《ブアメードの》55
谷津田達也はいきり立っていた。
今は岡嵜邸へ向かうヘリコプター、スズ412の中。
谷津田を含め、外事課の捜査員が七人、萬が一の発癥に備えて縦士が二人、計九人が搭乗している。
渋滯できが取れない狀況の中、ヘリコプターでの移があっさりと決まった。
地道な調査活が大半で、逮捕する機會のほとんどない課にあって、ヘリコプター投による被疑者の確保。
先ほどから武者震いが止まらない。
<隣國か中東辺りと睨んどったが、まさか國のことで、しかもわしらがかなにゃあいけんようになるとはのお。
上は警視庁を出し抜いたと喜んどるようじゃが、そんなこたあどうでもええ。
岡嵜には、東京、いや世界をこんな事態にしたことを後悔させてやる。
しごうしてやりたいくらいじゃ。世の中、甘う見んなよ>
事態は既に國レベルでいており、警察庁は岸総理大臣の命をけた桐谷長の指揮の元、特別捜査本部を設置し、事態を打開しようとしていた。
そんな中、國際バイオテロを前提に捜査を進めていた外事課にあって、谷津田は岡嵜零が被疑者と外事課から連絡があると、すぐに製薬會社に目を向けた。
都の複數の製薬會社の外國人をこれまで當たっていたからだ。
その中のひとつ、トレジャーバイオの高須に電話すると、その口調からすぐに何か知っていると察知。
それでも個人報保護法を盾に渋る高須に対し、岡嵜零がトレジャーバイオから品を購していたという偽の証言をでっち上げ、すぐに捜査令狀を取った。
案の定、顧客リストの中に岡嵜零の名前と搬先を発見。
ただ、渋滯で捜査車両でのきが取れなくなったため、ヘリコプターの投を要請。
トレジャーバイオの営業車用の駐車場に呼び寄せ、搭乗したのだった。
谷津田はけたたましく響くローター音の中、右に座る室という捜査員を押しのけるように窓から下を覗いた。
道路は渋滯中の車のランプでの線が幾重にもび、特に高速道は太い帯を作っている。
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<施設の捜索は後回し、あとで鑑識が、って話だが、こりゃあいくら待っても辿り著けんで…>
トレジャーバイオから岡嵜邸までは直線距離で約三十キロメートル。
ヘリコプターならものの十分で著く距離だ。
ただ、著陸できる場所がなく、また、ローター音で被疑者に気付かれ逃げられてはならないため、し迂回。
岡崎邸から一キロメートルほど離れたゴルフ場に著陸する予定だった。
「谷津田さん、知ってますか。
高校生棋士の藤田七段、ついに八段になるらしいですよ」
浮かせた腰を元に戻した谷津田に、室という部下がローター音に負けない聲で話しかけてきた。
將棋好きで、たまに谷津田と指すこともあるが、一枚上手の谷津田には敵わず、連戦連敗だった。
「とぼけたことを言うな、日本の明日がわからんいう時に。
すぐ先の一手を見據えろ、馬鹿もんが」
「すみません…」
「これから、戦場に向かうくらいの気でおれや。
まあ、あれよ…わしらは將棋の歩みたいなもんかの?
にー、しー、ろー、はー、ほれ、ちょうど九人乗っとるじゃないか、歩の數と一緒じゃあ」
広島出の谷津田は、親しい部下などには方言を隠さない。
仏頂面で口は悪いが、気さくで部下の面倒見も良かった。
「なるほど。岡嵜が逮捕できたら大手柄ですから、僕ら、と金くらいにはなりたいですね」
「何、上手いこと言いよるんなら。
一局終わったら、わしらまた歩に戻って、いつものように先頭に並ばせられるのが落ちじゃ」
「うわー、まさに捨て駒じゃないですか」
その會話の様子を、後ろの席に座った尾津と小泉という捜査員がにやついて見ていた。
尾津の方は、捜査関係の道や書類をれた大き目のショルダーバッグを持っている。
谷津田の部下で、矢佐間と八塚が事故現場で出くわした際にいた二人だ。
初めのうちは厳つく聞こえる広島弁も、慣れてくると意外におもしろくじるらしい。
特に今年配屬されたばかりで東京出の尾津は、同僚の小泉と度々それをネタにしていた。
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「ほんまは谷津田さん、仁義なき戦に出とるんじゃないか?」
「馬鹿言え、さすがに今じゃったら古老の皿辺りじゃろ」
と、どちらも広島を舞臺としたヤクザ映畫の名前を出し、下を向いて笑う。
いつも、そうやって広島弁を真似て揶揄するが、芝居がかったそのイントネーションはいい加減なものだ。
その二人を挾む形で座っていた岡と田中という捜査員も、つられ笑いをかみ殺していた。
「お前ら、何話しよるんなら。どいつもこいつも気がたるんどるのお」
「そうは言っても谷津田さん、これだけの人數で五十過ぎの一人が相手ですから…」
「それがたるんどる言うんじゃ。一人とはいえ、國際指名手配になってもおかしゅうない兇悪犯なんで。
岡嵜邸は結構広いんはわかっとるじゃけえ、逃げられんようにせいよ。
ほいで、有馬いう娘の行方は杳として知れんのんじゃ。
一緒におるかもしれんことを忘れるな」
「はい」
向いの四人は表を引き締めて返事をした。
「ほいで、水川よい」
「あ、はい」
一拍置いた呼び掛けに、谷津田の左隣に座っている唯一人のが返事をした。
尾津と同じようなショルダーバッグを持っている。
被疑者がであるため、確保後に検査をする際の配慮で員されていた。
「お前は後ろの方におれよ。ほいで、足でまといにならんように」
「はい…あの、それは私がだからそうおっしゃっているのでしょうか?」
「そがあなこと言わすな」
「はあ?そがあなことって…」
普段、谷津田と余り接點のない水川は、谷津田なりの配慮と方言の意味、その両方がわからなかった。
<よいよ最近の若いもんは…言うたら、年寄りが言うこと思いよったが、わしもはあ歳よのう>
「もうすぐ岡嵜宅上空です。右下になります」
縦士から聲がかかった。
谷津田らは右の窓から下を覗くと、岡嵜邸があるであろう山の中に建の明かりが見える。
「あそこで間違いなければ、明かりがついてますから、岡嵜母娘のどちらかがいる可能が高いかと」
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「見りゃあわかるわい。
やはり、ホシは研究施設に潛んどったか」
室に答えた谷津田は、また武者震いした。
ヘリコプターは、予定通りゴルフ場の駐車場に著陸した。
縦士の一人は到著した旨を無線で本部に伝えると、その場にもう一人の縦士と共に待機する。
降りた七人はスマートフォンのマップアプリを頼りに道を進んだ。
舗裝してあるとはいえ、暗闇の山道を懐中電燈で照らし、小走りで岡嵜邸へ向かうのはに堪える。
<くそ、走るんは久しぶりじゃのお、しんどいわい>
谷津田は自分のに鞭を打ち、それでも歩を緩めず、部下の後をついて行く。
「おい、岡、どうした?」
そばを歩いていた田中が、岡の異変に気付き、聲を掛けた。
「いや、ちょっと、しんどくて…まあ、大丈夫だ」
岡はそう言ったものの、明らかに顔が悪い。
「岡、悪いがお前を置いていく」
後ろの谷津田が追いついて言った。
「いや、警部、それは…」
「こっから、失敗する訳にはいかんのじゃ。
最悪、お前が発癥したら、殺せにゃあいけんかもしれん。
そんなこたあ、さすな」
「――おっしゃりたいことは承知していますが、やはり、自分は…」
「自分自がようわかっとるんじゃないんか」
谷津田は岡の眼をじっと見る。
「…わかりました…ここに殘ります」
「すまんのう、岡…」
周りの捜査員は黙って二人の會話を聞いていた。
投稿畫を見て、自分たちが発癥するかもしれないことはわかっていた。
外事課の何人かが発癥したとの報もあった。
公にはなっていないが、捜査中に発癥者を殺してもやむなしとの通達も。
それによって、耐え切れずに逃げ出した者もいたが、ここに殘っているのは、覚悟を決めた者ばかりだ。
「田中、岡嵜を逮捕して引き返して來た時に、もし俺が発癥していたら、お前が…頼む」
そう言って、岡は自分の銃を田中に渡した。
「何を…」
「頼む」
「…わかった…でも、ただ単に調子悪いだけかもしれないだろ。
もし、大丈夫そうだったら、追いかけて來いよ…」
田中はそれ以上の言葉と涙を飲んで耐えた。
二十分近くかけて坂道を登り終えると、やがて視界が広がった。
白く高い塀、その先には小灑落たヨーロッパ風両開きの門扉が見えるが、通用門はないようだ。
谷津田らはそこからは慎重にゆっくりと進み、門まで到著した。
奧の建にはまだ明かりが見え、一安心する。
ただ、調べてはいたが、谷津田の想像の上を行く大きさだ。
「はぁはぁ、この大きさじゃ仕方ない…
田中と室、はぁ、お前らは逃げられないように外を見張っとけ。
あの門以外に裏門やら抜け道がないかも、よう見とけよ。
もし、岡がなんものうて合流できたら、一緒に見張れえ言うとってくれ。
ゆうことで、他のもんは著いてこい」
谷津田の一縷のみをえた言葉に、「はっ」とも「はいっ」ともつかぬ、威勢の良い返事が全員から返った。
門に著くと、谷津田は息を整え、インターホンのボタンを押した。
<素直に出てくるか…それとも…>
他の三人、尾津、小泉、水川も構えるが、思いがけず、すぐにインターホンから反応があった。
「どなたですか?」
畫で聞いたのと同じ掠れた聲に、それが岡嵜だと谷津田は確信する。
「警察だ。お前に逮捕狀が出ている、開けろ。
自分が何をしたのかわかっているだろ?」
「開けたくはありませんが、大切な門扉を壊される訳にもいきませんからねぇ」
その聲の直後、外燈がいくつか燈り、スウィング式の門扉が自的に側へ開き始めた。
「私は奧の建に居ます。そちらへお越しいただけますか」
四人の捜査員は、懐中電燈をしまうと門を通り抜ける。
<意外にあっさりしとるが、わしらが來るんがわかっとったんか。
観念したか…それとも…
罠かもしれんから、気い付けんと…>
キイー、キイー…
谷津田がそう思うや否や、門扉が閉じ始める。
「おい、閉じ込められたらいけん。配線切って開けとけるか」
「やってみます」
尾津と小泉が引き返し、小泉が門扉を引っ張ってみると、人力でなんとか留まる強さだった。
その間に尾津がショルダーバッグに常備している小道の中からニッパーを取り出し、門扉に繋がる配線を切った。
「よし、行くで」
四人は外燈の明かりを頼りに注意深く前に進むと、やがて視界が開けた。
そこは裏庭なのか、手れの行き屆いた芝生が広がり、やはり外燈で照らされている。
目が慣れてくると、その奧に小學校の育館を一回り小さくしたような、かまぼこ型の建が見えた。
その中央の口のところに誰か立っている。
「あそこだ。用心しろ」
歩を緩める谷津田の右側から、捜査員たちはしをかがめ、ゆっくりと広がり、先に進む。
近付くに付れ、それがのようだとわかってきたが、どうも様子がおかしい。
「あれは…岡嵜…じゃあなさそうじゃの」
この寒さに、ぼろぼろの著一枚しか纏っておらず、長くぼさぼさにびた髪は黒いが、容姿は日本人とは思えなかった。
「拉致されたという外國人かもしれん、”発癥者”として対処しろ」
谷津田の號令にすぐに殘りの三人がの側に手を突っ込む。
ドイツK&H製、SPUという銃だ。
裝弾數は一三発。
「ぎゃうううう!」
三人が銃を取り出すのとほぼ同時に、が奇聲を上げて走り始めた。
「おい!やはり発癥者だ!」
谷津田がそうぶやいなや、は捜査員たちに襲いかかった。
捜査員たちもすぐに発癥者と気付き、その攻撃を躱す。
「何しょうるんや!発砲許可は下りとる、構わん、撃て!」
躊躇う捜査員を谷津田が鼓舞した。
バン!バンバンッ!
それぞれが一発ずつ、計三回の銃聲が響き、は倒れた。
谷津田もすぐに追いついて、銃を構えた。
「谷津田さん、あれを!」
広がった四人の一番外側にいる水川が聲を上げた。
見ると、口から次々と拉致された外國人が出てきている。
その數、十人以上。
どれも半か全、痩せこけて肋骨が浮き出ており、その眼は虛ろで鈍くっていた。
は髪を振りし、男は髪以外に髭もび放題だ。
「がああああ!」
「きいいい!」
それらが皆、捜査員を見るなり、奇聲を上げて走り出す。
「撃て!撃て!」
捜査員たちは銃を構え、容赦なく何発も発砲する。
それでも、外國人たちは銃撃の間隙を抜けて詰め寄ってきた。
四人が弾を撃ち盡くそうかとした時、最後の髭面の男が水川の直前で突っ伏して倒れた…
と思わせた、その後ろに、もう一人、がいた。
それは黒いレザースーツ姿の零だった。
零は外國人たちを盾に捜査員たちに近付いたのだ。
零は水川のの真ん中に、右手で掌底を食らわした。
それはロシア発祥、「システマム」と呼ばれる軍隊式格闘。
それを零に教えたロシア人の男は大柄で屈強だったが、今は見る影もなく、発癥者としてそばに倒れいていた。
システマムは、相手のの鍛えられない急所、弱點を攻撃することを基本とする。
例えば、眼球や間といったオーソドックスな部位の他、鎖骨、肋骨、脛などの骨浮き出た部位、骨と骨の隙間。
そこに親指をれたり、膝や肘、掌底などい部位で強く突く。
人構造を醫學的に理解している零にとっては、最適な格闘だった。
水川が攻撃された部位は、どんなに筋を鍛えても覆われることのない骨と鳩尾、その中間を正面から。
それだけで、水川の骨は折れ、息ができなくなった。
一瞬にして右腕を背側に捻られ、銃を落とすと、さらに左脇腹に激痛が走る。
「くぅっ!」
見ると、スタンガンを押し當てられていた。
呼吸困難とその激痛に、水川はけなくなる。
「銃を捨てましょうぅ。このがどうなってもよろしいのですかぁ?」
零は掠れた聲で言うと、スタンガンをぽいっと放る。
そして、すぐにポケットに手を突っ込み、注を取り出すと、水川の首に腕を回して今度は注を當てがった。
<じゃけえ、後ろにおれえ言うたのに…>
「お前が…岡嵜、か」
谷津田が苦蟲を噛み潰したような顔で問いかけた。
「そうです、初めましてぇ」
「何が初めましてじゃ、場違いな挨拶をしてから」
「場違いなのはあなたたちの方。
この程度の人數とこんな軽裝備で、力を解放した私に敵うとお思いですかぁ」
<力を解放?また訳のわからんことを…
しかし、こんなあ、歳は五十超えとるはずなのに、こがあなええじゃったんか…>
「かああああ…」
谷津田が思わず見とれるほどの零の後ろで、撃たれてもまだ生きていた、システマムの師範がき聲を上げた。
両腳を撃たれるも、匍匐前進でずるずると近付いてきている。
尾津と小泉はその姿を見て、恐ろしそうに互いに顔を見合わせた。
「かわいそうに、あなた方もひどいことをしますねぇ。
この方、元は私の武の先生だったのですけれど」
零はその男から距離を取るように、水川を押して、しずつ谷津田たちの方に近付く。
<どっちがじゃ、かばちたれなよ>
谷津田はその思いを表に変える。
「それより、早く銃を捨てていただいた方がのためだと思いますよ」
零が水川の首を締め上げると、
「ううっ」
と水川が苦悶の表を浮かべていた。
「――水川、すまんな…
構わん、確保しろ!」
その言葉を待っていたように、捜査員二人が一斉に零に駆け出した。
「馬鹿なことを…」
零は注を水川の首に刺し、中のを注する。
「うっ」
それに気付いた水川は青ざめるが、まだ上手く息ができず、何も言えぬまま崩れ落ちそうになる。
零はその水川を盾に、まず先に飛びかかってきた右側の小泉を躱す。
水川の腕を捻っていた右手を離し、制を崩した小泉の脇腹に掌底を叩きこむ。
次に、左側から來た尾津を、くの字にを曲った水川の背の上で回転し、反対に降りて躱す。
さらに水川を蹴り飛ばすと、尾津にぶつかり、二人は一緒に數メートルも吹っ飛ばされる。
それは、わずか十秒の出來事だった。
「馬鹿な…」
さすがの谷津田もその有様に怯んだ。
その間に零は、水川が落とした銃を拾うと、倒れてもがいている小泉を強引に立たせる。
そして、また水川にしたような制をとる。
「もう一度言いますよ。銃を捨てましょうぅ」
と言って、今度は銃を小泉の首元に向けた。
「ぐっ」
一番下の――やはり鍛えたとしても筋で覆われることのない――肋骨を折られた小泉は、その痛みで苦悶の表を浮かべる。
だが、谷津田はかなかった。
いや、正確にはけなかった。
<こいつ、何者なんじゃ…じゃけえと甘くみとった訳でもないのに>
しかし、その逡巡を零は良く思わなかった。
「そうですか。でしたら、これは二度も言うことを聞かなかった罰です」
零は銃口を、起き上がろうとしていた尾津に向ける。
バンバンッ!
顔を二回撃たれた尾津は膝を付き、ばたりと前に突っ伏した。
「尾津ー!!」
谷津田がんだ僅かの間に、零は次に銃口を、立たせた小泉のこめかみに據える。
すると、スライドオープン――弾が切れてスライドが後ろに引かれた狀態――であること気付いた零は、その銃を放ると、小泉の元から新たに銃を奪った。
「倍返し、なんて、張ったことを言うつもりはありませんが、ちょうど弾が切れてしまいましたね」
<…こんなあ、銃の扱いにも長けとるんか…場馴れしとると言うか…底が知れん…
うん!?あれは…>
「くっ…わかった…」
谷津田は一瞬、視線を零の奧に移すと、構えていた銃をゆっくりと下に置き、両手を上げる。
しかし、その視線を零は逃さなかった。
視線の先を追って振り向こうとした途端、バンッという銃聲と共に、左に衝撃をけた。
見ると、太を撃たれ、そこからが溢れていた。
「よくも…」
零は銃を下ろして傷を押さえ、視線を銃聲がした方に向ける。
そこには男が立っていた。
外を見張っていた室だった。
門の一番近くを見張っていた室は、銃聲を聞いてすぐに駆け付けた。
家のから様子を伺うと、狀況をすぐに判斷し、零に見つからないように廄舎側に回り込んでいた。
「確保ー!」
谷津田は自らの號令と共に走り出す。
<室、ようやった。挾み將棋じゃ>
室もそれに応じるように走り出す。
その二人の行を見た小泉は、しでも役に立とうと、痛みを堪えて暴れ始める。
「ふん、小賢しいですねぇ」
カチッ、カチッカチッ
零は小泉を撃とうと引き金を引くが、弾が出ない。
「弾を使い切ったんで、スライドを戻してわからなく…」
その言葉が終わらないうちに零は銃を捨て、小泉の頭頂と顎を両手で持つと、車のハンドルのように回転した。
恐るべき力で頭を捩じられた小泉は、ばたりとその場に倒れた。
「スライドオープンをわからなくしておくなんて、あなたも小賢しいですねぇ」
零は谷津田に背を向け、すぐそばまで迫った室と対峙する。
「撃つぞ!」
直前まで迫っていた室は、止まって銃を構えた。
が、零はそれでも足を撃たれたとは思えない速さで突進する。
バンッ!
零への致命傷を避けようと、し逸らして室は発砲したが、それは悪手だった。
発砲と同時に、零は間合いを詰めると、し跳ね上がった銃と手首を持つ。
手首を支點にテコの要領で銃を捻ると、あっさりと銃を奪った。
バンッ!
零は躊躇いなく引き金を引くと、室はその場に倒れた。
「室ー!」
すんでの所で部下を撃たれた谷津田に、零は銃を向ける。
このまま、玉砕覚悟で突進するか、とんぼ返りして、自分の銃を拾いに戻るか――
<銃を先に拾っておくべきじゃった。わしとしたことが…>
後者の選択にかけた谷津田の、その後悔は果たして的確なのかどうか、いずれにせよ、時すでに遅し。
バンバンッ!
谷津田はジグザグに走って、二発の銃撃を躱すことには功した。
だが、それは長く続かない。
零がさらに放った二発の弾が、谷津田の右側の腳と腕の順で撃ち抜いた。
「があああ!くそー、何しゃあがる、うがあっ、くっ…」
谷津田は突っ伏してのたうつも、それでもまだ抗おうと、そのきに紛れて、屆きかけた銃に左手をばす。
だが、零はあっという間に谷津田に駆け寄り、銃を取り上げた。
<…気付けば、誰もけるもんがおらんとは…萬事休すか…いや…まだ…>
「…どうする気じゃ、わしも殺すんか」
谷津田が観念したように言った。
「いいえ、あなたにはやってもらうことがありますぅ、ふう」
零はひとつ息を吐くと、俯せの谷津田の背中をいでしゃがみ込んだ。
「ぐうっ」
谷津田は唸るが、思いの外、零の重はそれほど伝わってこない。
<…こんな軽い一人に…抜かったわい…
田中、頼むで…>
「その前に一つ質問があります。他にまだ、誰かいますか?」
零はそう言いながら、谷津田のを隈なく探る。
「――知らん」
たった今、思い浮かべたことを訊かれ、谷津田は心ぎくりとしながらも、しらを切った。
「知らない?」
零はそう言いながら、谷津田のポケットから手錠を見つけ、後ろ手にかけた。
「ああ…」
「これでも?」
零は右橫を向いた谷津田のこめかみに銃口を押し付ける。
「知らんもんは知らん。
おるかもしれんし、おらんかもしれん」
谷津田は銃に臆せず、しでも零を揺させようと試みる。
「…まあ、いいでしょう。
あなたにやってもらうことは、ここを引き返してもらうことです」
零は谷津田の右側に立ち上がると、撃った右腕を蹴り上げた。
「がああ!」
谷津田は強引に仰向けにされ、痛みでをよじった。
「ここまで警察が來るのは、想定と言えば想定ですが、低い確率だと思っていました。
しかも、こんなに早くいらっしゃるとは、さすが、日本の警察は優秀ですねぇ」
零はそう言うも、谷津田を見下す。
「――ただ、あなた方が失敗されたからといって、次々に來られては困ります。
そこで、私の要求なのですが…」
「――日本政府はテロリストの要求は聞かん」
谷津田が零の言葉を遮った、その直後だった。
バンッ!
「痛ああ!」
銃聲と共にび聲を上げたのは、谷津田ではなく、左を撃たれた室だった。
防弾チョッキを著ていた室は一命を取り留め、反撃の機會を伺っていた。
だが、至近距離で発砲したにも関わらず、弾が突き抜けなかったことに零は気付いていた。
「室ー!」
谷津田は絶した。
「私が撃たれたと同じところに、お返ししたまでです」
「やめろ、岡嵜!これ以上、罪を重ねるな」
「あなたのせいでもあるのですよ。
私の言うことを聞かないから」
「――わかった。
たちまち…じゃない、取りあえず、要求を言ってみろ」
「私はお願いしたいのは、日本政府なんて大層なところへの要求ではありません。
谷津田さんでよろしいですか、あなたにお願いしたいんです」
「なんだ?」
「先ほど言いかけましたがね、これ以上ここに警察などが來ないように、一芝居打ってもらいたいのですぅ」
「一芝居?」
「何、簡単なことですよ。
あなたの部署に連絡して、私たち母娘を確保した、これから署に連行する、とでも伝えていただくだけで結構ですぅ」
「…そんなこと…」
「また撃ちましょうか?
水川さんとかいうも、まだ生きていらっしゃるようですし…」
「わ、わかった、わかったけえ、もう撃つな…
スーツのポケットに攜帯がある」
谷津田は顎を引いて、攜帯電話の位置を示した。
<こりゃあまずいのお…なんならヘリに戻ってから、無線で連絡し直すか…>
「ああ、ガラケーですかぁ。
これ、スピーカーフォンにはできますか?」
考えを巡らす谷津田に、零は取り出した攜帯電話を向ける。
「スピーカーホン?」
谷津田は思ってもみなかったことを訊かれ、し呆けた聲を出した。
「周りに聲が大きく聞こえる機能ですよ」
「なんじゃ、そりゃあ。
そんなこたあ知らん」
「知らん知らんと、困りましたね…
取りあえず、これは預かります」
零は攜帯電話をパンツのポケットにしまう。
「ちっ、勝手にせえ」
「おっと、勝手にかないでください」
一文句のあと、腹筋の力で起き上がろうとする谷津田を、零は制した。
「どなたかお持ちじゃないですかね?」
零は銃口を谷津田に向けたまま、倒れた室の元に行く。
「話は聞いていましたよね?」
「わかった…持っているから、もう撃つな、撃たないでくれ…」
室は痛みと恐怖で震えながら、ポケットから攜帯電話を取り出した。
「あなたは室さんというのですよね?」
「ああ」
「その時代遅れのガラケーでも、スピーカーフォンにできますか?」
「…ああ、できる…」
「そうする意味は、おわかりですよね?
「會話を聞いて、本當にかけているか、そして、相手が本かどうかを確かめたいんだろ」
「その通りですぅ。
室さんは、こちらの使えない上司とは違いますねぇ。
では、おかけいただけますか。
ああ、もうひとつ…
おかしな真似をしたら、容赦はしない、ということも、おわかりかと思いますがぁ」
零の言葉に、室は息を飲んだ。
痛みに耐えながら、上半を起こすと、周りを見渡す。
顔だけ上げて、様子を伺っている谷津田、まだにいている水川、かない尾津と小泉…
自分と同じように駆け付けていいはずの、田中の姿は未だ見えない。
「わかった…」
室は観念して、スマートフォンを作し始める。
<室…電話をかけるのはしょうがないが、時間を稼げ…
まだ田中がいる…もしかしたら、岡も…>
その谷津田の願いは葉わなかった。
この時點で全ての手駒は使い果たされ、既に詰んでいたのだから。
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アトランス界にある優秀なウィルターを育てる學校―『聖光學園(セントフェラストアカデミー)』では、新學期が始まった。神崎のぞみは神祇代言者の一族、神崎家の嫡伝巫女として、地球(アース界)から遙か遠いアトランス界に留學している。新學期から二年生になるのぞみは自らの意志で、自分のルーラーの性質とは真逆の、闘士(ウォーリア)の學院への転校を決めた。許嫁の相手をはじめ、闘士のことを理解したい。加えて、まだ知らぬ自分の可能性を開発するための決意だった。が、そんな決意を軽く揺るがすほど、新しい學院での生活はトラブルの連続となる。闘士としての苛酷な鍛錬だけでなく、始業式の日から同級生との関係も悪くなり、優等生だったはずなのに、転入先では成績も悪化の一路をたどり、同級生の心苗(コディセミット)たちからも軽視される…… これは、一人の箱入り少女が、日々の努力を積み重ね成長し、多くの困難を乗り越えながら英雄の座を取るまでを明記した、王道バトル×サイエンスフィクション、ヒロイン成長物語である。
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ケモミミ大好きなプログラマー大地が、ひょんなことから異世界に転移!? 転移先はなんとケモミミが存在するファンタジー世界。しかしケモミミ達は異世界では差別され,忌み嫌われていた。 人間至上主義を掲げ、獣人達を蔑ろにするガドール帝國。自分達の欲の為にしか動かず、獣人達を奴隷にしか考えていないトーム共和國の領主達。 大地はそんな世界からケモミミ達を守るため、異世界転移で手に入れたプログラマーというスキルを使いケモミミの為の王國を作る事を決めた! ケモミミの王國を作ろうとする中、そんな大地に賛同する者が現れ始め、世界は少しずつその形を変えていく。 ハーレム要素はあまりありませんのであしからず。 不定期での更新になりますが、出來る限り間隔が空かないように頑張ります。 感想または評価頂けたらモチベーション上がります(笑) 小説投稿サイトマグネット様にて先行掲載しています。
8 156コンビニの重課金者になってコンビニ無雙する
■ストーリー ・ある日、900億円を手に入れた。世界的規模で寶くじを運営している會社のジャックポットくじに當たったのだ。何に使うか悩んでいたが、家の近くにコンビニが無い事を不便に思い、ひょんな事が切っ掛けでコンビニを始める事にした。 (一番近いのは、二駅隣のホームセンター併設のスーパーマーケット) もっと便利に、もっと、もっと・・と便利を追及して行く內に、世界でも屈指のコンビニ重課金者となっていた。拡張し過ぎて、色々商品も増え、いつの間にかその世界では有名な”最強のコンビニ”になっていた。 そのコンビニに行けば、何でも売っている。 マッチ一本から、原子力潛水艦まで。 いつの間にか、その土地は不可侵となり、國と國との取り持ちまでする様になっていた。『なんで、そんな事に』って?そんなの、こっちが聞きたいよ……ただ単に、便利で安全で快適さを求めていただけなのに。 いつの間にかコンビニ無雙する事になった男の物語。 ---------------------- ■その他 ・少しづつ更新していく予定です。
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