《ブアメードの》11
佐藤一志は悔しがっていた。
「…どうやってやるっていうんだ」
醫者の話に乗せられ、思わずそう問いかけてしまった自分に。
醫者はその疑問に満足したかのように笑みを浮かべ、し間を開けてしゃべり始めた。
「それは…ねえ、ヨウツベのような畫投稿サイトですよ。
便利な時代になりました。
インターネット時代というねえ。
これまであなたに説明したことは全て撮影しています。
時が來たら、これらの映像を畫サイトで一斉に流します」
<…?!
そうか、そういうことか。
それなら、向こうから見て聞いてくれる。
だから、こんな講義のようなことをしていたのか。
こいつは俺への説明だけじゃなく、世界に向かってもしていたんだ…だが…>
「ウィルスは…?日本にしかウィルスはばらまかれていないんじゃないのか」
一志には當然の疑問だった。
しかし、醫者はその問いに冷ややかに答える。
「あなたは薬學部出なのに、パンデミックを知らないのですか?
もはや、私が日本からオメガを発して一年以上が経過していると言ったでしょう。
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日本にやって來る外國からの観客は年間二千萬人以上います。
飲み水、手洗い、シャワー、どんな人間でも數日間も水を使わずに済むはずがないでしょう。
逆に外國旅行に行く日本人も、ここ數年は千五百萬人を越えますぅ。
無害と思われている細菌なので、どの國の検疫にもひっかかりません。
染ルートはO157と同じ、や経口染だけでなく接染する力もありますし、ああ、それから蚊も介しますからねぇ。
日本の割合よりはないでしょうが、既に世界中の人間が染していることでしょう。
発癥していない、という點において、厳にはパンデミックとは言えないかもしれませんがね」
<そうか、パンデミックか、俺としたとことが…しかし、あ、あつい…>
一志は、熱に浮かされ、徐々に意識が遠くなっていく。
「話を戻します。
インターネットで映像を小分けにして、全世界に発信します。
初めは、日本でテロリストに拐された外國人、といって流すのです。
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世界中の人間が飛びついて見ることでしょう」
「そんな畫、誰が見るもんか。
畫再生回數なんて、思ったようには稼げないんだよ」
「あなたの心配には及びません。
私にはインフルエンサーがいますからね」
<インフルエンサー?SNSでの影響力が大きいっていう奴か…それが別に?>
「特に殺すわけではありませんから、テレビの報道でも流されるでしょうねぇ。
過去に日本人が斬首された事件の一連の映像が、かの國から発信された時のように。
自國の人間、或いは母國語を話す人間が拉致され、拷問をけているぅ。
直接関係ない國でも、"親切な"人間が自國語に翻訳して、ウェブ上に流すという行為は想像に難くないことです。
そして、次の配信で世界は愕然とするでしょう。
あなたに今、話している容です。
映像を見た自分が、既にゾンビと化すウィルスに染しているかもしれない。
そして、映像を見た以上、発癥するかもしれない。
思い込みの激しい人間、特に思春期の人間などはパニックを起こして、真っ先に発癥するでしょうねぇ。
多な年頃ですから。
これには、ミラーニューロンも深く関わってきますが、冗長になってしまうので、端折りますがね。
インターネットに接しているほとんどの人間が、この映像を見ることでしょう。
後は、ゾンビ映畫によくある通りとなりますよ、きっと。
世界中に戒厳令が敷かれようとも、ゾンビが人々を襲い、次々と新たなゾンビが生まれる、幾何級數的にね。
発癥した人間のオメガは活化していて、その人間から染すれば、説明の手順を踏まずとも、またゾンビとなりますからねぇ。
生き殘れたとしても、自暴自棄になった人間たちは暴を起こして、世界は荒廃するでしょう。
いつも、誰かがゾンビになるのではないかと疑心暗鬼に囚われて、人間同士の絆なんてものは意味を失くすかもしれません。
頼りの軍隊も、真実をより知らなければならない立場から、ゾンビ化する確率が高くなり、崩壊すると私は踏んでいます。
その辺りも、まさにゾンビ映畫そのものとなるでしょうねぇ」
「んな、よくベラベラと…そんなに都合よくいってたまるか、見たらゾンビになるってわかったら、誰もそんな畫なんか見るかよ」
「さて、どうでしょうか?見たらゾンビになるから見るなと言われて、信じて見ない人間…ねえ。
あなたの意見は一理あるかもしれませんが、本質をわかっていない。
私の畫は種に過ぎません。
人間は真実、そして何より繋がりを求める生き、その行が水となり、芽を出して、と枝を広げ、やがて、大きな木へと育ち、実を付けるのですよぉ、ゾンビという実をね、うっうっうっ」
「何をバカな…」
「畫を見ていない人間は見た人間に説明を求めるでしょう。
しかし、説明すればしたで、された人間がゾンビになるも同然ですぅ。
そうですね、この際、発癥の要因をはっきりさせておきましょう」
醫者は、これから言うことへの準備をするように、し大きく息を吸った。
「発癥の要因、それを大きく分ければ、自分がウィルスに染したと自覚すること、そして不安になること、この二つです。
畫を見ないでも、説明をければ、これらの効果はあるのですよ。
それでも、説明されない人間は、どおーしても真実が知りたくなる。
今しがた説明したとおり、世界にあふれた報に喰いつくでしょう。
隠れてでも、テレビを見る、インターネットを見る、互いに報を換する。
これを止めるはありません」
醫者は決まったセリフを話すように、流暢にしゃべり続ける。
「…とは思いますが、あなたの忠告は真摯にけ取って、この部分はカットしておきましょう、うっうっうっ」
「そんな…」
<言わなければ良かったか…>
一志は続きの思いは心に留めた。
「さてさて、ここで最後に予想されるのが、私の待ちかねる救世主の登場ですよ。
ことが起こる前か、はたまた起こった後なのか…
ことが起こる前であれば、そろそろのはずなんでしょうが、まだ、神の奇跡が起こったというニュースは聞きません。
であれば、ことが起こった後、かろうじて生き殘った人間の中から似非救世主が各國で同時多発的に現れると、私は想定しています。
ほとんどが偽でしょうが、その中に本が現れるはずです。
ファティマのような奇跡を起こす本がねぇ」
「そんな計畫通りにいくはずがない、無理だ…」
かろうじて一志は聲を出した。
鼻から何か出てきたが、拭こうにも手は固定されてかすことができない。
鼻腔から人中を通って口に伝って來たのは、その味から鼻とわかった。
ふーっとそれを吹き出す。
鼻は滴り落ちて、黒い布から滲み出る。
「おや、鼻が出てきましたか。
オメガが活化し始めたせいで、頭への流が増えているし、白球がオメガと戦っているのが原因です。
私の神の証明の話が間に合いますかね。
急いで説明しましょう。
こう言うのもなんですが、まだゾンビにならないでくださいよ。
一志君、あなたはこの最後の説明を聞かねばなりませんーうっうん」
醫者は初めて、一志を下の名で呼び、意味深長に仄めかした。
「神を信じている人間はこの世に多いと言いましたが、私以外の科學者の中にも結構信じている者はいるのですよ。
ニュートンをご存じでしょう。
神學者でもあった彼の萬有引力の法則と三つの運の法則は、何萬年後でも星の位置を推定できる、つまり未來を予知することに近付きました。
そして、ラプラスという學者が究極概念、因果律なる終著點を描いたところ、ノーベル賞を取ったハイゼンベルクが、不確定原理で未來の予測が確定ではないと一歩後退させたかにみえました。
それでもまた、アインシュタインが相対理論で今度は過去を推測し、宇宙は無から始まったと結論付けた。
神はサイコロを振らない、とも…
私は、彼らは皆、神を信じ、神に近付こうとしたのだと思っています」
「神…」
「神がいないと言っている學者もいるが、本當は認めざるを得ないと心のどこかで思っている者もいることでしょう。
いずれにせよ、どんな科學者も神を証明するを知りません。
だからこそ、神以外の説明でこじつけようとする無神論者もいるのでしょうがねぇ」
意識を保つのがやっとなのか、一志は口を開かなくなった。
それでも醫者は続ける。
「そして現代、帝都大學の教授、佐藤勝が提唱した、インフレーション進化論、別名『神の一隅』、あなたがこれを知らぬはずがないでしょう」
父親の名前に、聞いてか聞かずか、一志がし表を歪めたように見えた…。
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