《心霊便利屋》第4章 迫りくる悪意
瀬戸さんが帰ったあと、楠本さんから驚くべき提案があった。
「あの、私を雇ってもらえませんか?」
『は?』
俺と徹の聲が重なった。
「ここの事務所、事務員がいないから手が回ってないでしょ?」
「というと?」
彼は「ハァ…」と、深いため息の後、
「今日、私が瀬戸さんにお茶を出すまで、誰か気が付きました?」
た、確かに…誰もそこまで気が回っていなかった。
「それにコピー臺にはいつ刷ったのかもわかんない紙が乗っかってるし、何より部屋が汚すぎです!」
楠本さん、もうキャラ変わってんじゃん…
床を見ると、丸めた紙が転がってたり埃がチラホラ見える。
「これじゃお客さんも寄り付かなくなりますよ!」
「…晃、クレアちゃんって、あんなキャラだったか?」
「いや、俺も驚いてる…」
楠本さんは腰に両手を當てながら、
「それで、私の依頼料ってパック料金のままですか?」
「そ、そうですね。」
楠本さんは通常徐霊パックというやつで、調査料、徐霊または解決で稅込20萬円だ。
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そこにボディーガードや、急避難用のホテルの紹介やその他諸々は別料金だが、結局は請求しなかった。
徹による人割引と言うやつだ。
アホめ。
「なら、20萬円の支払が終わるまでお給料要りませんから働かせて下さい。結局、私の依頼は瀬戸さんの依頼をこなしていけば解決すると思うんです。」
そうきたか。んー、まぁいいかな。
「確かに楠本さんがいればウチの事務所も締まるし、いいんじゃないか?」
徹はし考えた後、
「とりあえずバイトなら。その支払が終わったあと、正式に雇うかどうかはそれからでも良い?あと、お給料要らないはウチが困るからないけどちゃんと支払うよ。」
そう、意外かもしれないが徹はこういうところはしっかりしている。
俺みたいな無想でずぼらなやつがこの仕事続けられてるのは徹のおかげだ。
「じゃあ決まりで。」
「あ、ありがとうございます!」
{ホ…ト…ヤト……ャッタ}
大分はっきり聞こえるようになった気がする。[本當に雇ってもらえちゃった]じゃないだろうか?
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やっぱりこれは間違いなく心の聲だな。
俺は自然と笑みがこぼれてた。
「あ、なんか聞こえました?!」
「大したことじゃないよ。」
俺は笑いながら言葉を濁すと、楠本さんは恥ずかしかったのか赤面していた。
「じゃあ早速掃除するんで二人とも外に出てくださいっ」
『はい!』
俺達はあわてて廊下に出た。
俺と徹はエレベーターの脇から外に繋がる扉を出て、タバコを吸っていた。
「晃、瀬戸さんから何言われたの?」
楠本さんの話は割して俺の事だけを話した。
俺はタバコの蒸気をフーっと一気に吐き出す。
「…なら、お前。あの力を使うのヤバイって事だろ?」
「全くダメって訳じゃねぇだろ。あくまで使いすぎるな、だ。」
「一緒の事だろ。まあでも、あの力がないとこの仕事がり立たなくなるかも知れんしなぁ…。どっちにしろ気を付けてくれよ」
「あぁ、大丈夫だ。」
「お前の大丈夫が一番…」
徹が喋っていると、ガチャッと不意に扉が空いた。
「終わりましたよ!…相良さんもタバコ吸ってるんですね。」
「うん。でも、晃に加熱式タバコ勧められて、紙巻きはやめたんだよ。」
「よくわかりませんけど…とにかくもう中にってくださいね。」
俺達は事務所に戻った。
「え、めっちゃきれいじゃん!」
本當だ…
「マジで見違えたな。ここがウチの事務所か。」
この事務所にった當初よりもキレイになったんじゃないのか?
「じゃあ改めて、楠本さんこれからよろしく!」
「はい!頑張ります!」
「クレアちゃん、大変だけど頑張ろうね!あ、クレアちゃんって呼んでもいい?」
楠本さんは笑いながら
「はい、クレアだけでいいですよ。名字呼ばれるのなれてないですし。」
「よろしくね、クレア」
んー、俺が恥ずかしい!
「はい!」
ニコッと笑うこの笑顔にいつも俺はクラッとさせられる。
それから俺達3人は明日の予定を話し合った。
徹はすぐに篤に連絡を取り、明日の午前中から無理を言って車を出してもらうことにした。
…さすがに日當出さないとな。
「明日の朝9時に事務所集合でよろしく!」
「はい!」
「俺は柳田さんのsns探って彼の大學か高校の友達から報集めとくよ。」
「あぁ、よろしくな。」
俺達3人は事務所を出た。
家の近くのコンビニで買いをしていると、
プルプルプル…
電話だ。
…楠本さ、クレアか。
「もしもし」
「黒さん!私誰かにつけられてるみたい!」
「え?今どこ?」
「事務所近くの公園です!」
ここからそう遠くないな。
「わかった、待ってろ!」
俺は全力で走った。
この辺のはずだ。
…どこだ?
俺は公園の中にってクレアを探した。
「…黒さんっ」
ん?茂みにクレアがいた。
「大丈夫か?」
「はい。でも追ってきた人、人間じゃないかも。」
「なんで?」
「こっちに向かってきてるのに足がい
てませんでした。」
「男?」
「顔までは見えませんでしたけど、たぶん。」
そうか。
俺は目を閉じて意識を集中する。
茂みの中を蠢く何かを捉えた。
……いた!
「クレアはここにいて。」
俺は霊の場所まで近づいていくと、
「…ちょっちょっと黒さん!」
「…危ないから隠れてろって!」
「え、でも…」
…ヴゥンン! ガシッ
「キャッ」
しまった!
クレアの足が黒い手のようなものに捕まれている!
「くそっ!」
俺は左手に意識を集中して、黒い腕を摑んだ。
{…グリュ…ガ…}
苦悶の聲をあげている[何か]を腕ごと闇から引き上げた。
グボッ
なんだこいつ…
明らかになった顔には仮面のような模様と、細いに手足が異様に長いバケモノがぶら下がっていた。
「キャァァァッ」
「クレア、下がってろ。」
「く、黒さん!私が見たのは"ソレ"じゃありません!」
じゃあソイツはどこ行った?!
くっ!
俺は逃げようともがくバケモノの首を摑んで力を込めた手で握り潰す。
アガァァァァ…
悲鳴を上げてバケモノは消え失せた。
やったみたいだな。
「ス、スゴ!て、ていうか、アレはなんなんですか?!」
「わからん…」
俺もあんな奇妙なやつには會ったことがない。
「黒さんの力って実態のない霊を摑んだりやっつけたりすることなんですか?」
「あぁ、そうだよ。まだ他にもいくつか手段はあるけどね。」
クレアは俺の顔をじっと見つめ、
「それで、大丈夫ですか?どこか痛みます?」
「いや、全く。大丈夫だよ。」
「ホントですか?」
「うん、強いて言えば腹が減ったくらい。」
ハッと我に返ったようにクレアはキョロキョロ周囲を確認しだした。
そりゃ怖いよな。
「ひとまずは大丈夫。それより狙われてるのはクレアみたいだ。嫌かもしれないけど、今日は念のため俺の家に泊まった方がいい。」
「は、はい。そうします…」
クレアは家に著くまで、俺の腕を強く組んで離さなかった。
怖がってる彼には不謹慎だが。
…う、嬉しい…
家に著いて一息著くと、
「…部屋、思ったより片付いてますね。」
「自宅にいることがあまりないから。」
「あ、何か作ります?お腹減ったんでしょ?」
そうだった。腹ペコだ。
「ありがとう、冷凍食品と玉子くらいしかないけど。」
「十分です。そこで待ってて♪」
來た、必殺ウィンクだ。
俺は自分の邪な考えを振り払うように今までの事を頭の中で整理しだした。
最初にクレアをつけていた霊はどこに行った?
それに…あのバケモノと柳田、高橋の霊と何か関わりがあるのか?
じゃないと、クレアが狙われる理由がない。
この事件の裏側に何があるんだ?
そして、どう調べる?
徹は柳田のsnsを調べると言ってたな。
クレアは嫌がるかもしれないが、飯が終わったら高橋のsnsも調べた方がいいかもしれない。
「黒さん、出來ましたよ!」
目の前に並べられたのは、あの材料でどう作ったのかもわからない料理だった。
彼は魔法使いか?
「これはフライパンに牛をいれて冷凍グラタンを一緒に煮ただけのスープです。これは冷凍チャーハンのおにぎりです。海苔のかわりに薄焼き玉子を巻いてみました。簡単でごめんなさい。」
これのどこが簡単なんだ?
「めちゃくちゃうまそうだよ。」
冗談抜きでヨダレがでてくる。この匂いたまらん。
グラタンスープとやらを一口食べてみる。
「う、うまい…」
「ほんと??」
「うん、マジでうまい。」
グラタンを牛で煮るなんて考えたこともなかった。
それに味が薄くなる訳じゃなく玉ねぎの甘味もじれてスプーンが止まらない。
チャーハンおにぎりも一口。
…ん?
チャーハンなのに鰹の香りもする。
「これ、初めて食べる味だ。これもヤバイ。旨すぎる…」
「嬉しい!このチャーハンおにぎりは、暖めたチャーハンに砕いた顆粒出を混ぜて握ったんです。これは私も大好きっ」
「うん。すごいよ、これ。店で出せると思うっ」
「そんなに?でも嬉しいです!」
俺は殘さず全部食べ盡くした。
「ごちそうさま!本當に旨かった!…結婚も悪くないのかもな…」
俺が無意識に呟くと、
「え?!」
しまった!クレアが顔を赤らめてる。
「あぁ、ごめん。獨り言!」
「あ、ですよね!」
あぁ、なんか気まずくなってしまった。
「黒さんって結婚願あるんですか?」
「…うーん、どうだろう。正直今まで考えたこともなかったけど、なんかこう…不意にね。」
「そうなんだ、私はありますよ。パパやママみたいな夫婦になりたい。バカみたいに今でも仲良いの。」
…俺とクレアの想像をしてしまった。
でも…
「俺はガキの頃から両親もいないし、いい父親になんてなれないだろうな。」
「そうだったんですか。…でも、それで黒さんがいい父親になれないって事にはならないと思います。」
「そうかな?そうだといいんだけど。」
「えぇ、きっと大丈夫ですよ♪」
ここ數日クレアと一緒にいたが、やっぱりこんな子を裏切るなんて信じられん。
バカ彼氏の霊をどつく前に、裏切った理由を聞けるなら聞きたいものだ。
そろそろ高橋のことを調べないとな。
正直クレアの前で高橋の名を口にしたくないが仕方ない。
「クレア、今から高橋のsns を調べようと思うんだけど、もし嫌ならクレアが寢てから調べるよ。」
「あー、気にしないで下さい。なんとも思ってないんで。」
と、ピシャリ。なんか、この切り替えの早さがかえって怖いな。
とにかく、パソコンで調べてみると、彼には確かに友人がたくさんいたみたいだ。
公開してるチャットでも死んだ彼の事が話題になってる。
次に友人欄を見てみるとクレアが、
「あー、この人達が飲み會のメンバーですよ。ほら、柳田さんもいる。」
ほんとだ。俺がスクロールをしていくと、
「あれ?なんだろ、この人だれかな?」
見てみると名前が「米崎人」で顔寫真はなく、アクティビティも更新なしの人だ。
一見すると登録だけして放置してるだけのように見えるが。
「こんな人いなかったと思う。」
次に柳田のページを見てみると、
あ、いた。
「柳田のページでもやり取りはねぇな…」
「やり取りするときは他のアプリとか使ってるのかも。」
「この米崎ってやつがメッセージだけでやり取りしてるなら何でsnsにあえて自分のページを作ったんかな?」
「うーん…」
ほかの友人のページも見たが米崎の名前は見當たらなかった。
々調べたが米崎の名前が友人リストに上がっていたのは、高橋と柳田だけだった。
明日、念のため徹に伝えるか。
「じゃあ今日はこれくらいにして休もうか?」
「はい、お疲れさまでした!」
クレアみたいな明るい子がいてくれるだけで気が晴れるな。
クレアはおもむろに上著をいで、
「それじゃあ…一緒にシャワー浴びます?えへっ」
そして、摑み所のないだということも間違いなさそうだ。
ニジノタビビト ―虹をつくる記憶喪失の旅人と翡翠の渦に巻き込まれた青年―
第七五六系、恒星シタールタを中心に公転している《惑星メカニカ》。 この星で生まれ育った青年キラはあるとき、《翡翠の渦》という発生原因不明の事故に巻き込まれて知らない星に飛ばされてしまう。 キラは飛ばされてしまった星で、虹をつくりながらある目的のために宇宙を巡る旅しているという記憶喪失のニジノタビビトに出會う。 ニジノタビビトは人が住む星々を巡って、えも言われぬ感情を抱える人々や、大きな思いを抱く人たちの協力のもと感情の具現化を行い、七つのカケラを生成して虹をつくっていた。 しかし、感情の具現化という技術は過去の出來事から禁術のような扱いを受けているものだった。 ニジノタビビトは自分が誰であるのかを知らない。 ニジノタビビトは自分がどうしてカケラを集めて虹をつくっているのかを知らない。 ニジノタビビトは虹をつくる方法と、虹をつくることでしか自分を知れないことだけを知っている。 記憶喪失であるニジノタビビトは名前すら思い出せずに「虹つくること」に関するだけを覚えている。ニジノタビビトはつくった虹を見るたびに何かが分かりそうで、何かの景色が見えそうで、それでも思い出せないもどかしさを抱えたままずっと旅を続けている。 これは一人ぼっちのニジノタビビトが、キラという青年と出會い、共に旅をするお話。 ※カクヨム様でも投稿しております。
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