で何処かに行った模様。JR駅周辺の監視カメラ映像を最後に姿を消している」

「こいつも行方不明か。なんなんだ最近の學生は」

「それがアレですよ。例の潛捜査で…あ、コレです!」

スライドには関連しているとされる失蹤や行方不明事件が次々と映し出されているが、中でもひとつの事件は刑事達を騒がせた。

「えー宗教団への特別潛捜査中の刑事1名も、同時期に失蹤している。この件に付いては…」

その話を聞いて、山崎と津山は眉を潛める。

「…あれか、浄銭詐欺で信者から金巻き上げてる最近羽振りが良い連中って…なんだっけ?ヒツジ?」

「ヤギですよ山羊!山羊神の宿って名前の」

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「おーそれそれ!そいつらだな。本庁の潛捜査が捕まったんだろ?」

「いや、それもどうやら自発的な失蹤らしくて。しかも律儀にボイスレコーダーは提出しに來たらしいですよ。でも本人の姿を誰も見てないとか。本庁のカメラにだけチラッと寫ってて、それ以外は全く人の目に付かずにそれだけ置いて消えてったとか」

「隨分詳しいな。そっちの方がやべぇ事件なんじゃねーのか?」

山崎と津山が話をしている間もスライドと説明は進んで行く。

「えー次に奧村刑事が調査したのは睡蓮大學の映像研究部というサークルである。彼等が撮影していた自主作製の映像に登場するキャラクターであるが、不可解な點を殘しこれらの事件と共通している。」

「ん?」「は?」

他の刑事達も思わず聲を出してしまう。その次に映し出されたのは、特殊メイクだとか、CGとはかけ離れた、素人が作ったと丸分かりのチープな仮裝裝のようなが映し出された。頭には角が生えている。

「これらの行方不明と殺人事件。この全てに、『山羊』もしくは『やぎおとこ』なる要因が絡んでいる。行方不明者発生地域、特に睡蓮大學付近においては目撃報並びに不審人の通報も多數発生している」

今度は皆無言になった。荒唐無稽な話をされているのは充分理解出來るが、それを今この場で腕利きの刑事達に向けて説明しているとなると話が違う。

「……えぇっと、質問良いですか?」

山崎がたまらず立ち上がった。

「…どうぞ」

「この場でそれを話すって事は、俺らにそれを捕まえて來いって言ってるんですかねぇ?ちょっと冗談キツ過ぎません??」

「これは冗談でもなんでも無い、山崎。他の刑事達にも一言言っておこう。」

司會に変わって、仙崎警部が答えた。

「複數発生している高校生の失蹤。アプリの開発元にも確認したが若年層に奇妙な噂が流れている。やぎおとこなるワードを検索した人は、現実に蒸発してしまっている。そして、同時期に発生した政治と宗教に関わる問題。その新興宗教は山羊のようなを崇めて悪魔崇拝じみた活によって資金を得て活を行っている。そして、今回起きた殺人事件。これらの事件は、常識からかけ離れた何かによって引き起こされているのは間違い無い」

信じられなかった。あの、仙崎警部が、仙崎警部の口からこの様な話が出るとは誰も思っていなかった。山崎や津山だけでは無く、その他の捜査本部參加に聲をかけられた刑事達皆が驚き戸っている。

「今回の一連の事件。犯人像を『盲信共有犯』とした。當て嵌る言葉もなく、無理に作った造語であるが、どうか話を理解してしい。今回の事件は単獨犯が起こせるではなく、ましてや組織犯罪でも無い。荒唐無稽と笑われようが、こう表現する他無いのだ。この『やぎおとこ』なる存在が引き起こす事象を信じた者は、新たな次の事件の犯人となってしまう」

「…は、ははぁ。なんだそりゃ、仙崎さん」

「今回は捜査一課が全力を持って殺人事件の捜査に協力するが、今起きているこの事態を収するのにはどうしても人手が足りなくなっている。共同捜査本部を立ち上げたのは、これが理由である!」

あまりの話に山崎は1度腰を落として席に著いた。仙崎が促し、司會が次のスライドを寫す。

「今回、明確に殺人事件と斷定出來ているものがひとつある。失蹤した東堂智恵の姉であり、捜索願いを出した張本人。東堂 香子(とうどう みかこ)である。彼が明確に『最初の被害者』として判明している。」

「ひがい……はぁ!?」

やはり山崎の嫌な勘は當たってしまったようだ。スライドと説明は続く。

「妹である智恵が失蹤後、被害者の香子は自が所屬していた映像研究部の作品である「やぎおとこ」なる存在を盲信し、妹を取り戻す手段として、いわゆる悪魔崇拝の儀式のような真似事をするようになった。妹の失蹤後は1度も登校する事無く大學を退學しているので學校側にはこれらの事実は伝わって無いものの、明らかに常軌を逸した行を行っていたそうだ。それについても奧村刑事の手帳により発覚している。」

そこからは、仙崎が説明を続けた。

「そして、その儀式を犯行現場である廃工場の冷凍室にて行おうとした。奧村に付いてはその現場を見て発狂。そして『犯行』に及んでいる。事件後の聴取では、犯行現場は人間の臓で溢れかえっていたと説明していたが、それらの全ては人間のでは無く、ちょっとした店で買えるような家畜類のだった事が鑑識の調べにより判明している。」

「待て待て待て!!!なんだよ犯行って!!」

ついに確信を得てしまったので、山崎も聲を荒らげずには居られなかった。

「………現在、第一課、奧村 楓刑事については、最初の加害者として捜査の対象となっている」

「ふざけんな!!奧村はアンタの所で育てた若い刑事だろ!なんでこんなふざけた事件の犯人扱いされてんだよ!!」

「奧村刑事については、現在療養中だった病院を抜け出し逃走している。機も不明であり、自宅にも帰宅している様子も無く、現在も居場所は特定出來ていない。」

「だからぁっ!なんで」「奧村は殺人を犯した!!」

山崎の詮索を、仙崎は怒號で切り返した。

「犯行現場を見て発狂した奧村は、ガラス片にて東堂香子の顔面を突き刺し、頭部に向けて至近距離から発砲。そしてその後に、石像を倒して被害者の死を押し潰している。多み合った形跡も確認されるが、ほとんど無抵抗であったと狀況証拠により斷定されている。」

「なっ…はぁ!?」

「応援が駆け付けた時も奧村は東堂香子の事を顔がヤギになっているだの、ヤギを殺せと大聲を上げて興狀態であった。しかし、何があったにせよ刑事一課の刑事が自ら危害を加えて威嚇もなく至近距離から頭部に撃し、その上で過剰に暴力を働いた事には変わりはないッ!!」

仙崎の握る拳は、鬱して青く見える程だった。それ程までに、から出る怒りを抑えるので一杯。山崎はそれに気付いて、我を取り戻す。

「だから…この規模なのに特別捜査本部じゃないのか」

「そうだ。現狀で犯人と呼べる人は奧村 楓だけだ。失蹤した特別潛捜査元は許可が降り次第連絡するが、まずは奧村の柄確保を優先で考えてしい。行方不明の學生の捜索もあるが、まずはこれ以上被害を出させない為に奧村 楓を取り押さえる」

「自分の…部下だろ?育てて來たんだろうが!そんな事するような」「俺が育てた部下がこんな事するような奴だと、俺が本気で思ってると言うのか!!」

仙崎が山崎のぐらを摑む。咄嗟に津山が立ち上がり、2人の間に無理やり割ってる。

「や!やめましょ!ね!!落ち著いて!!」

「てめぇの…てめぇの後釜でってきた新人だったんだぞ山崎!この俺が直々に育てて鍛えてやったんだぞ!奧村はッ!!」

「それ分かってんなら自分ところの部下はこんなくだらねぇ事件の犯行なんかしねぇって、なんで言えねぇんだ!!」

「山崎先輩!!!仙崎のオヤジさんも落ち著いて!!」

見ていた刑事一課の刑事達も割ってる。どうにか2人を落ち著かせてそれぞれの機に戻ると、再び説明が続けられた。

「えー!このように不可解な事件が度々起こり、その中心にはどうもこの山羊という謎の存在が関係していると思われます!新手のクスリや組織犯罪では無いかとも言われてますので、くれぐれも捜査は慎重に行って下さい。奧村 楓刑事の柄確保がとりあえず當面の最重要事項です!まとめた捜査資料がしい方はデスクの前に…」

そう司會が促すと、一気に刑事達は立ち上がり、會議室はごった返しとなった。

山崎はまだ腹の蟲が収まっていないといった様子で、後輩の津山に諭されている。

その時、再び仙崎は大きな聲でそこにいた刑事達全員に呼び掛けた。

「今回の件は、刑事一課の刑事が起こした事件だ。だから警部の俺が言うのも筋違いだが、なんとしてでもこの原因を究明したい。しでも奧村 楓がやった事への理由が知りたい!だから…頼む!!お願いします!!!」

ゾワッとした空気が流れた。あの堅の、仙崎 充が頭を下げて他人にお願いをしている。ほとんどの刑事が、1度組んだ事のある山崎ですら見た事の無い姿だった。流石に山崎も面を食らってしまい、それ以上怒るに怒れなかった。

「一度解散としますので、それぞれ行方不明の手掛かりとやぎおとこという言葉に関する聞き込みをお願いします!業界問わず広範囲で探して下さい!!」

司會に振られて刑事達は次々と會議室を後にして行った。殘ったのは山崎と津山だけになった。

「…あ、あの。仙崎さん。さっきは悪かった」

「山崎、そして津山。お前等だからこそ頼みたかったんだ。この件は…どうも個人や団規模じゃない、キナ臭い匂いがしやがる。俺の事すら疑ってかかるような刑事がどうしても必要だった」

「疑うって…仙崎のオヤジさんの事なんて疑う訳無いじゃないですか。ねぇ?先輩」

津山は想笑いして山崎に同意を求めたが、山崎はそれに返事を返さなかった。

「とにかく、仙崎さん。奧村刑事の手帳が見たい。今は何処に?」

「鑑識に回してた。そろそろあの証拠品と共に持ち出しの許可が出るだろう。一緒に行くか?」

「「証拠品?」」

山崎と津山は変に聲を出してしまった。何故なら、先程の説明では証拠品の話など一切出なかったからである。

鑑識課の証拠品保管庫に行くまでの間、仙崎は二人に対して奧村 楓とはどんな人なのか話して聞かせていた。最近のヒヨっ子にしては骨が太く、細かい事にも良く気が付く。自分のカラーってを大事にする質で、とにかくあの目に付く水にはこだわっていた。いつでも自分を保つ為に外面から整えて捜査に當たるがモットーの、駆け出しの刑事だった。

「…それが、なんで療養中に居なくなったんですかい?」

山崎が最もな質問を仙崎にする。そして、それは仙崎も気になっていた問題だった。

「わからん。アイツは…奧村は1人で解決しようとしていた節があったが、どうもあの事件を起こした後は人が変わったみたいに攻撃的になっていた。とはいえ、アイツだって刑事の端くれだ。それなりに凄慘な現場だって踏んで來てるし、正直言って今回程度の事件で自分を見失うとは思えない。」

「他でもなく仙崎さんが育ててるんなら、そんじょそこらのヤワな刑事とは育ちが違う事ぐらいは俺でも分かります。だからこそこの失蹤には納得行かない」

しの期間だけ組んで捜査した事のある山崎だからこそ、仙崎の厳しさと事件の捉え方、捜査の考え方は良く分かっている。正直行って著いていけないやり方だが、だからこそアレをイチから叩き込まれたのならそれなりの果は出るはずだ。

そうこう話をしているに、証拠品保管庫の前に到著した。仙崎が口で簡易な手続きを済ませると、鑑識に奧村のと思われる水のカバーの手帳と、『何かのリモコン』のようなを渡された。

「「……これは?」」

赤いLEDランプが縦に3つ。それ以外には特にスイッチ等も見られない、黒いプラスチックで出來た電子製品のようなを渡された。スマホの半分ぐらいのサイズで、何かのリモコンの用でもあり、質の悪い、安いオモチャと言われればその程度にしか思えない。裏を返してみても、電池をれるようなケースも無かった。

それを持ってきた鑑識も首を傾げている。

「ガイシャさん、頭潰されてんのにこれを握って離さなかったんですよ。そりゃもう握り締めて砕く勢いで握ってたらしくてね。取り出すに指落とすしか無かったって検死言ってましたよ。」

被害者の東堂香子が最後まで握り締めていたと聞いて、山崎はる気が失せて咄嗟に津山に持たせた。渡された津山も、「うへぇ」と言いながらも、興味深そうにその証拠品を眺めていた。

「一応、分解までして調べました。でも、これが何なのか皆目見當つかなくてね〜って言うと、意味が別に囚われちゃうんですけれど。信機的なってのは分かりました。」

信機?だと?」

仙崎もこの説明を初めて聞いたのだろう。今度は仙崎がその証拠品を手に取って眺めた。ただ、信機という割には、スピーカーというか、音が鳴る様なが開いていない。

「で?信機って事まで分かってて見當つかないってのはどう言う事なんで?」

山崎がさらに聞き込む。鑑識も待ってましたと言わんばかりで説明をする。

「見ての通り、なんにもボタン付いて無いでしょ?ボタン電池がってるのはバラした時にわかったから、電源は分かるんだよ。でもね、信機なのに、信するボタンやスイッチが無い。だいぶ前…30年近く前にポケベルって流行ったでしょ?これ、それの何倍も能が悪いってじなのよ。でも晶すら付いてないからねコレ」

「ぽけべる?何すか?」

「津山じゃ産まれてねぇかもな。スマホとかケータイよりも前の通信機だよ。公衆電話とかから電話かけて、特定の番號を表示させてメッセージを伝えるってもんだ」

「へぇ〜公衆電話!レアっすねぇ」

「まぁポケベルの話は置いといて。これ、何かを信出來る機能が備わってるのは分かりましたと。でも、肝心の信したものを表示したり、送信されたものに応える機能が備わってないんですよ。多分この、赤のLEDがるんでしょうけど、それだけなんですよね。しかもこんな信機なら、充電出來るように作りませんか?なんでこれ、分解しないと取り外せないボタン電池式なんですかねぇ。全く意味が分かりませんわ」

鑑識は、このリモコンのようなの存在すら全否定するような事をまくし立てた。

「ま、買おうと思っても千円程度で、作ろうと思ったらホームセンターにある部品位でも作れるような代です。問題なのは、このLEDが何を信したらるのかって事だけですけどねぇ〜。それだけは分かりませんでしたわ。」

仙崎は失敗したなという表になってその説明を聞いていた。

「何か特別なだと思って期待してたんだが…俺の勘が外れたか」

仙崎は顎に手を當てて考え事を始めた。山崎は前に組んで居たから分かるが、この表の時はかなり深くまでを考えている時の表だ。今は仙崎に話しかけるべきではないと考え、鑑識に話を振る。

「なぁ、こいつらの持ち出しって…」

「署から持ち出すなら、書類に名前書いて貰えますか?手帳も持ってきますよね?今取ってきますから」

「あぁ、頼む」

「先輩!!!!」

鑑識が書類を取りに別室へった途端に、津山が大聲を出した。なんだと理由を聞こうとしたが、津山を見てその理由がわかった。大聲を聞いて鑑識も戻って來る。

リモコンの、LEDがひとつ赤く點燈しているのだ。

すぐさま、山崎と仙崎は周囲を見渡す。津山はそれを持ったまま、窓に近付けてみたり高く低く持って見たりしている。LEDのランプに変化は無い。

「こいつ…信範囲ってどのくらいなんだ!?」

「や、そんな高能なものじゃない。家のリモコンとかと同程度だと思う!長くて20mだ!」

鑑識のその言葉に、仙崎は迷うことなく拳銃を抜いた。

「オイオイ仙崎さん!まさかと思うけど、アンタ『部』の犯行なんて思ってないよなぁ!?」

「バカヤロウ。既にウチの若いのが事起こしてるんだ。すでに部だぞこの野郎」

「えっ?えっ!?マジっすか!?」

仙崎が銃を抜いたのを見てすかさず山崎も銃を抜いた。津山だけは未だにそのリモコンを持ったままだった。

「仙崎さんは後ろの廊下!俺は前を見ます!」

「いつからてめぇ警部にそんな口聞けるようになった?あぁ!?」

そう言いながらも、2人は直線の廊下を前後に進んで行く。

前方に進んだ山崎。目の前の廊下は曲がり角になっているのだが、その先からの靴の音でコツコツと歩く音がする。

(…なんだ……まさか…奧村?)

くなァ!!」「キャァァアア!!」

の鑑識が、廊下の曲がり角で山崎に銃を突き付けられて驚き、持ち運んでいた書類の束を廊下中に撒き散らしてしまった。

「ああっといけねぇ!!すまんすまん!」

「何やってるんですかもう!!!ほんっとビックリしたァ!!!」

怒る鑑識と一緒に散らばった書類の束を片付ける。曲がり角の先を見た山崎だったが、怪しい人はいなかった。

(こっちはハズレか…しかし)

仙崎も自分の進んだ方向の廊下を見渡して帰ってきたが、首を橫に振っていた。

「そっちも異狀無しですか?」

「あぁ、特に何も無しだ」

「!?2人とも、ランプ消えました!!」

津山の持っていた証拠品のLEDも、いつの間にか消えていた。

「…カメラ調べるか。山崎!津山借りるぞ!制室に一緒に來い」

「えっはっはい!!」カタンッ

津山は慌ててその証拠品を保管庫口のカウンターに置き、仙崎と一緒に監視カメラの映像を調べに行った。山崎はさっさと手続きを済ませようと、鑑識にもう一度書類を取ってくるように促す。

しばし、山崎1人が廊下に殘される事になった。

「しっかし…部の犯行とか、簡単に言ってくれるよな仙崎さんも「めぇぇぇえええ」」

心臓が跳ね上がり、嫌な汗が背中を流れる。咄嗟に口から出た獨り言。その獨り言を遮るように、何かが聞こえた。

「めぇぇぇえええ」

の、鳴き聲のように聞こえた。

何のかと言われると、今1番思いたくないの聲に似ている。落ち著いて考えよう。街中で、よもや警察署で、そんな生きの聲が聞こえるはずが……山崎はそう思った。

「ヴェェェエエエ!!!」

今度は、もっとハッキリと聞こえた。まるで、怒気を含めて居るようにもじる。恐る恐る山崎は振り返った。

しかし、山崎の想像したような山羊の怪の姿はそこに居なかった。何もなかった。

「ベェェェエエエ」

ビクッと山崎のが跳ねた。何も無い空間を真正面から見ているのに、その方から謎の音が聞こえた。だが、改めて聞いてみると、すぐ近くから聴こえたようにもじた。

「……ん?って…まさかこれか!?」

ベェェェエエエ!!

音がしていた。それは、あの証拠品のリモコンだった。今はLEDが3つっているが、それ以外に驚く現象が起こっている。それが、振していたのだ。振しているせいで、カウンターの上に置いたからまるで山羊の鳴き聲のような音を立てて響いていたのだ。咄嗟に手に取るが、ボタンもスイッチも無いのでその振を止める事が出來ない。

「なんだこれバイブ機能まで付いてんのかぁ!?何なんだよこのオモチャ見てぇな奴は…ビビらせやがって!!」

腹を立てて雑にその証拠品をカウンターに置く。ため息を付いて毒付こうと思った山崎の視界に、とんでもないが通り過ぎる。

嫌なぐらい明るいの、『水のコートのようなを羽織った誰か』が廊下の先を橫切ったのだ。慌てて山崎はその方向に走り出す。

見えた曲がり角まで走ると、さらに先の曲がり角を曲がるようにその姿が一瞬見える。どうもこの警察署の口方向に向かっているようだ。山崎は慌てて走り出し、先回りしようと非常階段を使い口に向けて全力疾走する。

「ハァッハアッハァ!!おい!守衛!!」

「えっ!?はい!お疲れ様です!!」

何とか警察署の口まで先回り出來た山崎は、『水のコートを著た誰か』が通らなかったか確認する。

「いえ…そのような目立つ人は特に…」

「よし分かった!そいつが來たら通すなよ!!もしもし津山か!?」

慌てて電話を取り出し、津山に掛ける。

「今制室か?監視カメラの映像見れるか!?」

「え?はい、見てますけど…」

「署に居る!!奧村 楓だ!水のコート著た奴映ってないか!?」

「はいぃ!?奧村!?ホントですか!」

「いいから映像探せ!!仙崎さんは!?」

「奧村刑事の私取りにデスク行ってます!!………あっ!!居ましたよ!!」

「ホントか!?どっち行った!!」

「証拠品保管庫の方です!先輩の近くスっよ!!…ってアレ!?先輩今何処に!?」

「マジかクッソ!!やられた!今は正面玄関にいる!!切るぞ!!」

迂闊だった。山崎はやられたと思った。今、奧村がこの署に現れるのなら狙いはひとつだと分かっていたハズだ。

「リモコン取られる!まずい!!」

また來た道を全力で戻るも、既に遅かった。

カウンターの上には何もなかった。

「おい!鑑識!!」ドンドンッ

荒々しく施錠された扉を叩くと、先程山崎が驚かしてしまったの鑑識が現れた。山崎の顔を見るなり、怪訝そうな顔をしている。

「なぁ!アンタ!!ここに水のコート著た…」

「あぁ、あの刑事さんですか?手続き済ませて証拠品持って行きましたよ」キョトン

「なん……マジかクッソ!!!!」ガンッ

山崎は思いっきり壁を蹴飛ばし、八つ當たりした。そこに仙崎と津山が現れる。

「おい山崎!奧村は…奧村はどこ行った!?」

「やられました!証拠品取られたみたいです」

「なぁ!?貴様どうして渡した!!!」

付に居る鑑識に仙崎は詰め寄る。

「そ、そんな事言われましても、バッチ持ってる刑事さんに書類書いてもらったらこちらとしては手続き的に問題無いので…」

「有効なバッチかどうかぐらい確認しろ!事件起こした刑事だぞ!!!」

「えっ!!す、すみません!!!」

「うわ、これ……」

津山が、奧村が書いたとされる書類を覗き込んで聲を上げた。書かれている文字は全て、定規か何かで正確に線を引いたような、よくある脅迫文で筆跡鑑定を避けるために直角垂直に線の引かれた文字で書かれている。

「これ、付に來た人が書いたの?どのくらい時間かかってた?」

「いえ…その、數秒です。サッと目を離したら描き終られてました。」

「こんなの…書けるか?全部の文字をこうやって??」

辛うじて文字と判別出來る、まるで記號化されたような奧村 楓の文字を見て、津山は寒気がした。とても人間が書いたとは思えないからだ。

「山崎…顔は見たのか?」

「……え?仙崎さん。見てないですけど、署であんなコート著てるの奧村だけでしょう」

「津山!お前は見たか!?」

「いやいや、自分仙崎のオヤジさんの後ろに付いて行ったんで、奴の姿すら見てませんよ!?」

「これは本當におかしな話になってきたな…ちょっと制室のモニターの所まで來い山崎」

「ちょっと!奧村追わないんですか!?」

「もう無理だ、諦めろ。それよりも映像を見に來い」

仙崎に言われ、追いかけたい気持ちを抑えてモニターを確認しに行く山崎と津山。

そこには恐ろしいが映っていた。

奧村………奧村と思われるその存在は、ありとあらゆるカメラから顔が映らないように移して來ている。不自然に背中を向け、カメラからの四角にると同時に向きを変えるようなき。そしてその移の仕方もき方がとても気味が悪い。ありとあらゆるすれ違う人たちから、顔が見えないような角度を保ちつつ移しているのだ。そして、カメラに寫っている人達は誰もその異常な行を取っている人に対して意識をしていない。そんな目立つのコートを著て、そのようなきを取っていれば誰だって不審がるものだが、まるでそんな者はそこに存在していないかのような振る舞いをしている。

「は、ははは。なぁ、夢でも見てるのか?確かに廊下の奧にいたのあの水のコート著たの、奧村だったぞ?」

「山崎、お前ですら顔を見ていないんだろ?」

「そんなに言うなら仙崎さん、アンタの部下でしょう。分かるんじゃないですか?」

仙崎は顎に手を當てて考え事をしている。

「ひとつ…ひとつだけ、確かな事は言える。」

「な、何ですか?仙崎のオヤジさん?」

「あの時、奧村 楓が來ていたコート。被害者の返りでかなり汚れていた。事件が起きてまだ2日…奧村が起き上がってからだと1日だ。」

「……へ?え?」

津山も、そして、山崎も、唾をゴクリと飲み込んだ。

「このタイミングで、返りのシミも付いていないような狀態であのコートを著れる訳が無い。自宅にも行ったからあのコートを別で持って居なかった事も分かっている。」

仙崎は額に汗をかきながら、言葉を慎重に選んでこう言った。

「間違いなく、アレは奧村 楓では無い。それだけは…言い切れる。」

山崎も津山も、先程の會議で説明された事を思い出した。

行方不明の潛捜査。居なくなったはずなのに、何故かボイスレコーダーだけは置きに來た。そしてその姿を、誰も見ていない。

『山羊神の宿』という宗教団

『Capricornusの作ったアプリ』によって発生する行方不明者達。

『映像研究部のキャラクター』

この、全てを繋げるのは、山羊。

やぎおとこ

ザアッと、の引く音が聞こえた。そんな気がした。

「じゃあ…何ですか?仙崎さん。いくら夕暮れ時とはいえ、堂々と正面から誰にも気付かれずに署に侵して、全ての監視カメラを把握してそれに顔を背けて、奧村 楓のバッチを所持して証拠品を堂々と持って帰った奴が居ると。アンタ何言ってるのか分かってるのか!?」

「どうなってるんだ…この國は……。」

仙崎 充は、指先の震えを見つからないように誤魔化しながら、奧村とされる人が書き殘した書類を見つめる。

…めぇぇぇえええ

そんな気持ちの悪い鳴き聲が聞こえた気がして、慌てて三人は後ろを振り返った。

#3につづく

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