《ブアメードの》26
岡嵜零は怒っていた。
「自分の娘にさえ噓を!」
自宅のリビングで佐藤家の會話を聞き、怒鳴り聲を上げた。
佐藤家に仕掛けてある盜聴からタブレット端末を通して聞こえてきたのは、想定外の容だったのだ。
佐藤夫妻と靜の仲が、うまくいっていないことを知っていた零にとっては。
<まさか、映研の映像を手にれて、こうも早く奴らに見させるとは…意外と探偵というのも侮れないものね。
私たちがヨウツベにアップしたものを見るだろうと踏んでいたのに。
こうなったら、念のため…>
零はスマートフォンを作すると、マリアに電話した。
「ああ、マリア、ごめんね、ちょっと聞きたいことがあって。
今日、來てたっていう探偵の名前教えて」
「うん。池田探偵事務所の所長で、池田敬って人。
三十歳くらいかな、結構イケメンだよ」
マリアはあっけらかんとして答えた。
「ありがとう。ちょっと、彼にはゲームオーバーになってもらおうと思って」
零はそう言いながらタブレット端末を作し、池田探偵事務所を検索する。
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「え、まさか、もうばれそうなの!?」
「ばれそうではなく、ばれてしまった。
あなたが佐藤家に仕掛けた盜聴聴いていたら、私の名前が出たから。
ただ、もうこれ以上、変に嗅ぎ回られないように、時間稼ぎをしなくては…」
「でも、さすがママ。
それを見越して先に畫アップの準備しておいて良かったね」
マリアは急に小聲になって言った。
「ええ、でも探偵の話、さっき、もっとよく聞かせてもらえば良かった…」
「って言われても…靜ちゃんはこっちの想定通り、お兄さんを拐した映像って気付いてたけど、探偵さんはどうだか…
その後、先輩と一緒に一旦、部室出て行っちゃったから、どんな探りをれられたかも知らないよ。
部室に戻ってからは特に変わった質問もされてないし…
ただ、例のDVDは隠しておいたのに、ボクが用意した封筒と手紙と、それから映畫を録畫したブルーレイを先輩が貸しちゃったけど」
「そう、それね。余計なことを。
まあいいわ。
あ、そばにその彼がいるのよね、お邪魔でした。こんな話してて大丈夫?」
「もちろん、今、トイレに籠ってるから」
「良かった。でも、あなたもそろそろ準備しておきなさい。
予定より、だいぶん早くなりそう」
零はそう言って切ると、スマートフォンを持ったまま、エレベーターを下りて地下へ向かった。
岡嵜家の地下一階、約二百平方メートルの広さ。
エレベーターから出ると、正面に大きな扉があった。
マリアがい頃に解除した電子ロックキーから替わり、今は指紋認証式となっている。
指紋認証機に人差し指を當て、キーを解除した零は扉を開け、エントランスにった。
そのエントランスを挾むように、実験準備室と実験室へのドアがある。
九〇年代後半に建設された當時から、最新の伝子工學の実験設備を備え、今も財力に任せて定期的に設備を更新している。
零はくるりと右を向き、準備室にった。
準備室は五十平方メートルほどの広さで、壁面に書棚や保管庫が整然と並んでいる。
零は保管庫の一つを開けると、様々な道を取り出す。
黒い皮手袋とり止めの付いた軍手、小型の催涙スプレー、アメリカ製の強力なスタンガン、粒狀の睡眠剤、筋弛緩剤や麻酔薬のった注とそれを収める銀のケース、結束バンドの束、十徳ナイフ、特殊警棒。
それらを無造作に作業臺の上に置いていく。
「これは…探偵ごときに弾がもったいないわね」
零はそう言って、一旦取り出した銃をしまった。
道が全て揃うと、次はロッカーを開いた。
そこには、実験時に使う手著のような白が數著並んでいたが、一部はここに似つかわしくない服だ。
濃いグレーのパーカー、黒い上下のレザースーツ、ロッカーの下には、それに合せたような黒いブーツ。
零は部屋著をぐと、パーカーの上にレザースーツを著る。
著替え終わると、ロッカーの下から小さめの黒い合皮製ショルダーバッグを取り出し、作業臺に戻る。
特殊警棒を腰に付け、他の武類はスーツの各ポケットに次々に突っ込む。
殘りをショルダーバッグに詰め込むと肩に回し、殘した皮手袋を両手にはめる。
準備は整った。
一階に戻り、ブーツのまま、リビングに置いていた車のキーを取る。
次に、建と直接つながっている車庫に向かい、電式シャッターを開ける壁のボタンを押す。
車庫は四臺ほど置ける広さがあるが、今は三臺の車が停まっていた。
一臺は黒い大型のワゴン車ヒアセ、もう一臺は黒いセダン型の高級車レクス、そして最後は四駆の軽自車ジムミーだ。
零はヒアセに乗ってショルダーバックを助手席に放り投げると、エンジンをかけた。
次に、車載のナビゲーションシステムで、池田探偵事務所を検索する。
『東京都大田區…』
確認を終えると、車庫から車を出す。
ドリンクホールダーにれている門扉のリモコンスイッチを押すと、鉄製の門が開いた。
<この時間なら、一時間かからず著くかしら。まだ働いているといいけど。
そう言えば、まだ事務所にいるかどうか…>
零は運転しながらスマートフォンを取り出し、非通知で池田探偵事務所に電話した。
スマートフォンはナビシステムのブルートゥースと自的に繋がり、コール音が車載スピーカーから響く。
「お電話ありがとうございます。
こちらは、池田探偵事務所です。
電話を転送しますので、しばらく…」
明らかに録音テープと思われる音聲が聞こえてきた。
<転送ということは、事務所にはいないか…まだ帰っていないのか、もう戻らないのか…>
零は電話をかけ直した。
「何?ママ」
相手はマリアだ。
「マリア、何度もごめんなさい。
悪いんだけど、池田っていう探偵、そうね…多川臺公園に八時半で、適當な理由付けて呼び出してくれない?
探偵の攜帯番號、聞いてるんでしょ…」
「え、今忙しいの。
番號は教えるから、ママしてよ」
「私の聲だと、もう知られてしまっているでしょ。
あなたなら、まだ怪しまれない…」
「あ、そうか、仕方ないね。
わかった、多川臺公園ね。
あそこなら結構広いから…じゃあ、東屋の下で待ち合わせってことで」
「わかってると思うけど、あなたは來なくていいから。
あとは私でやります。
探偵の特徴だけ教えて」
零はアクセルをふかし、多川臺公園へと車を急がせた。
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