《ブアメードの29

坂辻司は訝しんでいた。

今、マリアのタブレット端末で見せてもらっているのは、『ゾンビにしてみた』の畫の続き、パート2だ。

池田との電話後、なぜパート2のことを知っているのかマリアに問い詰めると、見せてきたのがこの畫だ。

自分が検索した時は、なかったはずだが…

「あなたは神を信じますか」から始まった畫の長さは、一時間弱はある。

「これって、タイトルが日本人をゾンビにしてみたってなってるじゃないか。

映研の映像の続きか…」

「そうみたいだね」

有馬はあっけらかんと答える。

「やばい、やっぱりこの佐藤さんのバージョンあったのかよ。

さっきは見つけられなかったけど…」

坂辻は観念しながらも、映像をしばらく見続けた。

「も、もしかして、この犯人って、本気で…」

「そう、本気でゾンビにしようとしてるみたいだね」

「っていうか、その先だよ。

人類をゾンビにして、本気で絶滅させようとしているのか…」

「そうなのかもね」

「でも、どうやって…いくら外國人拐したって、たかが知れてるじゃないか。

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それに、拷問している場所はフランス人の時だって同じ部屋に見えるし、ここが日本だろうとどこだろうと、世界には広まりようがない」

坂辻はし強がってそう言ってみせた。

「それは、続きのパート3で、やり方言ってるみたいだよ」

「パート3?」

マリアは坂辻から端末を取り上げて何か作すると、今度はパート3を見せてきた。

<さっき検索した時、パート2さえなかったのに?

この畫といい、マリアはどうしてこうも次から次に映像を見つけてこられるんだ?

俺の検索の仕方が悪いのか?>

「お前、これどこにあった?俺見つけられなかったぞ」

坂辻は自分で見つけられなかったことに対する見栄を捨て、抑えつけられなくなった疑問を切り出した。

「えー、普通にあったよ」

「そうか?」

「それより見ないの?

続き気になるでしょ」

「ああ、見るけど…」

坂辻は疑問に思いながらも、今度はパート3の畫を見始める。

この映像からは監された部屋の様子ではなく、醫者の話の容に合わせて、それを補足する畫面になっていた。

「神の証明」、「ウィルスの生方法」、「集団染方法」、「人類絶滅方法」…

プレゼンテーションソフトのように、大きな字幕が次々、醫者の聲に合わせて出てくる。

そして、畫面は埼玉県の水道水集団染事件の當時の新聞記事を映し出した。

「――ちょっ、ちょっと待てよ。水道水を使ってウィルスをばらまくことにしたって?」

そう言うと、さらにスマートフォンを食いるように見つめる。

次の畫面は、バクテリオファージの寫真のところだ。

醫者が得意そうに説明を続ける聲に、坂辻は耳を澄ました。

「——水道水にれられて一年以上だと…確か、佐藤さんいなくなったのって一年半前だったよな?

じゃあ、もう二年半以上も経ってるってことか?」

「本當なら、そういうことになるね」

「ふ、ふざけんなよ、お、俺もお前もこのオメガってウィルス、飲み込んじゃってるってことか?」

「えー、やだー、怖ーい」

「お前、いつまでそうやってふざけていられるんだよ、これ本なんだろ?

池田さんも言ってたんだぜ?本當のことなんだろ?」

「じゃあ、ボクたちもゾンビになっちゃうのかなあ?」

「お、俺も、ゾ、ゾンビに?そ、そんなバカな…」

坂辻は震え始めた。

先ほどから熱っぽくなり、頭が重く、がだるい。

「こ、これは鼻?」

坂辻は鼻をぶつけた以外で、鼻を出したことがなかったので驚いた。

「あれ、大丈夫?はい、ティッシュ」

マリアが機に手をばしてティッシュ箱を取り、箱ごと坂辻に渡す。

「お前はなんともないのか?」

坂辻はティッシュを丸めて鼻に詰めながら、マリアに訊く。

「うん、今のところ」

「なあ、もう、池田さんのところなんか行かずに、側にいてくれよ、俺、調やばいかもしれない」

坂辻はだるそうにベッドに潛り込んで、畫を見続ける。

「わかった、そうするよ。

じゃあ、つー君のスマホ貸して。

さっきの著歴見てかけ直すから」

マリアは坂辻のスマートフォンで池田に電話をかけるふりをした。

會うのは明日と、約束を変更したように、適當なセリフを並べ立てる。

それが終わると、坂辻のスマートフォンをテーブルの上の自分のものの橫に並べて置いた。

それから、マリアもベッドに潛り込み、向う向きで橫になっている坂辻の背中を抱く。

「ねえ、ゾンビになって死んだら、どうなっちゃうのかなあ」

「知るかよ、ゾンビになんてなってたまるか」

「つー君って、天國あると思う?」

「え?ぶっちゃけ、ないんじゃない?

デス手帳でも言ってたでしょ、死んだら無だって。

俺もそう思う」

デス手帳とは、その手帳に書き込んだ名前の人が死ぬという漫畫のことだ。

「えー、がっかり。つー君は死後の世界信じてると思ってた」

「お前は信じてるのかよ」

「信じてるよ。ただ、みんなが思ってるような宗教っぽいところじゃないけど」

「え?どんなとこ?」

「すごいとこ」

「小學生か」

「へへ。ボクって実は前世の記憶がしあるの」

「うそ!?」

「だからね、この世の中って、映畫のトータノレリコーノレとマトリクスを足して二で割ったみたいな世界じゃないかと思うな。

トータノレリコーノレみたいに、自らんでこの世界を験してるのよ。

超進化したバーチャルリアリティみたいなもの…今流行ってるじゃない、VRのゲームって。

それで、RPGのすごい奴、何十億人でやってるんだよ。

死んだら、ゲームオーバー。

で、戻るところが、天國っていう真の世界。

そこで、もう一回ゲームに再挑戦、ってのが生まれ変わりなんだと思う、りんねてんせーって、うふ」

「なんだよそれ、まさに人生ゲームってか。

この世が現実じゃないないなんて、有りえないだろ。

ほんと、子供だな、お前は」

「えー、でもママも似たような考えだよー。

ただ、ママはキリスト教の環境で育ったから、ちょっと宗教ぽいこと言うけど」

「変わったお母さんだな」

「ふふ、でしょ…でもそうだったら、全部説明できるんだよな」

「何が?」

「前にも言ったでしょ。

二重スリット実験と量子もつれとか、速度不変の原理とか」

「はあ?何急にあのサイエンス系の話、ぶっこんで來てんの?」

坂辻は畫を止め、後ろのマリアの話に興味を持ち始めた。

「だって、二重スリットや量子もつれって観測するかどうかで、結果が決まるんだよ。

それって、ゲームと一緒じゃん、見てる部分だけ計算してるんだから。

あ、見てる部分だけって言うなら、宇宙のホログラフィック原理とかもそうでしょ。

だから、これってこの世界のバグって言うか、限界なんだよ、きっと」

「うわー、話飛躍し過ぎ。

サイエンスとオカルトの狹間だな。

でも、お前の口からそんな難しい話、出るとは思わなかったよ」

「えー、大學一緒だよ。

偏差値はつー君と同程度ってこと。

それより、畫見ないの?」

「ああ、見るよ」

坂辻はタブレットに映る畫の再生マークにれ、続きを見始めた。

それが、どういう結果を招くか、知る由もなく。

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