あの後何事も無かったかのようにそれぞれ居間に戻った。あの異空間での出來事が、本當にあったという証拠は、に殘る覚と、妙に差するスミレさんとの視線。

瀬戸さんの作ったと言う料理を皆で食べて、その後瀬戸さんは神社に行ってしまった。

「あのね皆。お母さんは知ってると思うけど、今日は松園家と竹園家が警察に警備されてるからね。うちは殘念ながら警備無し。だから念の為、あたしと結と千で同じ部屋で寢ます。お母さんと香壽と菫ちゃんも、同じ部屋で寢てね」

花姉さんにそう言われて、僕は今お母さんの部屋で布団にくるまっている。

たまたま同じ部屋で寢ることができて、僕は心の中でかに喜んだ。お母さんはもうすでに寢息を立てている。疲れているんだろう。

スミレさんの方を見ていると、目が合った。微笑まれる。

ああ、可いなあ。

強烈な眠気が僕を襲って、僕は押しつぶされるように瞼を閉じた。

寢顔も見たかったのに。

でも、明日早起きすればいいんだ……。

そう思って、睡魔にを委ねた。

ぼんやり、周りが見える。まだ暗い。夜なんだ。

寢てしまおうか——。

そう思ったものの、違和をじ目を見開いた。

いない？

スミレさんが、布団の中にいなかった。

——ドク、ドク、ドク。

鼓が早まる。

——ドク、ドク、ドク。

嫌な予がする。

上を見上げる。

首を……吊っていた。

「スミレさん？　……スミレさん！」

呼びかける僕の聲が震えている。足が氷のように冷たい。

人形のように白くなってかないで、ぼんやりと目を開いて、首に鮮やかなをした紫の痣がついていた。

涙がボロボロ出てくる。

どうして。寢る前までは、微笑んでくれていたのに。に殘っているあの覚が、寂しくて寂しくてたまらない。

スミレさん……。スミレさん……！

何度んでも返事は無い。

泣きじゃくりながら、僕はお母さんの椅子に乗った。せめて、せめて縄を外してあげよう。

でも泣きながらじゃ上手くいかなくて、全然外れない。ごめんなさい、スミレさん……。僕が、同じ部屋に寢ていたというのに、守れなくて、本當にごめんなさい。

何度も何度も謝った。すると、スミレさんのの向こうからけたたましい悲鳴がした。

その瞬間、縄が解けてどさっ、とスミレさんが落ちる。

「スミレさん！　すみません、痛かったですよね、すみません……」

すぐに椅子から降りて、スミレさんに謝る。悲鳴の方を振り向くと、お母さんだった。

「あ……ああ……、私の息子が……！」

お母さんが涙を流して、絶した。手當たり次第を投げつけてくる。

「人殺し！　人殺し！」

それをかばってスミレさんを抱きしめる。余計に、冷たいのが分かって辛かった。背中や頭の痛みなんて全然分からない。

どうしようもなく辛くて、悲しくて、悔しくて、不甲斐なくて、涙が次から次へと溢れ出てくる。

スミレさん。今日僕の人になってくれた、スミレさん。

ごめんなさい……。守れなくって……。

ぼんやり開いた紫の瞳には無い。

ああ、あなたは最後に、何を見たんですか。